日本一の潮流に磨かれた美味魚を堪能。
瀬戸内海の東の入り口をふさぐようにして浮かぶ淡路島。その南北の端にある海峡では、日本一速い潮流が生み出される。渦潮に揉まれて育つ美味魚に出会う、秋の夫婦ふたり旅。
SCENE01 海峡に生きる魚たち
本州、四国、九州に囲まれた瀬戸内海。その東部に浮かぶ淡路島は、周囲約203km。北は明石海峡、南は鳴門海峡、東は紀淡海峡に接する。
「鳴門の渦潮」でよく知られるこの付近の海は、橋から望むとまるで川のように流れる海が広がる。
荒々しい潮の流れは魚の身を磨き、ブランド魚を生み出す。
大分の関アジ関サバ、三浦半島走水のアジなどはよく知られるが、時速20kmという国内最速の潮流が見られる淡路島周辺の海も例外ではない。
明石のマダコ、鳴門のマダイ、そして淡路島のシラスは、全国に知られる美味。
釣り人にとっては、夢のようなフィールドである。
奇跡的に台風が逸れ、晴天が広がった某日、北海道から大阪国際空港へと降り立ったのは、矢野元基、愛実夫妻。
この時期人気のタチウオを釣るために、明石海峡大橋を渡って淡路島を目指す。
勝手がよく分からない遠く離れたフィールドで、釣り船の手配をするのは面倒なものだが、淡路島ではそんな心配はいらない。
矢野夫妻が予約した淡路島観光ホテルでは、宿泊プランのなかに船釣り体験が楽しめるオプションがある。
申し込めば手ぶらでも釣りができ、しかも釣った魚はその日の夕食でいただける。
しかもこのホテルでは、敷地内にプライベート釣り場があり、
「日本一のフィッシングホテル」という謳い文句もだてではないのである。
SCENE02 タチウオテンヤ釣りに挑戦!
船釣り体験の参加者は、12時15分にロビーに集合。朝の便で大阪に到着すれば、充分に間に合う。矢野夫妻もホテルに到着したら着替えを済ませ、スタッフに釣り方をレクチャーしてもらって、港へ向かうマイクロバスに乗り込んだ。
タチウオ釣りにはいくつかの釣り方があるが、この日はテンヤ釣りを行なった。
テンヤと呼ばれる道具には、魚の頭を模したオモリに大きなフックが付いている。このフックにエサのイワシを付け、タチウオに食わせる。
タチウオは、その名のとおり太刀のようにスラリと伸びた魚体。
また、海中で立ったように上を向いて泳いでいるのも、その名の由来だという説がある。
その顔つきを見ると、鋭い歯が並んで恐ろしげだが、意外にもエサは一発でガブリと食うわけではない。
少しずつかじるように食べるので、アタリがあってもなかなかハリに掛からない。
釣り人の腕が試される相手である。
今回行なったタチウオのテンヤ釣りでは、まずテンヤを底まで沈める。
タチウオがいる水深(タナ)は、船長がアナウンスしてくれる。
そのタナの付近で、テンヤをゆっくり巻き上げて誘うのが基本。
タチウオはエサを見つけると、それを食べながら上へ追いかけていく。
しっかりエサをくわえたところでサオを上げれば、タチウオにハリが掛かる仕組みだ。
小さなアタリを無視して巻き続けるか、それとも合わせるか......。
釣り人と魚の攻防が繰り広げられる。
最初に歓声を上げたのは、元基さん。タチウオは体高が指何本分あるかで大きさを計るが、優に指4本はある良型だ。
続いて愛実さんも声を上げた。
「掛かったみたいです!」
リールを巻き上げてゆくと、海中にはギラリと輝く細長い魚体。
間違いなくタチウオだ。船上に抜き上げた魚体は、やはり指4本クラス。
「北海道から来た甲斐がありました!」
船上で笑顔が弾けた。
SCENE03 淡路の海を夕餉で味わう
帰港後、ホテルに戻って温泉で疲れを癒したふたりを待っていたのは、自ら釣ったタチウオの刺身盛り。
さらに煮付け、塩焼き、空揚げまでも並ぶ。
そのほかにも宿で用意された淡路島の美味が並び、贅沢すぎる夕餉となった。
初めてのタチウオ釣りとその味に感動したふたりは、地ビールで乾杯。くつろぎの夜をすごした。
SCENE04 タイラバで五目釣り
2日目は、チャーター船での釣りを体験。今度は多彩な魚をねらうため、タイラバを使うことに。
タイラバというのは、主にマダイをねらう疑似餌。
ヒラヒラとしたラバーのスカートが付いていて、海底にいったん沈めてからゆっくり巻き上げる。
巻き上げるスピードは状況に応じて異なるが、この日は速めがよかった。
注意すべきは、アタリがあっても合わせないこと。そのまま巻き続け、しっかり重みが乗るまで待つ。
これが意外と難しく、ついサオを強く上げてしまう。
ふたりも最初は試行錯誤していたが、やがてコツをつかんで魚を掛け始めた。
釣れるのはマダイのほか、ブリの子どもであるツバスやホウボウ、ガシラ(カサゴ)、ワニゴチなど。
2日目もよく晴れた淡路島の海は、ふたりにカラフルな魚を贈ってくれた。
SCENE05 お香の手作り体験
午前中の釣りを終えたふたりは、今度は淡路島を巡る。
まずはホテルからすぐ近くにある洲本城へ。1526年に築城されたこの城は、天守は再建されたものだが、かつての面影を残す石垣は見事。
洲本の街並みと瀬戸内海を眺めた後は、鳴門の渦潮を見学。
徳島県側に渡った所にある渦の道では、下がガラス張りになった橋から、運がよければ約45m下にある渦潮が見られる。
さらにふたりは、淡路島で国内70%ほどのシェアを生産している、お香を手作りすることに。
薫寿堂でクッキーのようなお香を作ったふたりは、旅のいい記念になったと満足そうだった。
実は淡路島は、神話の舞台になっている。
まだ世界に形がなかったころ、天より遣わされた伊弉諾尊(いざなぎのみこと)、伊弉冉尊(いざなみのみこと)は、世界を凝り固めるために天の沼矛(あめのぬぼこ)で大海原をかき回した。その矛から滴った滴が島になった。
その島(自凝島・おのころ島)が絵島、沼島といわれており、おのころ島に降り立って、最初にお生みになられたのが淡路島とされている。
伝承の舞台とされる絵島、そして古事記や日本書紀に記載があるなかでは国内最古という伊弉諾神宮に立ち寄ったふたりは、淡路島の歴史に思いを馳せつつ、北海道への帰路についた。
釣り情報
淡路島のタチウオ釣り
淡路島周辺のタチウオ船釣り盛期は秋。例年12月から1月くらいまでは釣ることができる。船釣りの場合、テンヤ釣りのほかにジギングなどの釣り方がある。同じテンヤ釣りでも、船によってテンヤ号数が決められていたりするので、事前に確認するとよい。淡路島の船釣りでは、タチウオのほかマダイ、青もの、アオリイカなどさまざまな魚種がねらえる。淡路島観光ホテルのホームページに旬の釣りものが紹介されているので、参考にしてほしい。
淡路島観光ホテル
兵庫県洲本市小路谷1053-17
TEL:0120-22-9700
(https://www.awakan.com/)
- このコンテンツは、2019年10月の情報をもとに作成しております。