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新鮮な海の幸を
味わう
海を眺め、海に触れ、
海のものをいただく、
“美味しい”の手前から、
食を体感する旅へ。
大分の魅力を語るときにはずせないのが「食」。瀬戸内海や豊後水道で育まれた豊かな魚介類を新鮮なうちに食べられるだけではなく、食材を捌いたり、料理をつくるプロセスに関わったり、あるいは地元の人たちとわいわい話しながらご飯を食べたりと、大分ならではの体験を通して、現地の営み・文化の一端にも触れることができます。今回の旅で、大分を訪れたのは夏の終わり。各地の旬の食材を探して海を越え、島へと渡り、奥深い食の旅へと踏み込んでいきました。
姫島の海で育った大ぶりの「車えび」と、自然に寄り添い暮らす人々
「姫島の海は、水がきれいで、車えびを育てるのにもってこいの環境なんです。」と語るのは「姫島車えび養殖」で卵から育成を手がける不破さん。姫島が誇る海産物のひとつ「車えび」は、その透き通るような身の美しさと、歯ごたえすら感じさせる食感、後からじわっと広がる甘味もあって、お祝いごとや季節の変わり目などの特別な日にも喜ばれる、最高級の海の幸です。
親えびが卵を産み、稚えびを育て出荷するまでの約1年間、毎日えびと向き合う不破さんは「生き物や自然が相手ですから、日々勉強ですね。これから挑戦したいこと? 育てた親えびから卵を産ませて、また育ててと、この姫島で循環していくことかな。」とおだやかに話していました。
毎年4月初旬から島内の塩田跡地を利用した養殖池に稚えびが放流されると、ストレスを与えないように毎日潜って状態を観察し、餌や水温の管理を行います。まだ水も冷たい時期にあって大変な現場。同養殖場でえびの世話をする島崎さんは「人間のように繊細な生き物ですから気を遣います。毎日潜っていると、えびの気持ちがなんとなくわかる(笑)。」と笑顔。姫島車えびのこの美味しさは、不破さんや島崎さんたちが日々寄り添い、研究を重ねた結果なのだと実感しました。
姫島車えび養殖 株式会社
車えびの養殖を行い、7月〜12月頃まで、最高級の海の幸「姫島車えび」を出荷している。
姫島車えび養殖 株式会社
車えびの養殖を行い、7月〜12月頃まで、最高級の海の幸「姫島車えび」を出荷している。
機械化が進んでも、微生物の調子は人が見る。
創業100年を超えて、つくり続ける酒蔵の想い。
1910年より100年以上続く酒蔵「ぶんご銘醸」。日本酒だけでなく芋・麦の焼酎、甘酒なども手広くつくりながら、大分県内の食品加工場や生産者と協働して、商品開発も進めています。初の直営店となる「麹の杜」は、甘酒工場も併設されているため、その工程を見学した後に、出来立ての甘酒を試飲することができます。
「これまで、お客さんから直接感想を聞いたり、販売したりすることがありませんでした。麹の杜を通して反応を見たり、こちらから商品を提案できる環境にあるのは、つくり手にとっても良いことです。」と語るのは、麹の杜店長・松久さん。
甘酒の生産ラインは全工程を経て完成するまで14時間。しかし、たとえ機械化がされていたとしても、同じ濃度のお酒をつくるのは難しく、微生物の機嫌をうかがいながら、機械の癖を見極める人の目も必要なのだそうです。良いお酒を丁寧に届けたい、そんな想いが松久さんの言葉の端々に感じ取れました。
麹の杜
創業100年以上の酒蔵による工場&直売施設。甘酒の手作り体験も実施している。
麹の杜
創業100年以上の酒蔵による工場&直売施設。甘酒の手作り体験も実施している。
海に囲まれた自然溢れる島で、色鮮やかな珍しい貝を育てながら、人が人を呼ぶ心やすまる場所をつくる
佐伯市の南部に位置する人口14人の島、屋形島。この島で食用の緋扇貝(ひおうぎがい)養殖とゲストハウスを営む、後藤猛さんを訪ねました。定期船を降りてすぐ、防波堤の内側に養殖場があります。海に浮かぶ小屋のなかでは、貝の表面を磨く作業をしていました。磨き終わった貝を見せてもらうと、びっくりするほど鮮やかな赤・橙・黄・紫色をしています。
「近年メディアにも取り上げられるようになった緋扇貝ですが、実はまだ研究もそれほどされていないマイナーな貝なんです。」と後藤さん。「ほかの貝類よりも旨味が強いので、味付けせずそのままボイルしたり、炭火で焼いたり。とりあえず食べてみます?」と、薦められるままに、フライパンでボイルしたものをいただきました。鼻に抜ける濃厚な旨味とジューシーな貝柱の食感がたまりません。その美味しさの秘密は、屋形島周辺の海が緋扇貝の育成に適した環境だと後藤さんは言います。「リアス式海岸という地形、山から養分が川に流れてきやすく、黒潮の影響もあって貝の成長に必要なプランクトンが豊富なんです。」
後藤さんのお父さんが始めたという養殖場。その家業を引き継ぎ運営しながら、敷地内にゲストハウスを立ち上げたのが2018年のこと。「この島にいながら新しいことにも触れられる環境をつくりたいと思ったのがきっかけです。僕はもともと、20代の頃に海外を旅し、ゲストハウスを渡り歩いていました。そこでは、宿にいる人たちとゲスト・ホストといった関係性を超えて関わり合うことのできる、コミュニケーションの場が立ち上がっていた。屋形島でも、それを実現しようとしています。」
人口14人の島ということもあり、後藤さんの代で島に人がいなくなってしまうかもしれない。そんな想像力を働かせながら「自分たちが経験したこと、上の世代から伝えられたものを人に届けていきたい。」と語る後藤さん。自分たちの営みがどこか・誰かにつながっていくことを望み、この島でできることを今日も試行錯誤しています。
後藤緋扇貝/屋形島ゲストハウス
緋扇貝を味わえるのはもちろん、目の前の海でSUPやシュノーケリングなども。
後藤緋扇貝/屋形島ゲストハウス
緋扇貝を味わえるのはもちろん、目の前の海でSUPやシュノーケリングなども。
ウニにカサゴにメジナ、ときどきタコ。
生き物に触れて、“食べる”を知る。
蒲江・西野浦にある「丸二水産」は、新鮮な海産物を取り扱うだけではなく、体験もでき、旅館・食堂としても楽しめる複合施設です。運営するのは地元の元気なお母さんたちと、ユーモア溢れる蒲江の漁師さんたち。丸二水産の目玉はなんといっても、ウニ割り、伊勢えび解体、カゴ漁、魚釣りなどなど、海の幸を食べるまでのいろんなプロセスを体験できること。早速、ウニ割りとカゴ漁を教えてもらいました。この日、ご案内いただいたのは、漁師でもある橋本豊義さん。
バフンウニとアカウニの殻を専用の道具で割り、中の身を取っていきます。割ったウニの殻はカゴ漁のエサに。30分ほどでウニをお皿へと盛り付け、次はカゴ漁の仕掛けを桟橋から海へと落としておきます。この時期にとれる魚を聞いてみると「メジナやカサゴ、カワハギ、ベラあたり。ときどき、タコもかかりますよ。」と橋本さん。今回は、メジナやカサゴほか、ヒトデやゴンズイ(とげに毒あり)なども。
魚を捌いてもらい、自分で取ったウニの身と一緒にその場でいただきます。やわらかいウニの身は、取るのにコツが必要。橋本さんに教えていただきながら、実際に手を動かし、海産物に触れることで、食べる手前の部分を知る。口に運ぶまでの体験自体が、「美味しい」を特別なものにしていきます。
有限会社 丸二水産
蒲江の新鮮な海産物を広く取り扱う。漁業体験が人気。旬の魚介料理を味わえる旅館・民宿も併設。
有限会社 丸二水産
蒲江の新鮮な海産物を広く取り扱う。漁業体験が人気。旬の魚介料理を味わえる旅館・民宿も併設。
料理人歴42年、お店をかまえて30年。
海の食材を生かす佐伯の郷土料理とは?
大分南部・佐伯の郷土料理のひとつに「温飯(あつめし)」があります。店主の染矢恒明(つねあき)さんいわく、佐伯の漁師は、獲った魚を船上で醤油に漬けておき、炊き立てのごはんに乗せて食べていたのだとか。ここ「つね三」では、ブリやハマチ、アジといった青魚と、自家製醤油(地元でつくられた醤油を自ら甘口に調整したもの)、ごま、ねぎなどを混ぜ、ごはんに乗せます。熱いごはんと冷たい漬けの口当たり、醤油の甘さがくせになりそうです。
お店の人気メニューの「ごまだしうどん」。うどんの上に乗る「ごまだし」も郷土料理。すり(過ぎない)ごまと醤油、白身魚のほぐしたものを、火を入れながら混ぜ、時間をかけて練り上げていきます。その後、冷蔵庫で3日ほど寝かせて完成。うどんにからめながら、ごまの風味や食感を楽しみます。
お腹に余裕があれば「アジ寿司」も。「近海で釣ったものだから鮮度がいいんよね。色もいい。鮮度がいいと、皮もシャッとむけるわけだ。時間が経つと身がくっついちゃうからね。」と手際よく身を捌き、握る。ほどよい身の甘さもありつつ、後味はさっぱり。
つね三
佐伯で獲れる新鮮な魚が味わえる寿司屋。夜は、郷土料理をあてに日本酒がすすむ。
“旬のもの”って、どんなもの?
自然と暮らしの交わりを実感する農村民泊。
直川地区の山あいに、河内さん夫婦が住む母屋と、その離れ=ゲストハウス「かわちん家」があります。家の前では、谷川のせせらぎが心地よく、大自然に囲まれのんびりとした時間が漂います。河内家のお母さんは「夏は、子どもを連れて沢歩きもできるんですよ。」と嬉しそうに話します。
日本家屋を改装した離れには、部屋の中央に昔ながらの囲炉裏が。炭を焚き、屋形島産の緋扇貝をあぶって、その身を一口でいただきます。ほかにも、裏山で採れた栗を使った栗ご飯(もちろん地元で作ったお米)や、河内さんの畑で育った里芋の煮っころがし、佐伯の海でとれたアジ寿司、家の目の前の川で育ったモクズガニをトマトと炒めたパスタなどなど、季節の食材を用いた河内家自慢の手料理がてんこ盛りです。
日中は、モクズガニ(通称、山太郎ガニ)を獲りに河内家のお父さんと、家の前の川へ。かぼちゃや魚などのエサを仕込んだ罠にかかるカニを引き上げます。「川と海の混じるところで孵化した小さな山太郎ガニが上流へと向かい、夏の終わりのこの時期になると、産卵のために雨と一緒に下っていく。ここまで上がってきたのは、身も大きくて美味しいんよ。」とお父さん。季節を肌で感じ、自然に関わり合いながら生きる暮らしを、体験することができます。
かわちん家
佐伯市の農村民泊。ホストの河内さん夫婦の人柄と手料理に、リピーターが多数。
おすすめスポット
2019年9月撮影
今回の旅の行き先
- 大分空港
- 姫島車えび養殖 株式会社
- お食事処 姫乃屋
- 千人堂
- 浮洲火口跡
- 拍子水温泉
- 姫島海水浴場
- 農村民泊 かわちん家
- 後藤緋扇貝
- 屋形島ゲストハウス
- 有限会社 丸二水産
- たかひら展望台
- 麹の杜
- つね三
- 大分空港
アクセス
大分の空の玄関口「大分空港」へのアクセス
東京:羽田(東京国際空港)から約1時間40分、
大阪:伊丹(大阪国際空港)からは約1時間で、大分空港を結ぶANA便が毎日運航。
愛知:名古屋(中部国際空港)からもANAとIBEXとの共同運航便が、毎日運航しています。
「大分空港」から各拠点へのアクセス
大分の各拠点へは、「空港特急バス」や「湯布院高速リムジンバス」、「ノースライナー」「サウスライナー」など、
航空便の離発着時間に合せた便利なバスが運行しています。