新制服に隠された 客室乗務員たちの真心 その仕事は、お客様にご満足いただけるのか 客室乗務員の仕事には、機内での安全を守る保安面と、サービスを行う面とがある。加えて職場や取り巻く環境について、自ら議論を重ねる業務もあるという。お客様と接するプロであるだけに、自然と考えてしまうのが「お客様のためになるか」。そうして彼女たちが話し合い、“現場”の声を取り入れて作られた新制服には、客室乗務員の仕事への志、お客様への思いがたっぷり詰まっているようだ。文=吉州 正行  写真=小島 マサヒロ  #18 ANA 客室乗務員 村上 美冴

シンプルで洗練されたデザインの裏に 客室乗務員の声が詰まっている ANAの客室乗務員の制服が、2月にリニューアルされた。デザイナーは、ANAとしては初めて海外に求め、ニューヨークで活躍するプラバル・グルン氏にオファー。そのデザインは先進性とおもてなし、信頼感を追求したというが、実は“現場の声”も随所に取り入れられているという。「新しい制服を決めるため、現場の客室乗務員の代表として私を含めて4人が選ばれました。月に1回の会議で毎回テーマを決めて、いろいろなリクエストを出していくという業務でした」村上美冴は入社9年目の客室乗務員だ。現場の声を機能面としてデザインに反映させる仕事を任されたという。「たとえば汗染みにならないように、肩のパッドを大きくして通気性をよくしてもらったり、ストレッチを効かせて荷物を取り出しやすくしたり。あとはスカートが回らないようになど、細かい改良点をいろいろ挙げさせていただきました」かくしてシャープなシルエットである一方、着る人のことをしっかりと考えた仕上がりになった。「自分が関わったということもありますが、このデザインはすごく気に入っているんです」
社内の満足度向上が お客様への価値向上につながるか? 「インナーは、柄が施されたピンクとブルーのほか無地のブルーの3種類。スカーフはピンクとブルーを好みで選べるんです。ちなみに私はブルーが好きですね」実に20回以上の会議を経て、客室乗務員の声を届けたという。制服のデザインのみならず、村上に課せられた仕事はそれにとどまらない。職場環境の見直しやモチベーション向上施策など、実は多岐にわたるというのだ。「たとえば客室乗務員が立ち寄る事務所内の自動販売機の内容を検討したり、社内の様々な情報を周知するための社内広報を行ったり。あとは旧制服を着て思い出の写真を撮る企画や、化粧品会社様とコラボレーションして客室乗務員のためのメイク講座も企画しました」様々な内容について議論することが「すごく有意義なんです」と、村上は語る。その理由は、おそらく“自分たちのため”ばかりではない。これらの施策は、社内だけに目を向けたものではないのだ。「社内のスタッフに喜んでもらえるかということに加え、なによりお客様にとって最終的にプラスになるかどうかを考えることが重要だと思っています」あくまで村上の“本業”は客室乗務員。いつもお客様と接し、サービスの価値向上に努めることが仕事なのだ。ゆえにお客様にとっての価値向上が、モチベーションにつながるのである。
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笑顔のサービスが お客様から支持を集める理由 そんな村上が客室乗務員を志したのは中学生のとき。「グランドスタッフをしている親戚がいて、きれいで優しくて、憧れていました。また、英語を使った仕事をしたかったのも理由です」大学は英文科。在学中に航空会社のインターンシップにも参加してきたほど、客室乗務員一直線。だが思い描いていた仕事と、その実情は往々にして違うものだ。「保安面の訓練がすごくハードでした。テストも多くて、とても苦労しましたね。また、私は関西出身なのですが、しっかりと標準語を学べたこともいい思い出です。それから最初のフライトでは緊張もあったのか、気分が悪くなってしまって、インストラクターの方に冷たいおしぼりをもらいました」村上は朗らかで明るい。そんなキャラクターからか、お客様からお手紙をいただくことも少なくないという。「お客様にお手紙などでサービスについてお褒めの言葉をいただくと、励みになります。仕事で一番楽しいのは、お客様と色々なお話をするときですね。私、お客様に旅の思い出など伺うことがよくあります」
苦労も笑顔で乗り越える。 目指すはファーストクラス 村上は明るくにこやかだ。そして周囲に対してのみならず、仕事に対しても至って真摯に向き合っている。「お客様の立場に立って、ものごとを考えるように心がけています。たとえばサービスに規定がなかったとしても、お客様が現在置かれている状況を察して、なにかできることはないか、常に考えるようにしています」また自身のキャリアに対しても前向きで、仕事の幅を国際線にも広げている。「2年半くらい前からです。最初のうちはとまどいました。時差もあるので、慣れないうちはぐったりすることも多かったですね。長いフライトでは途中休憩があるのですが、最初のうちは休めませんでした」客室乗務員という夢を叶え、さらに英語も使いこなす仕事ができている。加えて、制服のデザインに関わることもできた。だが、そこで満足しない。「次はファーストクラスを目指したいです。サービスの幅が広がることで、自分自身の視野も広げられるのではと思っています。ただ、ファーストクラスを担当するには、マナーのみならず、時事問題にも精通しておく必要があるんです」