環境目標と情報開示
ANAグループの環境目標
「2030年 中期環境目標」と「2050年 長期環境目標」
- 新たなテクノロジー等も活用しながら航空輸送事業の脱炭素化への対応をすすめる一方で、データ資産の活用等による収益機会拡大もはかりながら、グループ社員の雇用を守っていきます。そのために、上記の取り組みに加え、航空事業の環境対策に特化した専門組織の立ち上げ、デジタル専門人材養成のための新たな教育の実施、さらには「ANA Future Promise」を通じたお客様とのコミュニケーションや労働組合との対話の強化等も行っています。さらには、脱炭素化のために不可欠なSAFの安定調達に向けて、日本政府の政策策定への働きかけも行っており、「クリーンエネルギー戦略(中間整理)」にも我々の意見が反映されています。
「2030年 中期環境目標」進捗と実績
航空機の運航におけるCO2排出量の削減
15.1%(1,047万トン)
- 目標 2030年度
- 2019年度比
10%以上削減(約1,110万トン以下)
(実質) - 2023年度 実績
- 15.1%削減
1,047万トン
航空機の運航以外で発生するCO2排出量の削減
21.4%削減
- 目標 2030年度
- 2019年度比33%削減
- 2023年度 実績
- 21.4%削減
資源類の廃棄率の削減(プラスチック・紙など)
49.0%減
- 目標 2030年度
- 2019年度廃棄量比 70%以上削減
- 2023年度 実績
- 49.0% 減
食品類の廃棄率削減(機内食、国内ラウンジミールなど)
4.3%
- 目標 2030年度
- 廃棄率3.8%以下
- 2023年度 実績
- 4.3%
その他環境目標
大気汚染対策
全機適合
- 目標
- 航空機(リース機を含む)の全機ICAO排出ガス基準適合 100%
- 実績
- 全機適合
低公害車割合58.2%
- 目標
- 低公害車(*)の導入割合 前年比改善
- 実績
- 低公害・低燃費車(*)
グループ全社の自動車全保有数割合 58.2%
(前年:35.2%)
- 燃料電池車(FCV)、電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)、排ガス規制適合車
騒音対策
全機適合
- 目標
- リース機を含め全機ICAO騒音基準チャプター4に適合 100%
- 実績
- 全機適合
生物多様性
- 目標
- 生物多様性の保全促進
- 実績
- サンゴ保全活動/外来植物防除活動/違法な野生生物の取引撲滅を目的としたセミナー/ANA こころの森プロジェクト
エコ・ファースト認定企業として
環境への取り組みと、社会的責任を重視する企業姿勢が高く評価され、ANAは2008年に環境大臣から運輸業界・航空業界として第一号の「エコ・ファースト企業」に認定されました。
また、地球温暖化対策に資する環境省主導の「COOL CHOICE」に賛同し啓発活動に取り組んでいます。さらに、2018年には環境省主導の海洋プラスチックごみの削減を目指す「プラスチック・スマート」フォーラムに参加しました。
TCFD提言に沿った情報開示
ANAグループは、2019年3月にTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures=気候関連財務情報開示タスクフォース)による提言への賛同を表明し、TCFD提言に沿った情報開示を行っています。引き続き同提言に沿って開示内容の充実に努めてまいります。
ガバナンス
「環境」はANAグループが特定する重要課題の一つであり、気候変動を含む環境課題への対応については、ANAホールディングス株式会社代表取締役社長を総括、ESG経営推進の最高責任者であるチーフESGプロモーションオフィサー(CEPO)を議長とし、当社およびグループ会社の取締役・執行役員、ならびに当社常勤監査役を委員とする「グループ ESG経営推進会議」を設置し、気候変動を含む環境課題にかかわる重要方針や施策についての議論、目標に対する進捗のモニタリングを年4回行っています。また同会議の傘下には、CO2削減策や取り組み、進捗状況を報告、議論する「エコ・ファースト部会」(航空機の運航関連)、「地上エネルギー部会」(航空機以外の地上関連)を設置しています。経営戦略にかかわる重要な環境課題は「グループ経営戦略会議」にて議論、審議し「取締役会」に上程しています。取締役会は、気候変動課題を含むグループ全体の経営方針や目標を定めつつ、当社グループ各社の経営および業務執行を監督する役割を担っています。
ANAグループでは、ESGにかかわる社外有識者の皆様との定期的な対話から、最新の社会要請や関心の変容などをタイムリーに把握、事業や社会におけるインパクトを評価し、経営戦略に取り入れた上で取り組みに反映しています。
グループ各社にESG経営推進の責任者およびグループESG経営推進会議のメンバーとしてESGプロモーションオフィサー(EPO)、組織のESG経営推進の牽引役としてグループ各社・各部署にESGプロモーションリーダー(EPL)を配置し、取締役会、グループ経営戦略会議、グループESG経営推進会議で議論・決議・報告された事項は、EPOならびにEPLとの密接な連携のもとにグループ全体で共有、実践されます。EPLに対しても、年2回のEPL会議を通じて、包括的に情報を共有するとともにグループ各社・各部署における取り組みの促進につなげています。
また、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するために、ESG経営の推進状況を客観的かつ多面的に把握し、「CO2排出量」や「ESG外部評価指標」等を評価指標とし、役員報酬にも反映させています。
詳細は、こちらをご覧ください。
これまで取締役会で上程・報告された気候変動問題に関する事案(例)
- 環境(各種)方針・中長期環境目標の策定、年度実績
- TCFD提言に沿った情報開示
- 2050カーボンニュートラル実現に向けたトランジション戦略の策定
- 中期経営戦略への気候変動の組み込み
- 気候変動問題への取り組みに関する進捗
戦略
気候変動が当社グループ航空事業に与えるリスクと機会を特定し、収入および費用へのインパクト評価および対応策の検討を目的として、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)および国際エネルギー機関(IEA)による4℃と1.5℃のシナリオ*1に基づき、シナリオ分析(RCP8.5,RCP2.6,IPCC第6次報告書,SDS,NZEシナリオ,NDC)を実施しました。分析の対象期間は、「ANAグループ中長期環境目標」で設定した2030年から2050年までとしています。
- *1.
- 4℃シナリオ
現状を上回る温暖化対策をとらないことにより、産業革命時期比で気温が約4℃上昇し、気候変動による「物理的」変化に関するリスクが顕在化するシナリオ - 1.5℃シナリオ
抜本的なシステム移行が達成されることにより、産業革命時期比で気温の上昇が1.5℃未満に留まり、低炭素経済への「移行」に関するリスクが顕在化するシナリオ
- 4℃シナリオ
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事業への影響規模の算定手法と中期および長期の財務インパクト
シナリオ分析で財務インパクトを大(年間100億円以上)としているリスクと機会について、中期(2030年度)と長期(2050年度)の単年度の財務インパクトを試算しました。その算定には潜在的リスク・不確実な要素・仮定を含んでいますため、それらの変動により実際の影響度が大きく異なる可能性があり、環境の変化を適時に反映して評価してまいります。
- *2. 財務インパクト:
特定したリスクが起こった場合の財務へのインパクトを、「大」「中」「小」の3段階で定性的に評価しています。そのうち「大」と評価しています項目について、それぞれ中期(2030年度)と長期(2050年度)の単年度に見込まれる財務インパクトを区別して算定しています。
大:100億円/年以上、中:10億円/年以上~100億円/年未満、小:10億円/年未満 - *3. オペレーションコストの増加や災害による機体・施設の被害復旧費用の増加を含みません(今後検討予定)。
- *4. 参照:
IPCC第6次報告書Climate Futures, Infographic TS.1, Infographic TS.1 in IPCC, 2021: Technical Summary. In: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Chen, D., M. Rojas, B.H. Samset, K. Cobb, A. Diongue Niang, P. Edwards, S. Emori, S.H. Faria, E. Hawkins, P. Hope, P. Huybrechts, M. Meinshausen, S.K. Mustafa, G.-K. Plattner, and A.-M. Tréguier, 2021: Framing, Context, and Methods. InClimate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change[Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S.L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M.I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T.K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu, and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, pp. 147-286, doi:10.1017/9781009157896.003.] - *5. SAF(Sustainable Aviation Fuel):原材料の生産・収集から燃焼までの過程で、CO2の排出量が少ない持続可能な供給源から製造されるジェット燃料
- *6. SAF価格動向予測に英国政府資料"Sustainable Aviation Fuels Mandate-Consultation-stage Cost Benefit Analysis"(2023)を利用しています。
- *7. クレジット:CO2削減効果を定量的に示し、排出権として取引できる形態にしたもの
- *8. ネガティブエミッション技術でつくられるクレジットの価格をCORSIA適格クレジットの価格と同等と仮定して財務インパクトを算出しています。
- *9. DAC(Direct Air Capture):大気からCO2を直接回収する技術
- *10. 削減を見込む燃油調達費用の算出に2023~2025年度中期経営戦略に用いています2025年度の燃油価格(USD120/bbl)と、直近の収支計画に用いています為替レート(140円/USD)を使用しています。
- *11. CO2排出量を、国際民間航空機関(ICAO)の国際航空におけるカーボンオフセット制度(CORSIA)の排出係数と同じ3.16kg-CO2/kgを用いて算出しています。
移行計画
ANAグループは、2030年度の中期環境目標および脱炭素社会の実現に向けたトランジション戦略を見直し、2050年度までのカーボンニュートラルへ向けたトランジション・シナリオを更新しました。2030年度までに、国際線・国内線合わせてCO2排出量を2019年度比で実質10%以上削減していきます。目標達成のため、SAFの活用を中核とする4つの戦略的アプローチ(運航上の改善・航空機等の技術革新、SAFの活用等航空燃料の低炭素化、排出権取引制度の活用、ネガティブエミッション技術*1の活用)を組み合わせ、経済合理性との両立も追求しながら、2050年カーボンニュートラルを実現してまいります。
2030年度
排出量実質2019年度比10%以上削減への道のり
- 国際民間航空機関(ICAO)総会での国際航空の削減目標の見直し前提
- 消費燃料の10%以上をSAFへ置き換え
- 排出量削減内訳
技術革新 15%/SAF活用 6.5%/排出権取引制度の活用 11.5%/NETs 1%
2050年度
排出量実質ゼロへの道のり
- NETsによるカーボンネガティブ
- 排出量削減(100%) 内訳
技術革新 20%/SAF活用 70%/NETs 10%
- *1. Negative Emissions Technologies (NETs):大気中のCO2を回収・吸収し、貯留・固定化するCO2除去技術
詳細は、こちらをご覧ください。
財務計画
ANAグループは、トランジション戦略の実行を目的とした資金調達を行うために、2022年8月1日に「グリーンボンド・フレームワーク」を策定しました。調達資金の使途は、SAFの購入、SAFの調達量拡大につながる出資・投資、ネガティブエミッション技術の活用のための出資・投資に充当します。
グリーンボンド・フレームワーク PDF 新しいウィンドウで開く。外部サイトの場合はアクセシビリティガイドラインに対応していない可能性があります。
リスク管理
リスクマネジメント体制
取締役会で決定された基本方針のもと、当社グループにおけるリスクマネジメントに関する基本事項を規定した「ANAグループ・トータルリスクマネジメント規程」に基づき、「グループESG経営推進会議」にて基本政策の立案・発議、進捗のモニタリングを行っています。
グループ各社においては、ESGプロモーションオフィサー(EPO)を推進責任者、ESGプロモーションリーダー(EPL)を推進実行者として、リスクマネジメント体制を構築しています。
気候変動に関するリスクについても、重要なリスクと認識しており、トータルリスクマネジメントの仕組みの中で取り扱っています。
トータルリスクマネジメントの仕組み
グループ各社において、リスクの極小化を目的としてリスクマネジメントサイクル(リスクの洗い出し→分析→評価→管理・対策の検討・実施→モニタリング)の仕組みを構築しています。
グループ各社で、毎年事業毎にリスクアセスメントを実施することにより洗い出された重要なリスクについては、対策の進捗・効果、達成レベルを確認・評価するとともに、グループ全体で取り組むべきと判断された気候変動に関するリスクを含む課題については、グループ総務部が中心となって対策を講じ、その進捗を「グループESG経営推進会議」で報告しています。また、グループ全体の方針や戦略に反映させる必要があるものは、取締役会に対して上程しています。
ANAグループの主要なリスク
- 「安全」が毀損・阻害されること
- 感染症による影響
- 気候変動問題への対応
- 国際情勢の不安定化
- システム障害の発生
- 情報漏洩
- 人権リスク
- 自然災害の激甚化
- 為替・原油価格・金利等の市況変動
- 競争力の強化や新たな成長に向けた投資
- 人口減少による既存市場の縮小、労働力確保の困難
- 陸上交通機関との競争激化
指標と目標
当社グループでは、「2050年 長期環境目標」を掲げ、2050年度までにカーボンニュートラルを宣言するとともに、これを具現化するための道筋として「2030年 中期環境目標」を設定し、環境負荷低減への取り組みを進めています。
CO2排出にかかわる「ANAグループ中長期環境目標」
2030年目標 | 2050年目標 | |
---|---|---|
航空機の運航で発生するCO2排出量 | 2019年度比10%以上削減(実質) (約1,110万トン以下) |
実質ゼロ |
航空機の運航以外で発生するCO2排出量 | 33%以上削減(2019年度比) | 実質ゼロ |
詳細はこちらをご覧ください。
CO2排出量削減の取り組み
実績
インターナルカーボンプライシング(ICP)
環境省による「令和4年度インターナルカーボンプライシング(ICP)を用いた投資決定モデル事業」に参加しました。
将来的には、幅広い施策に対し、カテゴライズした複数のICPを設定・運用することで規制対応および目標達成に向けた有用性・実効性の高い運用(投資判断への適用)を目指しています。
その他 気候変動に関する情報開示
CDP(カーボン・ディスクロジャー・プロジェクト)の評価
CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)による評価は、投資家からの要請による温室効果ガス排出量や気候変動に対する企業戦略の情報開示を目的としています。ANAグループでは2016年より、グループの温室効果ガス排出量を省エネ法の基準に従ってスコープ1、2、3に分類し、第三者認証を得たものを開示しています。この度、気候変動に関するコーポレートサステナビリティにおいて、CDPより2023年の「Aリスト企業」に選定されました。最高評価の「Aリスト企業」に選定されたのは2022年より2年連続となります。(業界平均はB評価)
CDP2023気候変動において、エアライングループとして唯一最高評価の「Aリスト企業」に2年連続で選定 新しいウィンドウで開く。外部サイトの場合はアクセシビリティガイドラインに対応していない可能性があります。
SBT(Science-Based Targets)
科学的根拠に基づいて設定された当社の温室効果ガス(CO2)排出削減目標が、国際的なイニシアチブである「Science Based Targetsイニシアチブ (SBTi) 」より、2022年11月にSBT(science-based targets)として認定されました。SBT認定を受けるのは、アジアの航空会社で初めてです。ANAグループは、この目標を道筋とし、引き続き「2050年 ネットゼロ」にむけ、ESG経営における価値創造を推進してまいります。
アジアの航空会社で初めて温室効果ガス(CO2)排出削減目標のSBT認定を取得 新しいウィンドウで開く。外部サイトの場合はアクセシビリティガイドラインに対応していない可能性があります。
2024年7月16日時点
対象 |
Science-Based targets(目標) |
年度 |
||
---|---|---|---|---|
航空機輸送 Well to Wake*1 |
2019年度を基準に2030年度までRTK*2あたりのCO2排出量(原単位)を29%削減 (目標値 0.658 kg-CO2/RTK) |
2019 |
2022 |
2023 |
0.926 kg-CO2/RTK |
1.100 kg-CO2/RTK |
1.082 kg-CO2/RTK |
||
航空機輸送以外 施設・車輛 |
2019年度を基準に2030年度までにCO2排出量を27.5%削減 (目標値 91,082 CO2トン) |
2019 |
2022 |
2023 |
125,631 CO2トン |
94,685 CO2トン |
96,997 CO2トン |
- *1: 燃料の生産から、輸送、航空機での燃焼(使用)までのプロセス全体の排出
- *2: 有償輸送トンキロ(Revenue Ton-Kilometers)100kg/旅客一人あたり