一柳「前期の傾向をもとに分析をします。最新の解析ツールのおかげで数字がわかりやすくなってはいるものの、傾向だけでは判断の難しいところが多々あります。そこでひとつのデータを様々な角度から見て、お客様のニーズを汲み取るのです」
その隣のウェブディレクターの南雲浩二は、「サイトを見て、再び戻ってきたお客様に、どんな情報を見せるか」ということに頭を悩ませているという。
南雲「新しいマーケティングツールにまだ慣れていないということもありますけどね(笑)」
この日のANAで行われていたのは、ANAの公式ウェブサイト「ANA SKY WEB」に関連するスタッフが集まる会議だ。4月から始まったばかりだというこの集まりでは、ウェブサイトをデジタルマーケティングの観点から「どうすればよくなるか」について考える。社内の担当者に加え、外部のコンサルタントやスペシャリストを招き、総勢20名弱が会議室でひしめき合いながら闊達な議論を行うのだ。
会議の口火を切ったのは、ANAシステムズでデータ解析を行う一柳昌也。いわく、「ウェブでチケットを購入したことがない人は、旅割をあまり買っていない」のだそう。
一柳「お客様にはいろんなニーズがありますから、成功するパターンは続かないんです。『Right message to Right person at Right time』(適切なとき、適切な人に適切なメッセージを)を原則に、お客様にどう“おもてなし”するかを日々考えています」
ちなみにこの日の会議ではテストを始めて、ようやく仮説通りの結果が出たことが共有された。思い通りの結果が出ないながら、着実に成果は上がっているのだ。
山下菜津子「この会議は、数値化した目標をチームで共有する目的もあります」
山下はANAマーケットコミュニケーション部で、国内・国際路線に関するコンテンツマーケティングを担当している。お客様のアクションをもとに、その行動を指数化したものが、ウェブサイト作りの指針になるという。改良には、“根拠”が必要なのだ。山下の後輩にあたる高橋由香はこう続ける。
高橋「たとえばこのビジュアルとこの文言なら、こう感じてもらえそう…と仮説を立てるんです。そこで見た目や文章の違う2パターンをテストして比べるんですが、予想外の結果が多く出ます。そこでただ『残念だったね』ではなく、今後に役立つ判断基準になると考えています」
南雲「僕は2000年代初頭からANAのウェブサイト作りに携わってきたのですが、できることも規模も変わりましたね。当時は、写真を掲載するとデータ容量が増えて読み込みが遅くなるため、イラストを使うことが多かったんです。そのイラストを描いたこともありました」
山下「手作業が多かったですし、判断の基準もあいまいでした」
それから10年以上が経ち、指数をもとに、おもてなしを追求する姿勢にあらためた。その結果、ウェブサイトの閲覧数や売り上げなど、トータルバランスを評価する日本ブランド戦略研究所主催のアワード「Webサイト価値ランキング」で、ANAは今年まで3年連続で1位に輝いている。
高橋「評価されたから偉いわけではありませんが、携わっている身としてはやはりうれしいですね」
一柳も「目指しているわけではなかったけれど」というものの、モチベーションとしては大きいようだ。なにせウェブサイト作りは、お客様との接点のない仕事。ANAシステムズの陣山夏子もこう語る。
陣山「たとえばこの2月にANAが制服をリニューアルしたのですが、その告知サイトを担当させていただいたんです。ほぼ初仕事だったのですが、知人からの反響がすごくうれしかったですね」
テストがうまくいったからといって、アワードを取ったからといって、ウェブサイト作りに終わりはない。日々改良を重ねているのだ。
山下「ゆくゆくは、お客様がほしい情報を先回りしてご案内できるような機能が作れないかと考えています。売り上げに直結しなくても、お客様の利便性に繋がる部分ですよね。ANAのおもてなしを、ウェブのなかでも表現できないかと思うんです」
高橋「4月にサイトをリニューアルしたばかりなんですが、PCとスマホで見えている情報が同じという『レスポンシブ・ウェブデザイン』を採用したんです。そこは他社にはない強みかなと思いますね」
“強み”という点では、サイトの設計ばかりではない。ANAならではの仕事の手法についても、彼らは大いに自信を持っているようだ。
一柳「私は分析という裏方の仕事をしているので、お客様に直接何かをお届けできるわけではありません。マーケットコミュニケーション部においては、目標を数値化して、都度データを見て判断する文化が定着しているので、そのデータをよりわかりやすい形に表現することで、お客様にとってこれまで以上に使いやすいウェブサイトになるようにしていきたいですね」
陣山「今は新しいマーケティングツールを導入してから日が浅く、問題がいろいろある時期だと思っています。今後は日本のみならず海外のANAサイトの最適化など、やりたいことはいっぱいあるので、今はそのための地盤作りの時期なのかなと思っています」
南雲「すごく横のつながりが強いんです。この規模の会社では、なかなかないことだと思います。最近この会議が始まって、一体感がさらに強まったと感じています。こういうところが、チームで仕事をする感覚なんですかね」
- ANA マーケットコミュニケーション部
- 山下 菜津子/高橋 由香
- ANAシステムズ WEBシステム部
- 一柳 昌也/南雲 浩二/陣山 夏子