BOEING787就航10周年BOEING787就航10周年

Interview2022/02/10更新

多くの人との出会いをくれた787

ボーイング787の初期指導要員として訓練業務に従事し、新規路線の開設などにも携わった駒田機長。

「初めての787出会い、そしてその印象」
駒田さんの787との初めて出会いは、動画を通してだったという。その時787に感じた印象は「長細い両翼が見事にしなっていて、なんと美しいフォルムなんだ」であったそうだ。滑走路への見事なアプローチをしている787を、正面から撮影されている映像を見て、自分が操縦する姿を思い描きながら「どんな操縦感覚なんだろうか」と、とてもワクワクしていたのを覚えているという。

ANAでの定期便就航は、当初の予定から数年遅れていた。しかし2011年秋からの就航が決まり、いよいよ787の「パイオニア」と呼ばれる初期指導要員約40名の訓練が、その年の初めから次々と始まっていた。駒田さんは、第1陣である777からの移行コースに続く第2陣、767から移行するメンバーの一人だった。

当時を振り返って「要員指名を受けた時は、思わず飛び上がって喜びました。まるで宝くじにあたったかのようだった」という。宝くじの高額当選はないそうだが、それほど「思いも寄らぬ」出来事だったのかもしれない。

ANAの787の初期指導要員となる「パイオニア」メンバーに訓練をする教官が、既に日本にいたわけではない。訓練は地上座学の途中段階から、米国ボーイング社のお膝元、シアトルで行われていた。しかし、新機種であるが故、訓練資料などで動画、写真を目にすることはあっても、間近に自分が乗務する航空機を目にすることはほとんどなかった。ある日、訓練の合間を縫ってジョギングをしていた時に、空を見上げると787が試験飛行をしていたのが見えたという。後から思えば、それが初めての「リアル787」なのだが、その時は「あれが787か。本当に自分が操縦できるのか?」くらいのイメージだったらしい。基本的に操縦訓練もシミュレーターを使って実施されるので、実際に787を間近で見る機会はなかなかなかった。

787の移行訓練のメンバー(駒田さんはいちばん右)

そんな訓練生を見かねたのか、7月の後半の訓練の合間のある日、ボーイング社が製造中の航空機を見に機体工場へ案内してくれた。「ただ、ただ、子供のように大興奮だったのを覚えています。これが間も無く日本の空を飛ぶ。それも自分達の操縦で」目の前で圧倒的な存在感を放つ787に押されながらも、気持ちの高まりを感じたという。それから後、実機訓練もシアトル、モーゼスレイクで経験したが、いわゆる試験機であり、キャビン内はバラストと呼ばれる水の入ったタンクの重り、そして飛行データを集める大勢の技術スタッフと検査器ばかりで、完成した旅客機と言える代物とはなかった。

いわゆる「最新型旅客機787」としての姿と出会ったのは、訓練が終わり日本に帰った9月28日のことで、その時にはキャビン仕様も完璧に整えられており「こんなに美しく出来上がるものだ」と感心したという。特別塗装の初号機をハンガーに入れてマスコミ向けに公開するイベントがあったが、駒田さんもパイロットの担当としてコックピット内を案内した。説明をしながら「同じ航空機として、これまで乗務してきた機種と比べて、ここまで進化しているのは驚きだ」と、何度もその性能と安全の高さを説明したと、懐かしそうに語ってくれた。

「ANAの国際線ネットワークを支える787」
2011年11月1日に初めての国内線定期便として就航し、2012年1月には国際線定期便を就航させている787。現在77機を所有し、世界39地点を結ぶ、ANAの国際線ネットワークを中心的に担う、ANAのメインフリートとなっている。

駒田さんは、当初から初期指導要員の路線訓練担当として、新規就航路線にも数多く乗務し、新規路線の安定運航の定着に携わってきた。そのため、世界各都市へ乗務することが多かったが「私の知っている限り、ANAの中で1番、いえ世界中で1番『ウォーターキャノン』を浴びた機種だと思います」という。その通り787は、2010年代にANAがそのネットワークを拡大する際の原動力となった。

2015年ベルギー・ブリュッセル空港への初就航時の歓迎の「ウォーターキャノン」

1986年から国際線定期便を就航させていたANAは、すでに747や777で各エリア、各国の大都市にはネットワークを伸ばしていた。しかし、軽量で強靭な炭素繊維素材を駆使し、燃費もを大幅に抑えた中型機である787は、いわゆる「セカンダリー」と呼ばれる中型都市への就航を可能にした。そのような就航都市では、日本の航空会社である「ANA」など聞いたこともなく、その名もなき航空会社がボーイングの最新鋭機を運んでくるといことに、驚きを持って迎えられた。「世界でもまだ珍しいボーイング787は、世界中の空港で好奇の眼差しで、そして温かく迎えられました。」着陸後に管制塔から通常とは違った遠回りのタクシーウェイを案内され、見学に訪れた大勢の人、空港で働くスタッフに対して「凱旋」したり、到着スポットに大勢の他社担当のハンドリングスタッフが待ちわびて、たくさんのカメラシャッターを浴びながらスポットインいたり、と、世界中の空港で様々な形で歓迎されたそうだ。「パイロット冥利に尽きる瞬間を経験させてもらいました。コックピットから手を振る時は、本当に映画のヒーローになったかのような気持ちでしたね(笑)」

2019年のインド・チェンナイ空港初就航時の歓迎の「ウォーターキャノン」

「多くの人との出会いをくれた787」
駒田さんは路線訓練の教官として、自分の後から移行してくるコースのパイロットの訓練を担った。「もちろん、教官・指導員としての立場であるけれど、787は新機種であるので、私自身も787の操縦経験は多くはありません。特に初期の頃は、いわゆる操縦術を指南するというよりも、一緒に操縦を経験し、新しいシステム・航法を共有していくという形でした。よって、移行コースのパイロットとより深くコミュニケーションをとることが多かったですね」と、指導者と受訓生という以上に、実運航経験しながら、一緒に787の訓練を作り上げるという関係だったようだ。また運航を通して初期的な小さな不具合というのも、当然出てくるので、整備士とのコミュニケーションも入念に行われた。787は美しい飛行機というイメージを持つ一方で、日々パイロットとして、さまざまな人と関わりながらの勉強が続いたそうだ。

また、いわゆる「オペレーション」だけではなく、最新鋭機787という機種だからこその「人との出会い」を非常に多く経験したという。一般的にパイロットはお客様を目的地まで安全に、快適に、時間通りに運ぶことが、一義的であり、かつ最大なミッションであり、定期運航以外に携わる人との出会いの数は限られてくる。しかし新規就航都市では、迎え入れてくれる空港・営業スタッフとの繋がりもできたという。現地でスタッフと食事に行った際には、『その路線を知ってもらうために何か盛り上げる方法はあるか?路線を育てていくにはどうしたらよいか?といった相談まで受けました』と笑いながら語った。さらには、787は2011年3月に発生した東日本大震災の復興応援フライトとして、宮城県・福島県の子供たちを招待した体験フライトを実施しており、その両方のイベントで乗務した駒田さんは、ANAのスタッフはもちろん、航空局、県職員、空港会社関係者、搭乗のお子様も含め、さまざまな人と関わることとなった。

「本当に787のおかげでたくさんの人に会えることができ幸運だったし、有難い、貴重な経験をさせてもらった。パイロットとしてだけでなく、本当に「人」として成長できたと思う。特にANAグループのスタッフと一緒に体験した取り組みを通して、うちの会社の良さも改めて気づいたし、熱い気持ちを持った仲間のことが本当に好きになりました。これは今日にお話したかったことの1つです」と、駒田さんはしみじみと振り返っていた。

「10年を経ての787」
「就航開始から10年が経ったがバッテリーやエンジンなどの不具合が発生し、お客様にご迷惑をお掛けしてしまった」と恐縮した面持ちで、就航した後の10年を振り返った感想は?との質問の投げかけに対して、駒田さんは静かに切り出した。「世界で初めて飛ばした新型の航空機なので初めから完璧な事はありません。運航を続ける中で初期的不具合も出てくる。我々パイロットは、日々様々な訓練を続けており、航空機を安全に地上に降ろすということは安心していただきたいが、不具合により、遅延や欠航が発生する時は非常に申し訳なかった。ただ、誤解を恐れずに言えば、自分たちにとってはもっと787をより専門的に掘り下げて調べられたため、787について深く知る機会になり、大変勉強になった事も多かったし、一緒に成長してきた気がします。」

旅客機にとって一番大事なのは、運航中の安全性である。ひとたび航空機事故が発生すると、燃費を含めた経済性、機内での快適性など、その意味を失う。そういった意味で、787のローンチ会社としてボーイングに選ばれたANA、そしてその期待を裏切らなかったANAと言えるのではないか。駒田さんは「ANAのパイロットやオペレーションサポートチーム、特に整備は「787」という飛行機の成長、「787」を名機に育て上げる事に、大きく貢献ができたんじゃないでしょうか」という言葉で締めくくった。

プロフィール
駒田 拓也(こまだ たくや)
ANA FOCボーイング787部 副部長
ボーイング787/777機長

1992年全日本空輸(株)入社。
地上職研修を経て熊本空港の訓練所で訓練

  • 767副操縦、747-400副操縦士、767機長(2004年)
  • 2010年9月に787への機種移行の発令を受ける
  • 路線教官機長として、パイロットの養成に関わっている。
  • 現在はボーイング787・777の2機種乗務

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