「鹿児島県・錦江湾」釣り旅の記録
“繊細な釣趣が醍醐味のマダイ釣法”
翌日は快晴。穏やかな風が吹いていた。
早朝に港を出た船は、5分ほどで釣り場に到着。「こんなに近いの!?」と驚きの声が上がるほど、マダイ釣り場は陸地の目と鼻の先だった。
オモリとハリが一体化した仕掛けに釣具店で購入したエサの冷凍エビを装餌したら、投げずにそのまま下に落とし、海底まで届ける。着底のあとはいったんサオでエサを持ち上げ、今度は上げた腕を下にゆっくりと降ろす。エビでタイを釣る、の言葉どおり、これを繰り返すだけでマダイが掛かるひとつテンヤという釣法だ。
感度のよいサオ、細いイト、オモリとハリが一体化した仕掛けも軽めを使うのがひとつテンヤの特徴である。
開始1投目でヒットしたのは伊東。小ぶりだが本命のマダイを笑顔で抜き上げた。伊東は過去に錦江湾で大ダイを釣り上げたことがあるという。阪本さんも開始一投でマダイをキャッチ。マダイの活性は高く、その後も連続してふたりのサオを曲げた。
水深は10m前後~25mほど。軽い仕掛けにちょうどよい水深だ。しかし、ちょっと沖側に位置が変わるだけで一気に50~60mまで深くなっている場所も珍しくなかった。といって陸地は近いところに見えたまま。「岸から近くても急激に落ちているのが錦江湾ならではですね」と言ったのは船長だ。「桜島を見れば想像がつくと思いますが、この一帯は海底も溶岩質で、起伏の激しさや急激な水深変化は太古の地球の息づかいなんでしょう」と続けた。そして、「溶岩質の岩礁に触れるとイトなんてすぐに切れますよ。釣り人泣かせなんです」とも。
それでも船長は荒い岩礁帯の海底を巧みに操船し、砂地混じりのポイントを転戦した。釣る側はそれに応えるように次々とマダイを掛けた。そのうち、阪本さんがこれまでとは明らかに違う魚信をとらえた。
グイグイと何度も力強く引き込む相手に対し、阪本さんは流麗なサオさばきで少しずつイトを巻き取った。相手が大きいときほど無理をせず、強引さを控えなければならない。なにより慌てないことが一番だ。勝負の軍配は阪本さんに上がった。
阪本さんが釣り上げたのは鮮やかな緋色の良型マダイだった。
その後、食いが落ちると船長から「ティップやってみませんか?昨日は消化不良だったでしょ」とすすめられた。
昨日と違って風は0.7ノット(時速約1.3km)程度。ティップランにとって理想的な速さだ。
残された釣り時間が少し気になり始めたとき、「海底ギリギリで掛かりましたよ」と伊東がサオを曲げた。すぐに阪本さんも続き、「ティップランで掛けられたのがなにより嬉しい」と声を弾ませた。して、ふたりが掛けた正体はコウイカ。
「まあいいよ、コウイカでも。ほら大きいじゃない」と讃え合ったのだった。
この釣果が締めくくりかと思われたが、「あと1ヵ所だけ」と声をかけたのは船長だった。
最後のひと流しでは、阪本さんはコツをつかんだのか、すぐにヒットさせた。掛けたのは本命のアオリイカ。
「よかった。本当によかった。釣ってもらわないとね」と釣った本人よりも嬉しがったのは船長だ。
錦江湾の釣りはこうしてフィナーレを迎えた。時期を変えればまた違う楽しみが待っている。その思いを強くして帰り仕度へと向かった。
- このコンテンツは、2017年11月の情報をもとに作成しております。