イカダが浮かぶ小さな漁村
三重県南部の紀東エリア。入り組んだリアス式海岸の中には、錦、紀伊長島、海野浦、三浦、白浦、引本、三木浦、三木里など、数多くの港や浦があって、1年を通じてさまざまな魚たちが生息しています。中部地方や関西からもアクセスしやすく、飛行機利用なら、中部国際空港や関西国際空港からレンタカーが便利。そしてこのエリアは、釣り場としての豊かさはもちろん、熊野古道が今も山中を走っているなど、自然に根差した歴史と文化が息づく土地でもあります。
1月下旬、尾鷲市の三木浦にある「城(しろ)渡船」にやってきたのは、歌手としても活動しながら、さまざまな釣りも楽しんでいる岡田万里奈さん。三木浦はマダイの養殖とイセエビ漁が盛んな昔からの漁村。集落は目の前の賀田湾を望む急な斜面に張り付くようにあって、湾内にはマダイの養殖イケスがいくつもと並んでいます。フライフィッシング、エサ釣り、ルアーフィッシングとジャンルを問わずにチャレンジし、最近は釣った魚をさばいたり、熟成させて美味しく食べたりする方法も熱心に研究している万里奈さんが今回見つけた「やってみたい釣り」が、この地域の名物でもある、イカダ釣りやカセ釣りでした。
イカダ釣り、あるいはカセ釣りというのは、特に西日本で盛んな釣りのジャンルの1つです。イカダ(筏)は木や浮力体を組み合わせて作った足場のことで、カセは養殖用のイケスなどに繋いで浮かべる小舟のことを差します。いずれも穏やかな湾内で手軽に釣りをするためのもので、イカダやカセには近くから出る渡船で渡してもらいます。1日目にまず乗ったのはイカダ。広さは7×7mほどあり、簡易トイレも設置されていますが、渡船店に電話すればすぐに迎えに来てもらえ、港にあるきれいな公衆トイレも利用できます。後は自由に釣ってよいのですが、本命のマダイをねらう前に、アオイソメを使った手軽なエサ釣りで、種類を問わない五目釣りをやってみます。
広いイカダで五目釣り
するとすぐに、「トトトン」「グググン」と何かがエサに食い付いてきます。カワハギは残念ながらあと少しのところでハリから外れてしまいましたが、カサゴ、アカササノハベラ、キュウセン、アカエソ、オキゴンベ、イラなど、あっという多くの魚が顔を見せてくれます。「やっぱり魚が多いですね!」と万里奈さん。ウォーミングアップは十分です。
お昼を過ぎたところで船長に一度電話をすると、「ここ数日で冷え込みがあり、水温も下がり気味なので、マダイはカセのほうが出やすいかもしれないね」とのこと。イカダが係留されている場所は水深が20mほど。一方、カセを付ける養殖イケスの周辺は倍近い30~40mあります。低水温期ということもあり、より大きな魚は水温が安定しやすい、少し深い場所にいるのかもしれません。午後からはカセ釣りをやってみることにしました。