マルギット島を走り、ブダペストの夜景を見る毎日
ブダペストに留学してすぐコロナ禍に見舞われた水野さんは、自分の気持ちを整えるためにランニングを始めたそうです。世界遺産のドナウ河岸からマルギット島が水野さんの毎日のランニングコース。
「ふと、これからどうしていこうかとか、なぜ音楽をやっているのかとか、いろいろ考えてしまうのですが…。ランニングする時はスマホは家に置いて、ちゃんとタイムを計って、余計なことを考えずにただ走ることに集中するんです。その時間がとても好きですね」
マルギット島は水野さんがブダペストで一番好きな場所の一つ。ランニングの途中、マルギット橋からは国会議事堂が望めます。
「僕、普段そんなに感動することって少ないんですけど、ブダペストの夜景は本当に涙が出るほど感動しました」
おすすめグルメはトカイワイン、フォアグラ、マンガリッツァ
温泉、夜景、そしてもちろんハンガリーは美味しいものにも恵まれています。水野さんのおすすめはずばり、トカイワイン、フォアグラ、マンガリッツァです。
トカイワインはブダペストの北東230kmに位置するトカイ地方で作られるワインで、フランス国王ルイ14世をして「王者のワインにしてワインの王者」と言わしめたという逸話があるそうです。「甘いジュースのような白ワインなんですけど、すごく美味しいのがたくさんあります。僕は毎回、日本に買って帰ります」
甘いお酒なので食前酒や食後酒として飲まれることの多いトカイワインですが、フォアグラとの相性は抜群。ハンガリーはフォアグラの生産量が世界一というだけあって、ハンガリー人にとってこの世界三大珍味の一つは庶民の味なのです。
「ちょっとだけグレードアップしたファミレスくらいの感覚で、普通にフォアグラが食べられます。すごくリーズナブルですよね?」
そして水野さんおすすめの3つ目「マンガリッツァ」は、“食べられる国宝”です。喩えではなく、実際にハンガリーでマンガリッツァは国宝に指定されています。このハンガリー原産の希少種は巻き毛に覆われており、一見すると羊のよう。1990年代に国内のマンガリッツァ豚は絶滅寸前にまで激減するのですが、国を挙げて保護策を推進し、その危機を逃れました。
世界で最も脂肪の多い豚の一つです。それだけ聞くと敬遠されてしまいそうですが、マンガリッツァ豚の脂肪は融点が低く、ほうばった瞬間に香ばしい香りを放ちながらじゅわりと溶けてしまうほど。世界で最もおいしい豚肉の一つといわれているのです。
「脂の質が良いのか、ぜんぜんギトギトしていなくて、柔らかくて、それはそれはもう、ただただ美味しいです」
低音が際立つ音楽ホールでクラシック音楽を
世界遺産の街、そして美食の街。そのブダペストで暮らしながら、伝説のチェリストに師事する水野さん。
「先生がハンガリー人の血を持っている方でもあり、どんなメロディーであっても一つひとつを大事に演奏するという姿勢を日々、身を持って学んでいる感じです」
チェロは圧倒的にヨーロッパの気候の方が馴染みやすい楽器であり、多少楽器の調子が悪くてもホールの環境が助けてくれたりすることを水野さんは感じるそう。
「アンドラーシ通りにあるオペラハウスももちろんですが、ブダペストに行くなら僕の通っているリスト音楽院のホールでもぜひ、クラシック音楽を聴いてほしいです。響きが素晴らしくて、特にチェロのような楽器の低音が、通常のホールの何倍くらい聴こえるだろうっていうくらいにしっかりと聞こえてくるんです。クラシック音楽の迫力や醍醐味を、きっと感じていただけるはずです」
オペラハウス(ハンガリー国立歌劇場)は5年間の改修工事を終え、2022年3月に再開されたばかり。ハンガリーへの旅では、音楽と美食をたっぷりと味わえそうです。
さて、次回はJNOのファゴット奏者、古谷拳一さんにドイツのベルリンを案内していただきます。どうぞお楽しみに。
前編では、水野優也さんが日々の生活を通して感じるブダペストの魅力を語ってくれています。ぜひご覧ください。
水野優也がナビゲートするブダペスト【空たびミュージック】前編
- 水野 優也(ミズノ・ユウヤ)
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1998年生まれ、東京都出身。第89回日本音楽コンクールチェロ部門第1位および岩谷賞(聴衆賞)、黒桝賞、徳永賞、全部門を通じて最も印象的な演奏に対し贈られる増沢賞を受賞。国内各地でのソロリサイタルをはじめ、数々の楽団とも共演を重ねている。2018年よりリスト・フェレンツ音楽大学に留学し研鑽を積んでいる。