徳島県に位置する神山町は、山と川の大自然に囲まれた高齢化の進む田舎町。しかし、田舎町といってもIT関連企業やクリエイティブな職種の人々が続々とサテライトオフィスを構え、特異な存在感を放っているエリアでもあります。ここにあるのは、スキルを持つ個々人が互いを尊重し合いゆるやかにつながる空気感と、「来るもの拒まず去る者追わず」の精神で人々を受け入れる土壌。そうして人が人を呼び、地方創生の町として全国から注目を集めています。そんな神山町の、オススメの滞在施設や必見スポットを、そこに暮らす魅力あふれる人々とともに紹介します。
若者が集い、新しい働き方が生まれる山あいの町・神山
神山町に到着し、最初に訪ねたのはNPO法人グリーンバレーの砂田莉紗さん。コワーキングスペースと貸しオフィスの機能を持つ施設「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」の管理運営を行っています。
砂田さんに案内していただいたのは、町内に点在するサテライトオフィス。外観はとても年季の入った古民家でも、よく見ると中はオフィスになっています。その多くが東京都内に本社を持ち、神山町に支社を置いている企業です。働いているのは地元で採用された人や、都心から移住した人などさまざまだそう。周囲はとても静かで、歩いて数分の場所には清流・鮎喰川が流れています。
ひときわ目を引くこちらの「えんがわオフィス」は広々とした縁側が特徴的。放送・配信事業に関するコンサルティングやシステム開発を⾏う株式会社プラットイーズと株式会社プラットワークスのサテライトオフィスであり、主に映像制作を行う株式会社えんがわの本社でもあります。七⼣の時期には近隣の町⺠も招いてお祭りを催すなど、地域の交流の場にもなっているとか。
そして、町内外の人々が気軽に利用できるコワーキングスペースと、いくつかの貸しオフィスが併設された「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」がこちら。
コワーキングスペースの利用者は2~3割が神山町の移住者で、残りの7~8割が徳島県内外に本拠を持つ人々。ワーケーションの拠点や、セミナーやワークショップの開催に会議室や会場の貸切ができたり、神山町の視察の拠点として活用するなど、利用方法はさまざまです。将来的に神山でサテライトオフィスを開こうと考える人が、お試しに使うこともあるそう。
ここを拠点に神山町の人や会社とつながりを持ち、「人が面白いから」と継続的に通う人もいます。「久しぶり。最近どう?」といった会話が聞こえてくることも。実際に、この場所 をきっかけに神山町を舞台とした新事業がスタートしたり、利用者と町内のサテライトオフィスがビジネスパートナーとしてタッグを組み、プロジェクトが進んだりしたそう。
「神山町を訪れる人が、まちの人とつながるきっかけを掴めるスペースでありたい」と砂田さんはいいます。
「地方や、今いる場所ではないどこかで生活をしてみたいという人には、ぜひ一度神山町に宿泊してまちの人と交流してみてほしいです。劇的な何かが起こるわけではないけれど、お店の人や道ゆく人と挨拶を交わしたり、ごはんを味わったり、自然に親しむ町の日常のなかで、神山町の面白さに触れていただけるのではないかと思います。行く場所に迷ったら、コンプレックスに寄ってみてください!」と砂田さん。
多くの移住者やサテライトオフィスを受け入れてきた神山町。新しい働き方として浸透しつつあるテレワークの拠点としても、魅力的な町だといえるでしょう。
神山町 視察関係: https://www.in-kamiyama.jp/shisatsu/
- 神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス
- 住所:徳島県名西郡神山町下分字地野49-1
- TEL:050-2024-4385
- 営業時間:9:00~17:00/土曜・日曜・祝日休
- アクセス:徳島阿波おどり空港から車で約1時間
- URL:https://www.in-kamiyama.jp/kvsoc/
鮎喰川を目前にデスクワーク。「WEEK神山」で1週間の滞在を
神山町でテレワークをするなら、宿泊にオススメなのが「WEEK神山」。「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」のすぐ向かいに建ち、コワーキングスペースとの行き来にも便利な立地です。
特筆すべきは部屋からのリバービュー。壁一面がガラス張りで、清流・鮎喰川とその向こうに連なる山々をのぞむことができます。朝・昼・夕と移り変わる自然の表情を見届けながら、作業するのに十分な広さのデスクで仕事に取り掛かりましょう。神山町の自然以外、余計なものが目に入らないこの場所なら集中できること間違いなしです。
朝食は和・洋・麺の3通りの日替わりで、この日は洋食でした。スープとサラダは、地元の農家さんが丹念に育てた旬のお野菜を使っています。パンは近くに店を構える人気店「かまパン&ストア」のものを使用。スープやサラダは素材の甘みを感じ、体に染みわたるやさしい味わいです。
「WEEK神山」が提案するのは、旅をするように仕事を持ち運ぶという生活。それを1週間続けられるようにとの思いが込められ、町内にサテライトオフィスを構える株式会社えんがわの代表取締役社長 隅田徹さんによって2015年に開業しました。その思いは現オーナーの神先岳史さんに引き継がれています。
隅田さんが神山町にサテライトオフィスを構え、移住したのは2013年のこと。3回目の訪問で移住を決意したといいます。決め手は、神山町特有の「ええんちゃうん」という雰囲気。のどかでゆるく、寛容であることがこの町の良さなのだとか。
それは、「新しいことや変わったことをしている人に水を差さない空気感であり、新しい人が町に来ることで起きる変化を許す度量があるということ」だと隅田さん。町に住む人々は適度な距離感を保ち、互いを「放っておく」スタイル。だからこそ、若い人ほどこの町に馴染みやすいのです。そして、「何をしているのかよくわからないような人が多い、というのもこの町の面白さ」だと隅田さんは話します。
ぜひWEEK神山で1週間ほど滞在しながら、その魅力に触れてみては。
- WEEK神山
- 住所:徳島県名西郡神山町下分字地野57
- TEL:088-677-0313(10:00~19:00)
- アクセス:徳島阿波おどり空港から車で約1時間
- 定休日:月曜・火曜
- URL:https://week-kamiyama.jp
テレワークのランチ休憩は「かまパン&ストア」or「かま屋」で
「WEEK神山」から徒歩約13分の場所に店を構える「かまパン&ストア」。販売するパンのメニューは、旬の食材に合わせて決めているのだとか。主役はあくまで農作物というのがこだわりです。
人気のパン3種類のうち、「いつもの食パン」は、ごはんのように毎日食べられる、飽きのこない食パン。水分量が多く、ずっしりとしてお餅のようにもちもちとした食感がクセになります。甘みと、少しの酸味が後引くおいしさ。「阿波ぬらとわかめのチャバタ」は「阿波ぬら」というばら干し海苔とわかめが入っている軽い食感のパン。歯切れがよく、少し焼くと磯の香りがしてお酒にも合います。「ビーツローフ」は低温で焼いて甘みを引き出したフレッシュなビーツが練り込まれ、軽くトーストするとサクサクとした食感。甘いビーツの味が口いっぱいに広がり、おやつ感覚でも楽しめます。
かまパン&ストアを運営する「株式会社フードハブ・プロジェクト」は、神山町の農業を次の世代につなぐことを目的に設立されました。そのため、お店で使う食材は地産のものにこだわり、農業や食育、加工食品の製造なども手がけています。
パン製造責任者を務める笹川さんは5年前にこの地に移住しました。仕事をする上で重きを置くのは地域との関係性。会社や家族といった組織を超えたネットワークをつなぐことが、地域の活性化につながると話します。
「例えば、普段生活している中で、たまたま通りがかかったおばちゃんとの会話をきっかけに、お店に足を運んでもらえることもあります。こうして地道に関係性を構築することで、地域の人々と根っこの部分で太くつながれるようになりました」
笹川さんのいう「太い根っこ」の関係性とは、各々が自立した幹を持ち、考え方は異なっても互いにリスペクトしあえる関係性。神山町では人と人とがそうしたつながりを持っているからこそ、新しい事業が生まれ、継続される場所なのだといいます。
「かまパン&ストア」に隣接するのが、同じく株式会社フードハブ・プロジェクトが運営する食堂「かま屋」。こちらは地産の食材にこだわった週替わりのランチ定食やデザート、フレッシュドリンクを楽しむことができます。
「店内に飾られている草花のいくつかは、地元の農家さんが庭に咲いていたものを持ってきてくれたものなんですよ」。そう話すのはかま屋の店長、石田青葉さん。
かま屋では、地域産の食材品目数を食材品目の総合計数で割る計算方法をもとに、独自の「産食率」という基準を定めています。これにより、使用した食材がどれくらい神山町産のものであるかを算出。その数値を活用し、「地産地食」の食文化の普及と向上に役立てているのだとか。
かま屋のこだわりは、一番新鮮な状態で料理を提供すること。一般的な飲食店では前日に食材の切り出しなどを行いますが、ここではできる限り当日の朝に切り出しから仕込みまでを行います。ドレッシングはあらかじめ合わせるのではなく、注文が入ってから都度完成させるこだわりぶり。ピクルスも、直前にスライスして塩もみし、水気を切りソースをかけて完成させるのだとか。
また、余計な調味料を使わず、ほとんどの料理を素材の味と塩・オリーブオイルのみで仕上げているのも特徴。こうしたシンプルな調理方法が地元の人々にはかえって新鮮に写り、訪れる農家さんも増えたそう。農家さんの「こんな野菜がうちで採れたから、使って」という声かけから新しいメニューが生み出されています。
- かまパン&ストア
- 住所:徳島県名西郡神山町神領字北190−1
- TEL:088-676-1077
- 営業時間:9:00~18:00/月曜・火曜休(祝日の場合営業)
- アクセス:徳島阿波おどり空港から車で約1時間
- URL:http://foodhub.co.jp
- かま屋
- 住所:徳島県名西郡神山町神領字北190−1
- TEL:050-2024-2211
- 営業時間:平日11:00~16:00(15:00 L.O.)、土日祝11:00~18:00(17:00 L.O.)/月曜・火曜休(祝日の場合営業)
- アクセス:徳島阿波おどり空港から車で約1時間
- URL:http://foodhub.co.jp
「豆ちよ焙煎所」でお気に入りのコーヒー豆と出合う
もともと手回しの焙煎機を使い、自宅でコーヒーの焙煎をしていたという店主の千代田孝子さん。次第に注文を捌き切れなくなり、3kgの焙煎機を導入。これを機に、神山町で「豆ちよ焙煎所」を開きました。以前は関東に住んでいたという千代田さんがこの地に移住を決めた理由は、空気とごはんがおいしく、子どもを育てるのにいい環境だと考えたからだそう。
味の好みを伝えると、千代田さんがオススメを教えてくれます。ここに並ぶのは、浅煎り・深煎りそれぞれのおいしさを感じることができる豆たち。また、オーガニックであることや、千代田さん自身が実際に訪れた村のものなど、商品の背後にあるストーリーを重視したセレクトになっています。
「常にフレッシュなものを用意したいので、回転をよくするために豆は厳選しています。さまざまな種類を提供したい一方で、それぞれの豆にファンがつくとなかなか変えられなくて」と千代田さん。そうした地元のリピーターの他にも、お遍路さんや海外からの観光客がよく訪れるそう。
千代田さんの丁寧な焙煎技術とこだわりが詰まったコーヒー豆は、お土産にもオススメです。
- 豆ちよ焙煎所
- 住所:徳島県名西郡神山町神領字北85-3
- TEL:080-8863-9090
- 営業時間:12:00~17:00/月曜、土曜、日曜、祝日休
- アクセス:徳島阿波おどり空港から車で約1時間
- URL:https://mamechiyo.shop
大粟山が舞台のアートウォークに参加
「アーティスト・イン・レジデンス」とは、ある地域にアーティストを招聘し、その土地に滞在する一定期間の創作活動を支援するプログラム。ここ神山町では、民間によるアーティスト・イン・レジデンスの活動が1999年からスタートしました。以来、毎年3~5名のアーティストを招き、作品制作・展示が続けられています。
今回紹介するのは、大粟山に展示された作品を巡るツアー。まずは上一之宮大粟神社へ至る長い坂道を登り、そこから山中へと入っていきます。
写っているのは〈眠れる森Ⅱ〉という作品の痕跡。ここには、木の枝で盛られた人型のオブジェが横たわっていました。長い間放置され、荒れていた大粟山にこの作品が突如現れたのだとか。それを実行委員会が知り、山の持ち主にお願いして、作品を置かせてもらう代わりに、山の手入れを行うことを条件にこの山がアーティストたちの作品制作の舞台となりました。
山の中を進むと見えてきたのは、大皿、平皿、茶碗に徳利……と数え切れないほどの食器が重なり、張り付けられた彫刻。食器は主に町民から寄付されたものだそう。作品を通し、神山の人々の文化が自然との共生のなかにあることを感じられる作品です。
等高線とは地図上で標高の等しい点を結んだ曲線のこと。この作品では、石の並びが等高線を示しています。中央の石にはタイトルの「Contouring lines on stones to hold human time」の文字が。等しい高さの点と点が連なる等高線のように、人々の間に差別や戦争がなくなるようにとの思いが込められているといいます。
同じつくりをした床と天井の「隙間」に挟まれるようにして立つことができる作品。ヒノキやスギの幹が床と天井の板を支えており、まるで林の中に身を置いているような不思議な感覚に。そこから見える風景は木の枠組みによって切り取られた風景画のようにも見えます。
〈隠された図書館〉と題されたこちらの建物は、少し変わった図書館の作品。町民のみが利用でき、町を離れる時、結婚した時、退職した時の思い入れのある本がそれぞれ1冊ずつ納められています。本を納めた人だけが建物の鍵を手にし、中に入ることができるのです。町人にとって、大切な思い出の引き出しのような役割を持つ作品です。
アートの知識を持たない住民の手でスタートした神山町のアーティスト・イン・レジデンス。今では国内外のアーティストから100件近い応募を受けるほどに成長しました。アーティストを招き入れるこの活動がうまくいったベースには、自然と人を受け入れ、支援するお遍路の文化があるのでは、と実行委員会会長の杉本哲男さんはいいます。
神山町だからこそ生まれた作品の数々。それらを通して見えてくるのは、アーティストが捉えた神山町の隠された姿なのかもしれません。
- 神山アーティスト・イン・レジデンス実行委員会 アートウォーク案内所
- 住所:徳島県名西郡神山町神領字中津132 神山町農村環境改善センター内
- TEL:088-676-1178
- 営業時間:8:30~17:30
- アクセス:徳島阿波おどり空港から車で約1時間
- URL:https://www.in-kamiyama.jp/art/
「KAMIYAMA BEER」でオランダのビール文化×神山を味わう
2013年に神山町のアーティスト・イン・レジデンスに参加したアーティストのあべさやかさん。パートナーでアイルランド出身のスウィーニー・マヌスさんとともに初めてこの地を訪れました。以来、神山町の魅力にハマり、それまで暮らしていたオランダ・アムステルダムからの移住を決意。マヌスさんが大のビール好きということもあり、2018年にブルワリー「KAMIYAMA BEER」を開業しました。
ドイツやベルギー、アイルランドなどの豊かなビール文化が入り混じるオランダ。パブには人が集まり、本場のおいしいビールを飲みながら音楽やイベントを楽しんでいたといいます。そんなビールの楽しみを神山町でも再現したいと考えたマヌスさん。本当においしいビールをつくることを第一目標に、人々が集まる楽しい場所づくりを目指しています。
神山町で採れる素材を用いて、新しいビールの開発に取り組むKAMIYAMA BEER。スタンダードの5種類の他に、年に4~5種類のシーズナルビールを生み出しています。例えば初夏から夏の終わりには梅干しを使ったビール「YAMAYAMA KURUKURU」が登場。黄色く色づいたフルーティな完熟梅を使用した小麦ベースのビールで、注ぐと薄いピンク色をしています。少しの酸味とほんのり塩気、フルーティな味でさやかさんの大好きなビールでもあるそう。
週末はブルワリーに隣接するタップルームで生ビールと軽食を楽しむことができます。なかでもSHIWASHIWA ALEはもっとも神山らしさを感じられるビールで、地産の生小麦を使用。軽やかで飲みやすく、クラフトビールを飲み慣れていない地元のおじさんたちにも人気なのだとか。トースティはオランダの名物で、よくビールと一緒に食べられるホットサンド。パンはビールを仕込んだ際にできた酵母でパンを焼いています。
市内のいくつかの飲食店でもKAMIYAMA BEERを飲むことができるため、平日に訪れた際はそちらも要チェック。
近くには温泉施設やキャンプ場があり、観光客も多く訪れるKAMIYAMA BEER。「ぜひ、神山のうつくしい川で泳いで、ビールを飲んで、バーベキューを楽しんで、最後は温泉に浸かってもらいたいです」とさやかさん。神山町の人々の多くはとてもオープンで、お話が好きなんだそう。ここKAMIYAMA BEERではそんな町内の人々と県外から訪れる人がビールを楽しみながら気軽に交流できる場所となっています。
- KAMIYAMA BEER
- 住所:徳島県名西郡神山町神領字西上角280-1
- TEL:050-2024-3576 ※週末のみ
- 営業時間:12:00~19:00 ※週末のみ。季節によって変更の可能性あり
- アクセス:徳島阿波おどり空港から車で約1時間
- URL:https://kamiyamabeer.com
町に備わる寛容の精神が人々を受け入れ、さらに人が人を呼び、独自の発展を遂げている神山町。なぜ多くの企業や個人が魅了され、ここに移住を決めるのか。それは実際に町を訪れ、人々と触れ合い初めてわかることなのかもしれません。ぜひ一度、コワーキングスペースを拠点に1週間ほど滞在してみてください。この町の魅力を存分に味わえるはずですよ。
※記載の内容は2021年2月現在のもので、変更となることがあります。
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※掲載画像はすべてイメージです。