世界最高峰のコンクールが開かれるブリュッセル
ベルギーと聞いて最初に思い浮かべるのは何でしょうか。チョコレート、ワッフル、あるいはビールという人もいるかもしれません。
「ベルギーがチョコレートとビールの国であることはもちろんそのとおりです。でもわれわれ音楽家にとっては、エリザベート王妃国際音楽コンクールが開かれる、特別な国なんです」
そう話してくれたのは、国内外での活躍が華々しいヴァイオリニストの岡本誠司さん。ショパン国際ピアノコンクールで、日本では半世紀ぶりの第2位を受賞した名ピアニスト・反田恭平さんが創設した、ジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)のメンバーとしても演奏活動を続けています。「空たびミュージック」シリーズでは反田さんを含むJNOメンバーの音楽家が、各回ごとに交代しながらリレー形式でヨーロッパの都市を案内してくれます。
その第一回を飾る街は、ベルギー・ブリュッセル。では早速、岡本さんと共に、ブリュッセルの旅へと出かけましょう。
街ぐるみでコンクールを応援
岡本さんは国際コンクールで多数の受賞歴があり、前述のエリザベート王妃国際音楽コンクールでは2019年のファイナリストに選ばれました。ベルギーの首都、ブリュッセルで開催されるエリザベート王妃国際音楽コンクールは、ベルギーの生んだヴァイオリンの巨匠、ウジェーヌ・イザイを記念したイザイ国際コンクールを前身としています。現在はヴァイオリン、ピアノ、声楽、チェロの4部門があり、それぞれの部門で4年に一度、審査が行われ、コンクール全体としては毎年、開催されています。
「このコンクールはチャイコフスキー国際コンクール、ショパン国際ピアノコンクールと並ぶ世界三大コンクールの一つに数えられていますが、中でも最も歴史が古く、間違いなく世界最高峰のコンクールです。ここで上位入賞した人たちがどんどん世界で活躍していきますし、また逆に、今活躍している人がグランドファイナルといった位置付けで参加する。僕自身も経験したことですが、本当に演奏家としての総合力が問われるので、ここを通過することは、文字通り、一流の演奏家としての登竜門ですね」
岡本さんによるとコンクールが開催される初夏の時期、ブリュッセルには世界中から音楽家が集まり、街はコンクール一色に包まれると言います。
「コンクールの期間中、ベルギービールを飲みに行こうとお店に入ったら、そこにいた人たちが気づいて、『テレビで見てるよ』と声をかけてくれたり。そういうことはしょっちゅうあって、街の人みんなが知ってくれている。それだけでなく興味を持って見てくれている。それが一番嬉しかったですね」
ベルギービールとムール&フリットと
1カ月以上にわたる滞在期間中、岡本さんの気持ちを和ませてくれたのは街の人の応援と、そしてベルギービールとムール貝でした。
ベルギーがビール大国であることは広く知られていますが、一説によるとその種類は3,000を超えるとも言われています。多種多様なベルギービールには銘柄ごとに専用のグラスが用意されているとか。
2016年には「ベルギービール文化」として、ユネスコの「人類の無形文化遺産」のリストにも登録されました。
「ベルギービールって雑味がしっかりあるものだったり、一つ一つがすごく特徴的で、とにかくさまざまなビールが存在しているのがすごく楽しいですね。ベルギービールや白ワインと、ムール貝。ベルギーに行ったらぜひ食べてみてください。僕はバケツで何杯も食べました。美味しかったなあ」
そう、ベルギーの夏と言えば、ムール&フリットです。調理された鍋ごと出されるムール貝とフライドポテトのことを言いますが、これを食べずに何を食べるのかと言われるほど、絶対的な人気を誇るベルギー料理の一つです。
ちなみにフライドポテトはフレンチフライとも呼ばれますが、その発祥はベルギーであるとする説が有力です。「ベルギーではフレンチフライなんて言ったら、大変ですよ。フリットと言ってくださいね(笑)」と岡本さん。料理の名称を巡るそんな論争を話題にしながらベルギービールとムール&フリットを囲むのも楽しそうです。
後編ではベルギーの人たちの感性を感じられる風景やグルメをご案内いたします。
岡本誠司がナビゲートするブリュッセル【空たびミュージック】後編
- 岡本 誠司(オカモト・セイジ)
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2019年エリザベート王妃国際音楽コンクールにてファイナリストに入賞。21年にはARDミュンヘン国際音楽コンクールヴァイオリン部門第1位入賞している。現在はクロンベルク・アカデミーに在籍し日本およびヨーロッパで精力的にソロや室内楽の演奏活動を行っている。JNO(ジャパン・ナショナル・オーケストラ)のコアメンバーであり、コンサートマスターを務めている。