「高知・仁淀川」釣り旅の記録
“三段引きの若アユがサオを絞る”
翌日は、午前4時起床。
仁淀川のアユ釣り解禁日である。高知市内の宿から釣り場まで車で約30分。中流・柳瀬橋のたもとで高知の全国区アユ釣り名手・内山顕一さんと落ち合った。内山さんは、高知県友釣連盟の代表理事であり、日本一おいしいアユ河川を決定するイベント「清流めぐり利き鮎会」の主催代表でもある。
橋から仁淀川を見下ろすと、瀬の左右にサオの列。
といっても、関東の解禁日や休日ほどの混雑はない。釣り人たちはサオ1本分以上の間隔を保ち、整然と釣っている。見る間に、サオが曲がり、アユがタモに納まる。
「今年は天然ソ上にも恵まれ、アユはいっぱいいます。ただし、いまはちょっと渇水ですね。少し下流へ移動しましょうか」
内山さんに案内されたのは、柳瀬橋から約500m下った“能津”というポイント。
仕掛けをセットし、8本継の友釣り用の長ザオを1本ずつ丁寧にのばしてゆく。去年の秋の終わりに納竿して半年ぶりのアユ釣りである。
解禁日はいつも、子どものように心がはやる。
「目の前の瀬肩の波立ち、あそこにきっといいアユがいます。まず、そこで野アユを取りましょうか」
内山さんのアドバイスに従ってオトリアユを泳がせる。水がキレイなので、石の間を縫って沖へ進むオトリの動きがよく見える。その黒い影がキラッとはじけた。ポイントの波立ちに、オトリが侵入する前にアタリ。一気に瀬の中にもっていかれる。むりやり引き抜こうとして、ハリが外れてバラしてしまった。
予想外の所で魚が出るということは、アユが濃い証拠。再び、瀬肩の波立ちをねらうと、思い通りの場所でアタリ!今度は、瀬に逃げられる前にサオをため、水面に浮きあがったところで引き抜きを決める。17cmほどの追い星の鮮やかな、まさに水もしたたる溌剌と美しい若アユだった。
ここで5~6尾釣って、次に瀬の下流に広がる深瀬に場所を移す。流心の水深は1mほど。深く、押しの強い流れだ。
「解禁日のアユは、自分の居心地のいい流れにいます。流れのキツイ流心よりも、その手前の瀬脇のスジがねらい目です」
こう内山さんに教えられ、瀬脇の流れのスジを引き釣りで上流へ上らせる。
すると、サオを持つ手に激しいアタリ。腰を落としてためる。サオは、仁淀川の空におおきな半円を描いている。浮いてきても、すぐに潜られる。引きに耐えられず、2~3歩下る。それでもまた潜られる。3回目の突進をかわしてやっと相手も力尽きた。
「俗にいう、仁淀アユの“三段引き”です。底流れが強い仁淀川で育ったアユは、体高があって背ビレが立ち、尾ビレも魚体に比べて大きいのでなかなか降参してくれません」
その抵抗の強さ、激しさが、釣り人を歓喜させる。内山さんも我慢できず、対岸に渡ってサオをだす。さすがに名手、見る間に入れ掛かりである。
美しくて強い。これが仁淀川のアユである。その引き味の強さ、鋭さは“仁淀アユの三段引き”といわれる。野アユが掛かると腰を落とし、サオを上流に倒して下流や沖への走りを止める。そしてサオを立て、オトリアユの顔が見えてからが実は本当の勝負になる。
一度、二度と、降参しかけてはまた水底にグングン潜る。良型は三度、四度と川底へ突進。これをこらえてやっと引き抜けるというわけだ
仁淀川は、アユの力強さと美しさとともに、川とその周りの風景も魅力的だ。
川を囲むように連なる高い山々。仰ぎ見る空の青さと白い雲。景色に曇りがなく、清澄な空気感に包まれる。
また川底の石に泥っぽさや砂っぽさがなく、いつもキラキラと輝いている。
- このコンテンツは、2015年7月の情報をもとに作成しております。