パリに住み、フランス音楽と本気で向き合いたい
モスクワ、ワルシャワに暮らした経験のある反田さんが、パリに住まいを探している理由を「パリに住んでると言ってみたいから」と話してくれましたが、本当はもっと深い理由もあるのです。
「実は僕にとってフランス音楽はちょっと遠いところがあると思っているんです。例えばリストやラフマニノフノのピアノ協奏曲ならすっと体に入ってくる感覚がある。これってこうやって弾くんじゃないのかなというヒントやアイデアがどんどん浮かんでくる。でもサン=サーンスやラヴェルのピアノ協奏曲だったら相当、時間をかけないとなかなか掴みにくかったりする。ドビュッシーも僕には複雑で、今ひとつわかりにくい。だからその音楽が生まれた国で本腰を入れて音楽に向き合わないと、という気持ちがあるんです」
パリに行くならカフェ巡りはマスト
本当のショパンを理解するためにと、ワルシャワに留学し、ショパン国際ピアノコンクールで見事2位という結果を出した反田さんの気持ちは、今、フランス音楽へと向かっているのです。フランス音楽と思いっきり向き合うための準備は万全ですが、せっかくパリに住むならカフェ巡りも絶対にしてみたい!と反田さんは今から気持ちを弾ませています。
毎日通い詰めるほど美味しい料理に出会える街
「僕、オニオングラタンスープが大好きなんです。オペラ座の目の前にカフェがあるんですけど、そこのオニオングラタンスープは30分並んでも食べたい。チーズがめちゃくちゃかかってて、どろっどろに溶けてて、ああもうお腹が空いてきた(笑)。
あと、『鴨とシャンパン(Canard et Champagne)』っていうお店があるんですよ。ヴァンドーム広場のガルニエ宮殿の近くです。ここの鴨肉が今までに食べたことのないくらい絶品なんです。あまりにも好きすぎて滞在してた1週間のうち4日も通ったほどです。で、毎回インスタグラムにアップしてたら、お店からフォローされたくらいです。ありがとうって言われて(笑)。このお店は、シャンパンも鴨に合ったものを厳選しているんです。ぜひ皆さんにも訪れてもらいたいです」
反田さんは、食もとことん追求してみたいと言います。人の五感を刺激して感情を揺さぶり、感動を与えるという意味で、音楽と食には共通するものがあるのでしょう。
「僕はまだ若いし、お金もたくさん持っているわけではありません。それでも奮発して美味しいものを食べに行きたいと思うことがあります。ちょっと無理しても、回らないお寿司に行ってみたり、コースのフレンチに行ってみたり。そうすることで、ちゃんと自分が生きているっていうことを感じられるというか。
そして実際に食べてみると、なぜそれがこんなにも有名で美味しいと言われるかが分かってくるし、高級なものを知っていると、そうじゃないものの有り難みもこれまで以上に分かってくる。
僕は高級な料理も大好きだけど、結局、最後は卵かけご飯に戻るんですよ、きっと。そういう根底にある大事なことを忘れないためにも、自分の音楽家人生のレベルも引き上げたいというか…。音楽家をはじめ、様々な芸術家がなぜパリに憧れ、パリに集まったのでしょうか。もう一回、ちゃんと音楽家として自分が生きてるんだってことを知りたいが故に、自分がこれまで経験したことのない新しい文化のある街(パリ)に行きたいと思ったんです」
ファッション、グルメ、芸術。世界の最先端、そして一流の文化が凝縮されたパリ。一流のものに触れると人の感性の幅は広がります。人がパリに憧れるのは一流のものから刺激を受けて、新しい自分に出会いたい、生きていることを実感したいと思うからなのかもしれません。
パリに居を定め、パリの街からたくさんの刺激を受けた反田さんの音楽は、この先どんなふうに変化していくのでしょうか。楽しみでなりません。
さて、次回はJNOのフルート奏者、八木瑛子さんにバトンタッチ。オーストリアのザルツブルグを案内していただきます。どうぞお楽しみに。
前編では、反田恭平さんがパリでの演奏会を通して感じた、人々についての印象を語ってくれています。ぜひご覧ください。
反田恭平がナビゲートするパリ【空たびミュージック】前編
- 反田 恭平(ソリタ・キョウヘイ)
-
2016年のデビュー以来、リサイタルやオーケストラのツアーなど国内外を巡り、2018年からは自身が創設したJapan National Orchestra(JNO)をプロデュースしている。JNOは2021年より株式会社として、またオンラインサロン「Solistiade」の運営も行うなど、クラシック業界の新しいあり方にも尽力している。2021年第18回ショパン国際ピアノコンクールでは日本では半世紀ぶりとなる最高位2位を受賞した。
-
ウェブサイト:Kyohei Sorita Official Site