世界のあちこちで、今日もさまざまなレースが行われている。
白熱の勝負の世界は常に観客を魅了し、
その結果に人々は一喜一憂する。

ここ十勝には、北海道遺産にも登録された
ばんえい競馬がある。

正真正銘世界にひとつだけの唯一無二のレースを
この目で確かめてみよう。

Text:Ryo Kawakami(YAMAKO)
Photo:Masahiro Kojima

01 ばんえいのルーツ PM3:00

ばんえい競馬は35年以上の歴史を持ち、これまで幾多のレースを見せてきた。その希少性は別格で、世界中を探してもこの十勝でしか見ることはできないのだ。「ばんえい」は引く馬という意を持つばん馬(輓馬)に由来するのだという。元は北海道の開拓時代、農業を営む上で欠かせない労働力として重い荷を引く役割を担っていたというが、その力強さを競い合った「お祭り競馬」がばんえい競馬のルーツと言われている。

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建物の中で固唾を飲んで見守る人々。

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落ち着いた馬や、稀少の荒い馬などさまざま。

02 パドックで見る巨体 PM 3:30

レース前は通常の競馬同様、馬の状態を見ることができる。早速パドックに向かうと、あまりの体の大きさに絶句した。おそらくばん馬を初めて見る人はその規格外の大きさに圧倒されることは間違いないだろう。顔も体も、足も、何もかもが大きい。サラブレッドの平均体重は470~520kgほどだが、輓馬の体重は1トンにも及ぶのだ。さらに体重とほぼ同じ約1トンもの鉄ソリを引いて走るのだから、見た目もさることながらその強靭さは言うまでもない。巨大な体に似合わないつぶらな瞳には、静かに闘志がみなぎっている。

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騎手が馬の背中に乗るのはこのときだけ。

悠然と佇むレース前の姿。規格外の大きさに、自然と期待も膨らむ。

03 スタート PM4:00

馬券の購入が締め切られると、間もなくレースが始まる。スタートゲートにスタンバイした馬たちは、レースの始まりを待ちながら、今か今かと興奮を抑えられない様子だ。スターターが台の上から、赤い旗を左右に大きく振るとゲートが一斉に開いた——。と同時に馬たちは一斉に飛び出してくる。思い鉄ソリを引きずりながら我先に行かんと横一列に進み出す。ソリの重りがぶつかる音が激しく響き渡るなか、騎手たちは手綱を巧みに使いながらそれぞれの馬を誘導する。そして皆一同に第一障害の坂を越えていった。

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高さ1mの第一障害へ躊躇なく進んでいく。

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第ニ障害は高さ約1.7m。けん制しながら間合いを図る。

04 第二障害 PM4:01

第一障害を越えると、突然馬たちの動きに変化が見られる。そのまま突き進む馬もいれば、足を止めてしまう馬もいる。何かのアクシデントなのだろうか、レースは完全に先行馬の独走状態になってしまった。一見すれば勝負はここで決まってしまったかのように見えたが、実は違う。これはレースに勝つための重要な“戦略”なのだ。馬の目線の先には、はじめの障害よりも遥かに大きな第二障害が壁のように立ちはだかっていた。他の馬の出方を見ながら、いつ仕掛けるか。この坂を駆け上がるには、体力配分が欠かせないのだ。

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砂地が水を含んでいるかで、鉄ソリの滑り具合も変わる。

一気に攻めるか、それとも一呼吸置いて様子を見るか。互いにけん制し合う、ばんえいの人馬一体の駆け引き。
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05 ゴール前に待つドラマ PM4:02

確かに、ばんえいの“見せ場”は第二障害だろう。しかしレースのハイライトは間違いなくその後のゴールまでなのだ。第二障害の坂を登るときにスタミナを使ってしまうと、ゴールまで足が残っていない。バテた馬を尻目に、後から登って来た馬たちが次々と差して(追い抜いて)行く。ばんえいに必要なのはスピードだけではない。重い鉄ソリを物ともしないパワーと、卓越した騎手のコントロールが絶妙に合わさって初めて勝利を掴めるのだ。レースは鉄ソリの最後端がゴールラインを切るまで誰にも分からない。ギリギリの采配が勝敗を分けるのだ。

騎手と一体になるレース中は気迫の表情を、厩務員が迎えるゴール後は安堵の表情を見せる。

06 装鞍所(そうあんじょ) PM4:45

バックヤードではレース出走前の馬たちが控えている。馬体重の測定や、身体に異常が無いか確認を行う場所だ。ここではレース中とは異なる、リラックスした競走馬らしからぬ表情を覗かせていた。なかでも印象的だったのは馬の世話をする厩務員とじゃれ合う姿だ。愛情を注ぎ、時には厳しく触れ合いを持って言葉では図れないメッセージを互いに交換する。信頼関係があるからこそ、馬も人間に心を預けるのだ。そして馬具とゼッケンを背中に着けると、パドックへ向かって行った。

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バックヤードではそれぞれの厩務員が世話をする。

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レース前の馬のコンディションを確認。

07 夜のレースで見た一体感 PM5:30

陽が落ちるとばんえい競馬の雰囲気は一変する。いよいよナイターの始まりだ。照明に照らされた馬の身体は、筋肉のうねりが分かるほど躍動している。煙のように舞う激しい息づかいから、このレースが如何に過酷なものなのかが窺える。日中も凄まじかったが、坂を一生懸命登る馬の姿は、心打たれるものがあった。騎手の魂の叫びは、鞭や手綱から馬に伝わっていく。そしてゴール手前で止まってしまった馬をフェンスから身を乗り出すように応援していたのは、他でもない観客である。ばんえい競馬の一体感は、やはり唯一無二なのだ。

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照明に照らされた姿は、また別の迫力がある。

旅の風景

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    スタンド席からじっくりと観戦もできる。

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    勝負をかけた一戦の結果。

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    競馬場で見るレースは調教の集大成なのだ。

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    たてがみに個性も見られる。輓馬は実にお洒落だ。

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    1レース毎にコースは丁寧に整備される。

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    ゴールした馬の元に真っ先に駆け寄るのは厩務員。

北海道の冬の風物詩と言えば、何を思い浮かべるだろうか。

味覚も景色も楽しみたい。
そんなわがままに応えてくれるのが、ワカサギ釣りだ。

大自然を身体全体で感じながら、
広い氷上で小さな恵みを獲る。

老若男女、気軽に楽しめるだけでなく、
ワカサギ釣りならではの奥深さもあるという。

Text:Ryo Kawakami(YAMAKO)
Photo:Masahiro Kojima

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氷上に設置されたテント。ここがワカサギ釣りの拠点になる。

01 サホロ湖の雄大な風景 AM9:00

大地の暖まる前の朝方。今回のワカサギ釣りのポイント、サホロ湖に到着した。北海道でワカサギ釣りができる場所はいくつも点在する。宿泊場所や日程に合わせて組み込めるのも魅力のひとつだが、なんと言ってもこの広大な氷上で釣りをするという解放感は、他の釣りとは完全に別物の体験。小さな獲物を狙いに全国から人々が集まるのだ。

眩しく輝くサホロ湖の氷上に立つと、この下に湖があるなど、全く想像もつかなかった。

02 レクチャー・穴あけ AM9:15

当たり前のことだが、ワカサギ釣りには穴が必要だ。厚く張った氷は30~50cmほどで、ポイントを決めて専用の手動ドリルで氷に穴を開けていく。ガイドの高橋さんは「女性でも簡単に開けられますよ」と言うが、これが意外にも力を使うのだ。普段使わない筋肉を稼働させて、しばしドリルを回していると、突然ガコッと氷にぽっかり穴が開いた。中を覗くと氷の下に隠れていた水面が姿を現した。いよいよ恵みの入口ができあがった。

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穴を開けたら釣り竿をセッティングする。

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ガイドの高橋さんは、餌の付け方などすぐにサポートしてくれる。

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    重りは、一旦湖の底まで落とす。

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    ドリルを使って一気に穴を開ける。

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大人3~4人が入れる大きなテント。風の強い日でも安心だ。

03 暖のある釣り場で AM9:30

午前中のワカサギ釣りは常に氷点下の世界。中途半端な装備ではワカサギとの戦いを乗り越えることはできないが、北海道では防寒用テントを使用するケースがほとんどだ。中にはストーブも完備されていて、暖かい空間でワカサギ釣りができるとくれば、寒さが苦手な人でも安心して楽しめるだろう。この日は数組ワカサギ釣りに来ていたが、隣のテントから「おお~!」と歓声が上がると、こちらも負けじと急いで餌を付け始めた。

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04 氷穴とにらめっこ AM9:50

細竿から垂らした釣り糸は、吸い込まれるように氷下の水の中へ入っていった。まずは重りを湖の底まで落として、深さを考えながら魚のいる場所を探していく。時折竿に振動を与えながら、針に付けた生き餌の香りを広げて誘い込む。小さな揺れを見逃さず、細竿の微かな“しなり”を静かに待つ。すると、ものの数秒で微かに竿が揺れ始めた。焦る気持ちを抑えつつ、魚が針にかかるのを確かめながらゆっくりと引き上げていく。竿から重さを感じると疑心は確信に変わる。そして2匹の小さなワカサギを釣り上げると、歓声が湧き上がった。

05 ワカサギ釣りのコツを掴む AM10:30

面白いように釣れた。コツを掴んだのか餌を付けて針を落とすと次から次へと竿が反応する。揺れ具合をみて、「これはまだだ」「もう少し我慢だ」と自分なりに感覚を掴んでいくのも面白いところだ。さらに重さや餌を変えると、当たり具合にも変化がみられるのだ。大きなワカサギが釣れると、竿がしなる度に次第に魚の数よりも大きさを楽しむようにもなっていった。釣れかけたワカサギに逃げられるアクシデントに見舞われながらも、手応えと笑いの絶えない時間は流れていった。

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    元気なワカサギがテンポよく釣れていく。

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    大きなものでは10cmを超えるものもある。

獲れ高の判断基準は、どのテントが盛り上がっているかだ。自然と竿を握る手にも、思わず力が入る。

06 大物の予感 AM11:00

体験も終了に近づいた頃、また竿がしなり始めた。だが様子がおかしい、今度のアタリは今までの比ではなかった。早めに糸を引き上げようとするが、向こうも必死に抵抗する。明らかにワカサギではない。現場に緊張感と異様なテンションが広がり、得体の知れない相手との攻防戦が繰り返された。そして水面に近づくと、激しく暴れながらその姿を現した。「ニジマスだ!」まるでお宝を掘り当てたような、そんな歓喜が湧き上がった。

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ニジマス。まれに釣れることがあるという。

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短い時間でも十分に獲れ高は期待できる。

いつしか、童心に返って大きい当たりに歓喜する。ワカサギ釣りは、宝探しにも似た感覚だ。
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サクッとした衣の食感と、塩をまぶした新鮮なワカサギは美味。

07 小さな味覚 AM11:30

獲れたてのワカサギを、その場でフライにして食べる。鮮度はもちろん、身が引き締まったワカサギを氷上で食べることができるのは、勝者が味わえる冬の贅沢と言えよう。熱々に揚げられたワカサギに塩をまぶしたシンプルな一品。氷点下ではすぐに冷めてしまうため、猫舌であっても熱いうちに食べるしかなさそうだ。急いで口に運ぶと、熱さと旨さが口のなかで交互に押し寄せ、思わず笑みがこぼれる。氷上のエンターテイメントは身も心も温かく満たしてくれた。

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    ガイドさんが絶妙な揚げ具合を見極める。

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    獲れたてのワカサギをサッと揚げる。

旅の風景

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    氷上の雪はパウダースノー。

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    余分な氷は、釣り糸にかからないよう取り除く。

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    アドバイスを受けながら、自ら竿の調整をする。

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    釣れるイメージを浮かべながら餌を針に付ける。

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    夏の景色が想像できないほど、雪に覆われている。

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    小さなリールは子どもでも簡単に扱える。

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