山頂付近を流れる川
薄暗い藍色の稜線が徐々に明るさを増し暖色へ変化し始めると見事な雲海が姿を現しました。ゆっくり流れ動く雲海の隙間からは眼下の百済の里(宮崎県美郷町)を流れる小丸川が光って見えています。美郷町は西暦660年頃朝鮮半島で栄えた百済が滅亡した折に亡命してきた王族たちがたどり着いた山間の町で「百済の里」と呼ばれています。町の中を流れている小丸川の最源流部にネイティブヤマメを探しに訪れたのでした。
案内をしてくれたのはヤマメの生態調査などにも熱心な地元、米良鹿(めらじか)釣倶楽部の方々です。確かな情報がない限り絶対に行かないような岩がゴロゴロしている悪路をひたすら走り続け標高1,000mを越えた峠の頂上付近で車は停車しました。
こんな山の頂上付近に川が流れているのだろうかと不安が頭をよぎりましたが車から少し歩いただけで渓流に降り立つことができました。しかもこれだけの標高にもかかわらず落差がなく澄み切った流れがまるで里川のように穏やかに流れています。この渓流にはヤマメを放流した記録がないので生息しているのはネイティブ(人の手が介在していない天然の魚)に違いありません。
重なる2つの歴史
小雨の中釣りを開始したものの反応がないまま一時間ほど釣り上がった頃、雨雲が切れ陽が射すと同時に最初の一尾が毛鉤に飛びついてきました。パーマーク(体側にちりばめられた小判型の模様)が丸に近い特徴があり、頬から側線に沿って赤紫の滲んだ帯が美しいヤマメです。水槽に入れて撮影したりパーマークの模様をアップで撮ったりと、たくさんの写真を撮影することができました。
近年、宮崎大学の岩槻教授のDNA解析によって、従来は3種(ヤマメ、アマゴ、ビワマス)に分かれると考えれてきたヤマメ・アマゴの仲間が、さらに創期ヤマトマス、ヤマトマス、九州ヤマメという3種を加えて、全部で6種類に分類できるという考え方が示されました。一釣り人である私には、釣れたヤマメがどの分類に入るヤマメなのかわかるはずもありませんが、「もしかしたら九州ヤマメなのかもしれない!?」と考えるだけで胸が高鳴ります。
美しい九州の天空の渓でひっそりと命を受け継いできたネイティブヤマメと、穏やかなこの地に終の棲家をもとめた百済の王族たちの歴史が重なりあって、桃源郷に迷い込んだような気分になってしまったのでした。
- アクセス・注意点
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宮崎県南郷町へは、宮崎空港から車でのアクセスとなる。渓流釣りの解禁期間は各河川を管轄する漁協ごとに決められている(だいたい4~9月頃)。その期間以外は釣りはできないので注意。
- 写真はすべてイメージです。