釣れた魚を取り込む時、直前に糸が切られて逃がしてしまうことがあります。そんな時に釣り人は「今の魚は大きかった!」と残念がります。釣り人は大げさなのでしょうか。
人間は光の像を目から取り入れて脳で判断することで、物を「見て」いるのですが、その光は直進する性質を持っているものの、条件が変わると曲がってしまいます。この現象を「光の屈折」といいます。ではなぜ光は曲るのでしょうか。
図のように光の先端が異なる物質の境界面に進んできた時を考えてみましょう。光の先端AとBは、最初はいずれも空気の層を同じように進みます。しかし、その後に先端が境界面に斜めに届くと、Aが先にガラスの層に入ります。ガラスの層は、空気の層に比べて光の進む速さが遅くなるので、まだ空気の層にあるBとの間で速さの違いが生まれます。すると、この速度の差により光が曲がります。
「逃がした魚は大きい」のは、この光の屈折を考えれば科学的に説明することが出来ます。釣り人は自分の目に入ってきた光で映像(この場合は水中の魚)を脳内に作りますが、水中から進んできた光は空気との境界面で屈折します。具体的には、空気中を進む時の光の速さは、水中を進む時の1.33倍です。これを屈折率1.33と言います。実際には人間の目の構造など他にもいくつかの要素が影響しますが、わかりやすく言うと、水中にある物体の像は実際より1.33倍の大きさに拡大されるのです。
風呂やプールで立っている時に、自分の足を見た時のことを思い出してください。実際の足より大きく浮かんで見えるはずです。これにも同じ原理が働いていて、水中にあるものは実際より1.33倍大きく見えています。しかし、魚であればそれを岸に釣り上げると空気中の大きさになるので、「なんだ、このサイズか」とがっかりしてしまうのです。
また、夏になると川や海で子供たちが水にはまって溺れてしまう痛ましい事故が毎年のように報道されます。これにも光の屈折が関係してることがあり、岸辺から水中にある物を見ると大きく見え、海底や川底が実際よりも近くに見えます。そのため、子供たちは足が届くと判断して水の中に入ります。しかし、実際には思っていたより深くて足が届かずに、最悪の場合は溺れてしまうことがあるのです。特に水のきれいな川の上流などは、川底がとても近くに見えるので注意が必要です。安全に釣りを楽しむためにも、ぜひ覚えておいてください。