魚は「振動」に敏感
子供の頃、釣り場ではしゃいで走り回ると、「釣れなくなるから静かに!」と大人に注意されました。実際のところ、こうした行動は魚の釣れ具合に影響するのでしょうか?
まずおしゃべりについて考えてみましょう。音を出しているものはギターの弦のように振動しています。その振動が空気を介して耳に届くと、「音」として感じ取られます。ですので、振動を伝える物質(たとえば空気)がないと音は聞こえません。真空の宇宙空間では、音は伝わらず聞こえないのです。
また、音は振動を伝える物質の種類によって速さが変わります。空気中では1秒間に約340mの速さで伝わりますが、水中ではそれが約1,500mになります。水中のほうが5倍以上速く音が伝わるのです。
これだけを聞くと、人の話し声もすごい速さで魚に伝わる……と思えるかもしれません。しかし、実際には空気中で発せられた声は、水との境界面でほとんど反射してしまい、魚に人の声はほとんど届いていません。自分が水中に潜った場合を考えるとすぐに分かりますね。
一方、マンションでは上の階の住人の話し声は聞こえなくても、歩く音は聞こえることがあります。仕切りがあるので空気を伝わる会話は聞こえなくても、歩く振動はコンクリートのような固い物質を伝わって下の階にまで影響するので、最終的に音として伝わってくるのです。
つまり、最初の状況に戻ると、釣り場でのおしゃべりは魚にほとんど影響しなくても、コンクリートの岸壁や岩場を走り回る音は、振動として地面を伝わり、確実に水中の魚たちにも届いているのです。「釣り場で騒いだら魚は釣れない」というのは、特に走り回ることなどについては、正しいアドバイスだと言えます。音がコンクリートや岩を伝わる速さは、水中よりもさらに速く、1秒間に約3,000mと空気中の9倍近くになります。
そのうえで、人間は空気中を伝わる音を、外耳、中耳、内耳の順に取り入れ、奥にある鼓膜に伝えて聞いていますが、魚には外耳や中耳がなく、音は脳の近くの内耳に直接伝わります。そのため音をとらえること自体は人間より苦手です。
ただ、耳が発達していない魚は、代わりに水中の振動をすばやく感じ取る「側線」と呼ばれる器官を発達させました。体の横にある側線によって、水中や水辺近くで発生する振動(人の足音も含む)は敏感に感じ取れるのです。
マナーも含めて釣り場で騒いではいけないのはもちろんのことですが、近づく時から地面に振動を与えないようにすれば、魚に警戒されずによい結果を得られる可能性が高まります。大人も子供も、釣り場ではまず、「静かに歩く」ようにしましょう。