ANA555便函館行きは、搭乗開始時刻を迎えようとしていた。羽田空港第2ビルにある搭乗ゲート周辺にはお客さまが集まりつつある。搭乗ゲートには、3人のグランドスタッフの姿。各々が手際よく準備を進めていた。
石飛理恵「30分前にゲートにいることが基本で、お客様をご案内する準備をします。車イスをご利用など、配慮が必要なお客さまの情報を共有し、ゲートリーダーと対応を話し合います」
3人のなかでもっとも経験の浅い石飛の談。そして搭乗ゲートの責任者であるゲートリーダーの増田香織は続ける。
増田「そして改札機の設定を行います。タブレット端末で機内の客室乗務員と連絡して、出発20分前に搭乗許可をもらい、配慮が必要なお客さまから順にご案内します。分刻みですべての行動が決められています」
ここでのグランドスタッフの仕事は、搭乗予定の全てのお客さまを機内にご案内し、定刻の出発をアシストすること。平日であるこの日、さほど混雑は見られなかったが、出発直前になっても搭乗口に姿のないお客さまが一組いらっしゃった。チェックインしていたことは確認済み。搭乗ゲートのスタッフたちの動きが、にわかに慌ただしくなる。出発まで5分を切っていた。
お客さまを探して、出発ゲート内を走り回っていたのは、エリアリーダーを務める村井亜美だ。
村井「走ることはあまりありません。ただ今日はお乗り継ぎのお客さまが、誤って到着ゲートから出られてしまったようで、再度保安検査を受けていただきました」
お客さまを無事にご案内し、555便は函館へと離陸した。
このように、様々な事態に臨機応変に対応しながら、彼女たちは日々、飛行機とお客さまを地上から送り出している。だが、業務はそれにとどまらない。
村井「シフトによって様々です。私は今日複数のゲートを受け持つエリアリーダーを務めましたが、お客さまと直接接することのないフライトコントローラーを担当する日もあります」
それは空港内の各種情報をモニタリングしながら集約し、各所に伝達する役回りだ。
石飛「チェックインカウンターでお客さまの受付をすることも多いですね。体力勝負ですよ。重い荷物をお預かりするので、筋肉がつきますね(笑)」
石飛「実務トレーニングのときに言われたことでもあるのですが、チェックインカウンターでの受付時、ゲートでの作業が忙しくなるようなことは避けるようにしています。忙しくなるとオペレーションの内容が増えて、決められた行動をオンタイムで処理することが難しくなります。特に年末年始やお盆休みでお客さまが増える繁忙期は忙しくなりがちですから、さらに心がけるようにしています」
これは搭乗を預かる立場としてそれぞれが共有する観念であり、「お客さまを定刻通りに送り出す」という責務を果たすための工夫。そのための“必需品”は腕時計だとか。「ブランドに決まりはないですが、日付と秒針がついていてデジタルではないもの。とくに電波時計が推奨されています」と村井。
増田「そして何より連携が大切です。オンタイムでご案内するには、チェックインカウンターをいつお客さまが通過されたか…という情報が共有されていることが大切なのです」
連携を取るのは、何も空港内のグランドスタッフ同士とは限らない。
村井「台風や気象状況が悪いときや、トラブルが発生したときには、連携を密にします。他の空港とも連携を図ることもあります。お客さまに適切な情報をご案内したり、地上交通に振り替えたり、お客さまのキャンセルの手続きなどを、迅速に進めなければなりません。正しい情報をリアルタイムに得ていれば、お客さまに安心を与えることができますから」
こんな言葉から、地上で働くグランドスタッフであっても、空の安全や安心感に関わっていることがわかる。
石飛「日々勉強です。仕事のうえでできることを増やすには、その都度テストと資格が必要になります」
増田「また保安に関わる訓練が定期的にあります。これまで航空業界で発生した事故やトラブルを教訓に、いざというときに適切な対応が取れるように、念入りな訓練を行います」