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    掲載日:2021.10.15

    釣り好き水中写真家の水辺めぐり日記(第7回 中国山地のゴギ)

    主に淡水魚の魅力に魅せられ、全国を訪ね歩いている写真家の知来要(ちらい・よう)さん。誰も来ない水辺でじっとその時を待ったり、魚たちと同じ視点を求めてウエットスーツで潜ったり、ユニークな撮影スタイルの中で出会ってきた、水辺の景色やその土地の魅力をお伝えします。

    ゴギを求めて細流へ

    森の緑を映しこんだ流れに毛ばりを投じると飛沫が上がった
    ゴギたちの楽園は藪の奥の奥にある
    周囲の森は苔で覆われていた

    草地にわずかに残された踏み跡を頼りに斜面を降りていくと、人の侵入を拒むかのように背丈まで伸びた藪が現われました。最近釣り人が訪れていない証拠なので藪の奥の川は多分釣れるに違いありません。川を前にした釣り人は皆ポジティブになります。釣れそうな予感がない限り敬遠しそうな辛い「藪漕ぎ(茂った草や稚木をかき分け進むこと)」をして、汗だくで渓流に降り立ちました。
    辿り着いた先は樹木や蔓性植物に覆われローライトな緑の世界でした。苔生した岩や倒木のグリーンを映しこんだ細い川が音もなく流れていて、地上とは全く別の世界が広がっていました。ここは広島県と島根県の県境にまたがる中国山地の渓流で、イワナの仲間であるゴギが生息しています。その昔、朝鮮半島から山陰地方に渡ってきた製鉄技術者が朝鮮の言葉で魚を意味する「コギ」と呼んだことが、「ゴギ」の由来と言われています。このゴギをフライフィッシングで狙うのですが、頭上の木々にラインを絡ませないよう膝をついてロールキャスト(狭い空間でも行なえるキャスト方法の1つ)で毛ばりを投じます。すると畳半分ほどの小さな淵に毛ばりが入り、水底から黒い影が浮上してパシッと水飛沫が上がりました。

    悠久の時とこれから

    中国山地は小さな渓流が多い
    体側の斑点にほとんど色がないタイプのゴギ
    一方で「紅ゴギ」と呼ばれる鮮やかな朱色の斑点を持つものもいる

    釣れたのは頭の先まで白い斑点に覆われた18cmほどのゴギです。体側には薄黄色の斑点が確認できます。少し驚いたような、真っ黒で大きなドングリ眼が愛嬌たっぷりです。
    不思議に思ったのは、前日に同じ山から流れ出る数キロ離れた別の川で釣ったゴギには、体側に赤い斑点があったことです。しかし、こちらのゴギには全くありません。すぐ近くの川なのに、魚から受ける印象はかなり違うものだったのです。ゴギを含むイワナ属は、生息する場所ごとに見た目がかなり変わることがあります。ゴギはそのイワナ属の中でも最も南に棲息する南限種であり、他のイワナ属と比べても、より狭く過酷な環境に長く封じ込められてきました。その結果、隣の川であっても大きな変異が現われているのかもしれません。
    かつてダーウィンがガラパゴス諸島でフィンチという鳥の嘴が島ごとに違うことに着目し、進化論の着想を得たという逸話が頭をよぎります。ゴギを釣り歩く旅は、大海原に点在する島々を訪れるように、中国山地に点在する源流部を巡る旅でもあるのです。そしてもう一つ、現在では川の最上流部に棲息するイワナの仲間は、海が冷たかった数万年前の氷河期にはサケと同じように海と川を往来していたと考えられています。それが氷河期の終わりとともに、海に降りられなくなって各地の山奥に陸封されたといいます。ゴギが中国山地の渓流に陸封されてからの悠久の時間を思う時、目下の地球温暖化は彼らの未来にどんな影響を与えるのか?そんな思いも頭をよぎるのでした。

    アクセス・注意点:ゴギが棲息するのは島根県と広島県の県境を含む中国山地の渓流群。萩・石見空港や広島空港から車でのアクセスとなる。渓流釣りの解禁期間は各河川を管轄する漁協ごとに決められている(だいたい4~9月頃)。その期間以外は釣りができないので注意が必要。

    • 記載の内容は2021年9月現在の情報です。変更となる場合があるのでご注意ください。
    • 写真はすべてイメージです。
    ライター:知来 要
    フォトグラファー:知来 要

    釣り好き水中写真家の水辺めぐり日記

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