ワイルドで豊かな海がくれる至高の釣り体験
広大なインド洋に臨む西オーストラリア州最大の都市・パース。エミューが砂浜を歩き、ザトウクジラが間近に泳ぐ海で、珠玉のビーチフィッシングと、ボートからの釣りを満喫する。心も体も思いっきり元気になる、贅沢な旅。
SCENE01 『世界一幸せな動物』の島
パースの沖合には、「世界一幸せ」といわれる動物の棲む島がある。年間50万人の観光客が訪れるロットネスト島だ。
島の名前は、オーストラリアでもここでしか見られない、小さな有袋類にちなんで付けられた。
小型のカンガルーである、ワラビーの仲間のクオッカ。
とてものんびりした性格で、全く人を怖がらず悠々とエサを食む。
その昔、島を発見したオランダ人がこのクオッカを見て、「ここはネズミの巣(ロットネスト)だ!」と驚いた。
口もとはどこかほほ笑んでいるように見える。
今では人気抜群、観光客のセルフィーの恰好のパートナーだ。
島へはパースやフリーマントルからフェリーで来るのが一般的だが、プライベートボートも上陸でき、今回、松尾さんは釣りをする「ミルズチャーター」の船で訪れた。
ロットネスト島の周りには暖流が流れ、サンゴの海と穏やかなインリーフ(サンゴの岩礁の内側)の海が広がる。そこにはさまざまなトロピカルフィッシュが泳ぎ、8月下旬~11月頃の春には、インド洋から南極海に戻る赤ちゃん連れの親クジラ(ザトウクジラやミナミセミクジラ)が長期間留まる。ホエールウォッチングにも最適な海域なのだ。
9月下旬もまさにそのシーズン。
楽しみにしていたボートフィッシングを前に、クジラたちは見事な「フルークアップ(尾ビレの裏側を見せる行動)」や「ブロー(潮吹き)」を見せてくれた。
「さぁ、次は魚をたくさん釣るよ(笑)」と船長のアンソニー。
いよいよ船の釣りがスタートする。
SCENE02 重量感たっぷりのジューフィッシュ
松尾さんがまずトライしたのは「タイラバ」を使う釣り。
タイラバは、カラフルなオモリ(ヘッド)、ヒラヒラと動くゴム片(ネクタイ、スカート)、そしてハリの3つを組み合わせた和製ルアーだ。
「釣り場の水深はインリーフなら20mくらい。その先の深場も50mくらいまでのポイントを釣るつもりだ。マダイもいるし、他にもいろいろな魚がいるよ」とアンソニー。
ある程度の情報は日本を出発する前から問い合わせていたので、それならきっとタイラバが有効に違いないと準備していた。
一方、「私たちが普段使っているのはこんなタイプだ」とアンソニーが見せてくれたのは、“ジューバイト”という白いルアー。ヘッド部分の形状が異なるが、全体の構造はタイラバとよく似ている。
このルアーの名前にもなっている“ジューフィッシュ(DHUFISH)”は、西オーストラリアの海のみに棲息する、現地で人気の釣りの対象魚。
ずんぐりした体形で、あまり深くない沿岸のリーフの海に生息しており、ルアーにもよく反応する。大ものはずっしりと手に重く、何より「とても美味しい!」という白身で人気がある。「衣を付けて揚げたら最高さ!」と教えてくれたのは助手のマイク。
パースのソウルフード、フィッシュ&チップスでも最高の素材だ。
アンソニーのルアーはよく見るとヘッドが扁平。これは横方向にゆっくり泳がせやすい形だ。
「ジューフィッシュは底近くでゆっくり誘ったほうがいい」とアドバイスされた松尾さん。
そこでタイラバもよりスローな巻き上げを意識し、船の動きも利用してなるべく底のほうで潮の流れに乗せるように動かした。
するとなんと、お手本以上に立派なジューフィッシュを見事に釣りあげた。
タイラバにはさまざまな魚がヒットしてくる。
ブルアイドグルーパ―(トゲに毒があるので注意)、パロットフィッシュ(ブダイ)、ウエスタンキングラス(赤いベラ)、ブラックアスコッド(ハタの仲間で美味)、ゴールドスポットスイートリップ(コショウダイの仲間で美味)など、名前を覚えるだけで大変なくらい。
期待以上に豊穣なパースの海。
翌日はもう少し深場に行き、もう1つの本命、オーストラリアのマダイに挑戦だ。
SCENE03 サムソンフィッシュと驚きのマダイ
パースの沖には、他にも魅力的なボートフィッシングの対象魚が泳ぐ。
まずはサムソンフィッシュ。カンパチやヒラマサの仲間で、ひときわパワフルなこの魚は、西オーストラリアでも高い人気を誇るゲームフィッシュだ。
それが毎年11月~2月頃、ロットネスト島の周囲に産卵のため集まって来る。
今回の松尾さんの釣りは9月だったため、「サムソンフィッシュはまだ難しい」と言われていたのだが、マイクが松尾さんの釣ったウエスタンキングラスを見て、「これを切り身にすると、フィッシュイーターのいいエサになるんだよ」と試しにエサ釣りをやってみたところ、目の覚めるような強烈なアタリが来た。
次は松尾さんの出番。
マダイの大型が期待できるということで船が向かったのは、ロットネスト島周辺よりも、もう少しパースの北方沖にあたる水深50~60mの海域。インリーフの釣り場に比べると、インド洋から押し寄せる波の動きもより大きくダイナミックだ。
こちらの海域では、小魚に似せた金属製ルアーであるジグも効果的ということで、タイラバとジグの2本立てでねらってみる。
タイラバ同様、ジグもいろいろな魚が釣れる。
驚くほどカラフルで、でもとても美味しいというハーレクイーンフィッシュ(ハタの仲間)などがお目見え。
そんな中、潮が利き始めたタイミングで、タイラバでねらった松尾さんが“ドスン”という気持ちのよいアタリを捉えた。
ジリジリとリールからイトを引き出しながらも、最後に海面に現われたのは、鮮やかなピンク色に輝く待望のゴウシュウマダイだ。
手にずっしりと重い良型。しかし、驚きの一尾はまだこのあとに待っていた。
ボートの上でアンソニーとマイクが用意してくれるサンドイッチをほおばったあとの午後2時40分。120g・赤色のタイラバを投入した松尾さんが、ゴソゴソと魚が触ってくるアタリを捉えた。
そのままリールを巻き続けたところで、それまでにない強い引き込みがサオを引っ張り込む。
掛かった魚は、リールからイトを何度も引き出しては走る。
魚は老成といって、本当の大ものになると、顔つきや姿が成熟とともに大きく変化することがある。
ゴウシュウマダイは特に頭部が盛り上がってくるのが特徴といわれ、この91cmもあったオスは、まるであたりの海の主のような迫力があった。
「パースの海がこんなに多くの魚たちで満ちているなんて、本当に驚きです」と松尾さん。
オーストラリアでは主なゲームフィッシュを対象に、バッグ&サイズリミット(持ち帰ってよい魚の数と大きさ)が細かく決められており、船長たちのルールを守る意識も高い。規定に満たない魚はダメージを最小限に抑えながらすぐにリリースしていた。
SCENE04 交流の時間とスワンバレーのワイン
地中海性気候のパースは一年を通じて晴天率が高い。
終わってみればこの滞在中も、天気にはずっと恵まれ青空の下での釣りになった。
最終日は現地に在住する女性たちも一緒に、ミルズチャーターのボートに乗る。
タイラバは道具が軽く、釣り方もとてもシンプルなので、釣りが初めての人でも無理なく楽しめる。
釣り場は再び、波の穏やかなロットネスト島周辺のインリーフの海に戻った。
するとこの日も絶好調。まずヒットしたのは、意外なゲストだったアオリイカ。
日本ではあまり見られないシーンだが、松尾さんが操作していたタイラバを海面近くでアオリイカが追尾。
「釣れそうです!」とそのまま追わせると、見事にヒットした。
試しに船上で刺身にしてみると絶品。
最初は「これを生で食べるのかい?」と驚いていたスタッフも、思わず笑顔になる味の良さだ。
その後は、マダイやジューフィッシュが、待ってましたとばかりに食いついて来る。
魚が掛かったら、あとは強い引きの時には自動的にイトが少しずつ送り出されるリールの機能があるので、力まずサオを少し上に向けた状態を保ち、リールを巻き続ければ、最後は型のよい魚でもサオの反発力で無理なく上がってくる。
そして、パースの魅力の欠かせない要素に、フレンドリーな人々がいる。
お世話になった釣りのガイドはもちろん、ホテルやレストランなど、現地の人たちは概して対応がていねい。
だからこそ釣りにも集中できる。
成田空港に向かう帰国便は夜9時過ぎの出発。
ボートフィッシングを昼過ぎに終えたあとは、ホテルで着替えと帰り支度を済ませ、釣りをしながら教えてもらった、「ここはぜひ立ち寄ってみて」というスワンバレーに向かった。
スワン川上流に広がる丘陵地一帯は、日当たりと水はけがよく、国内でも有数の高品質なブドウが育つ。
周囲には大小のワイナリーがあり、サンダルフォード・ワインズは、オーストラリアで最も古いワイナリーの1つだ。広い敷地には手入れされたブドウ畑や多彩な商品を試飲できるコーナー、結婚式にも利用される開放的で洒落たレストランがある。
パース空港からも近く、お土産探しにもぴったりの場所だ。
この土地の恵みを凝縮した赤ワインをテイスティングしながら、数多くの魚や人々との出会いを思い出す松尾さん。
「本当に素晴らしい体験ができました。絶対、また来ます!」と、早くも次の釣り旅を思い描いていた。
釣り情報
パースのボートフィッシング
インド洋に面したパースはボートでの釣りも盛ん。今回利用した「ミルズチャーター」は、パース北西のヒラリーズボートハーバーに拠点を置くフィッシングツアー。普段は必要な道具の一切をあらかじめ準備してくれる、エサ釣りをメインに日帰りの釣り(個人で参加可能)を実施している。その他、ジギングなどルアーフィッシングや船一艘のチャーター釣りも相談できる。パース沿岸は水深50m以内のインリーフの海が沖まで続き、その先で水深100mを超える深場に落ち込んでいくため、浅場から深場まで釣り場は多い。昔から人気が高いのは、マダイやジューフィッシュなどの食べても美味しい魚。その他、各種のハタやベラ、オオニベなどが対象魚になる。現地でピンクスナッパーと呼ぶゴウシュウマダイは、最大で1m・10kgを超えるものもおり、日本に比べて大ものが釣れる確率は高い。ジューフィッシュも最大クラスは1m・25kgを超えるものもいる。このほか、近年は主に夏場にねらえる、サムソンフィッシュ、カンパチ、ヒラマサなどの青ものの釣りも注目されてきている。なお、海釣りにライセンスは必要ないが、魚ごとに捕獲制限(バッグ&サイズリミット)があり、これらは厳密に守られている。
問合先 | トラウトアンドキング (http://www.troutandking.com) |
今回の使用タックル
タイラバ |
ロッド:シマノ「炎月B77M-S」 リール:シマノ「炎月CT150HG」および「オシアコンクエストCT300」 ライン:PE1.5号(シマノ タナトル200m)+フロロリーダー12号(シマノ オシアジガーリーダーマスターフロロ40lb) ルアー:シマノ「タイガーバクバク80~150g」など |
ジギング | ロッド:シマノ「グラップラー タイプJ B-604」など リール:シマノ「オシアジガー1000HG」 ライン:PE2号(シマノ オシアジガー300m)+フロロリーダー12号(シマノ オシアジガーリーダーマスターフロロ40lb) ルアー:シマノ「スティンガーバタフライウイング110~200g」「スティンガーバタフライぺブルスティック150~200g」など |
パースへのアクセス
パースへは成田からANAの直行便を利用。フライト時間はおよそ10時間。パース空港から今回宿泊したヒラリーズボートハーバーまではタクシーで30分ほど。
- このコンテンツは、2019年9月の情報をもとに作成しております。