見える色と見えない色
日本人はマダイ(タイ)が大好きです。ハリに掛かればよく引き、食べて美味しいのはもちろんですが、何よりあの鮮やかな赤色が、祝いの席にも彩りを添えてくれるからです。ただ、マダイが赤いのは、そもそもどうしてなのでしょうか?そこには「光」が関係しています。
太陽光がプリズムで屈折した時の図
私たちが太陽の光を見ると、薄い黄色に見えます。この光は人間の目で見えることから「可視光線」と呼ばれます。可視光線には、数種類の色の光が含まれていて、この混ざった光を分けることができるものにプリズム(三角柱のガラス)があります。プリズムを通った太陽光(可視光線)は、大きく7色に分かれます。なぜそうなるのかというと、可視光線に含まれる光の中でも、紫色の光はよく曲がり、赤色の光は曲がりにくいといった性質の違いがあるからです。雨が降ったあと、空に虹が出来るのは、雨粒がプリズムの役割を果たし、その中を太陽光が通るためです。
さて、私たちには7色に見える虹ですが、他の動物にはそうは見えていません。たとえば昆虫は赤色が見えません。代わりに紫色の外側にある、私たちには見えない「紫外線」という光を見ることができます。紫外線は日焼けの原因となる光線ですが、一方では殺菌効果があり大切な光線となっています。紫外線が見える昆虫は、花の筋が人間よりはっきりと分かり、それによって蜜の場所が簡単に分かると言われています。
ヘビは赤色の外側にある「赤外線」を見ることができます。これも私たちの目には見えませんが、赤外線は熱を出す物体から出る光線なので、ヘビは暗闇でも獲物の位置を知ることができます。つまり、生き物によって見ている「色」は違うのです。
空が青くマダイが赤い理由
私たちが見ている「色」についても、もう少し説明しましょう。空が青色に見えるのは、青色の光が屈折しやすいためです。大気中の粒子にぶつかった時に他の色の光より散乱しやすいことで、私たちの目には空が青色に見えます。朝夕の空が赤色になるのは、太陽が低い位置にある時、太陽光が大気の層を斜めに通過することが関係しています。この時、太陽光はそれだけ長く空気の層を通ることになり、すると屈折しやすい青色などの光が地面に届きにくくなり、反対に屈折しにくい赤色の光が多く地上に届きます。そのため私たちには、空が朝焼けや夕焼けと呼ばれる赤色に見えるのです。
では、海の水が青色に見えるのはなぜでしょうか。これには2つの理由があります。1つは青色の空が映っていること。もう1つは、海中でも青色の光が散乱し、逆に赤色の光が吸収されるためだと言われています。
船でマダイが釣れると、最初は黒っぽく見えていた魚が、水面に近づくにつれ赤色に見えてきます。マダイの持っている色自体は変わっていないのになぜでしょう?水中では赤色(赤色の光)が吸収されやすいため、赤色のマダイは深い場所にいる時ほど黒っぽく見えます。それが浅い場所に出てくることで赤色に見えるようになります。つまり、赤色というのは、深い海で生活する魚たちにとっては、本来は見えにくい色、あるいは見つかりにくい色なのです。キンメダイやアカムツ(最近はノドグロの名前で有名です)など、他にも深い海の底近くに棲む魚に赤色のものが多いのは、これが大きな理由だと考えられています。
本来は地味なはずの魚が、人間にとっては鮮やかで華やかな存在になっているというのは面白い話ですが、最近はルアーなどの釣り具も、水中で生活している魚たちの視覚に合わせたものが考案されています。私たちを取り巻く「色」の理由を科学的に考えてみる。そんな作業も、実は楽しい釣りの一部になるのです。