ドイツの経済、文化を牽引する大都市、ベルリン
ドイツの首都、ベルリン。第二次世界大戦後には東西を分断する壁がここに築かれ、激動の時代を経験した街です。しかし1989年に壁が撤去されてから、すでに30年以上の時が過ぎました。東西ドイツ統一後、ベルリンはドイツ経済の中心地として発展を続け、教育、文化、新しいビジネスなどさまざまな分野を牽引しています。
東西を隔てた壁は取り壊されましたが、残された壁が今、「イーストサイド・ギャラリー」としてアートスポットになっていることをご存知でしょうか。ベルリンは現在、アートの聖地としても知られ、世界中からアーティストが集まるクリエイティブの発信地としても注目されています。
今回のナビゲーターである古谷拳一さんは、国内外で活躍するファゴット奏者。ショパン国際ピアノコンクールで日本では半世紀ぶりの第2位を受賞した名ピアニスト・反田恭平さんが創設した、ジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)のメンバーとしても活動中。「空たびミュージック」シリーズでは反田さんを含むJNOメンバーの音楽家が、各回ごとに交代しながらリレー形式でヨーロッパの都市を案内してくれています。
「ベルリンは大都会と言っていいと思います。有楽町にそっくりだなと思う赤煉瓦の風景があったりして、ちょっと東京に似てるかな。ベルリンには4年ほど住んでいますが、以前に出会った人がすぐにいなくなったり、また新しい人が入って来たりとか、街も人も常に変化しているような気がします」
そう話す古谷さんは現在、スイスのチューリッヒとベルリンの2カ国で勉強しつつ、ベルリンでは木管五重奏団パシフィック・クインテットを結成するなど、精力的に音楽活動を続けています。では早速、古谷さんと一緒にベルリンへの旅に出かけましょう。
寒く暗い冬にもドイツの人々の心を照らす音楽
ベルリンはアートの街と紹介しましたが、それ以上に音楽の街でもあります。バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、メンデルスゾーン、ワーグナー、ヘンデル、シューマン、R.シュトラウスなど、ドイツが生み出した音楽家を数え始めると終わりがないと思えるほどです。
「ドイツの音楽を聴いていると濃厚だなって思いますね。こう、ずしずしと韻を踏む感じがあって、言語と似ているというか。僕はスイスでも暮らしているのですが、スイスのドイツ語ってちょっと軽い感覚があるんです。スイスは地形的にドイツと共にフランスの影響も受けているので、スイス独自の言語が生み出されているんでしょうね。その喋り方が、歌い方と言ってもいいんですが、音楽に直接繋がっているんだなということを凄く感じています」
ベルリンとチューリッヒに暮らして、言語と音楽の関係に気づきがあったと語ってくれた古谷さんですが、これまで考えたこともなかった“天気”についても思うところがあったそうです。
「ドイツは夏はとても気持ちがいいのですが、基本的には曇っていることが多いんです。特に冬は寒くて暗くて、ずっと生活していると気持ちまで澱んでしまう。たまに晴れた日が来るともう嬉しくて、そういう日は外に出て歩いたりします。お天気がいいってこんなに自分の心を穏やかに嬉しくさせてくれるんだって気づきました。
でも、その冬の真っ暗な日々の中にひとつ音楽があるだけで、それが心の支えになるんです。そういった意味でも音楽って素晴らしい! って、向こうにいると本当に心からそう思うことがよくあります。だからこそ音楽がこんなにも人々の中に根付いているのかもしれません」
スーパーで買う缶ビールも一味違う
気持ちよく晴れた日には、夏だったらやっぱりビールを飲むと最高、と古谷さんは言います。
「ドイツのビールはやっぱり美味しいですね。スーパーマーケットで買う缶ビールひとつとっても全然違います。飲み心地というのか、美味しいビールは一口目で決まりますね」
ドイツは言わずと知れたビール大国。醸造のしかたや地域の違いによって5,000以上もの銘柄があり、1,300を超える醸造所があると言われています。
古谷さんのお気に入りはバイエルンの缶ビール、ドイツ語でBier Vom Fassと呼ばれるいわゆる樽から注ぐ生ビール、そしてヴァイツェンという伝統的な白ビールだそうです。
「僕の一番の楽しみは、仕事をした後の一口目なんです(笑)。 ビールのあのポップな感じ、ドイツにいるとそれが常に身近にあるのが楽しいですね」
古谷さんのお話を聞いていたら、ベルリンで自分のお気に入りのビールを見つけてみたくなりました。
後編では古谷さんおすすめの音楽の楽しみ方や、ベルリンの名物グルメ「カリーヴルスト」についてもご紹介いたします。どうぞご覧ください。
古谷拳一がナビゲートするベルリン【空たびミュージック】後編
- 古谷 拳一(フルヤ・ケンイチ)
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1994年大阪府生まれ、千葉で育ち9歳の時にファゴットと出会う。千葉県立幕張総合高校卒業、東京藝術大学にて卒業時にアカンサス賞ならびに同声会賞受賞。東京藝術大学卒業後、スイス文化庁の奨学生としてスイスチューリッヒ芸術大学院に入学、満場一致の満点で卒業し、2021年9月より同大学院のソリストコースに特待生として在学中。スイス在学中にはベルリンフィルカラヤンアカデミーのオーディションに合格し2019-2021年在籍。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団日本ツアーやジルベスターコンサートなどにベルリンフィルの一員として参加した。室内楽ではハンスアイスラーベルリン音楽大学の室内楽修士課程にPacific Quintetとして在籍。Japan National Orchester コアメンバー。
スイスMuri国際コンクールファゴット部門優勝、プラハの春国際コンクールで二位を受賞。室内楽では「Pacific Quintet」としてカールニールセン国際コンクール室内楽部門で2位を受賞とSound &Explanationコンクールで優勝とソリスト室内楽共に輝かしい成績を残している。
ドイツ文化財団、スイス文化庁奨学生、キーファーハブリッツェル財団、YAMAHA音楽財団より奨学金を授与される。ファゴットをこれまでに伊藤真由美、井上俊次、岡崎耕治氏に師事。ファゴットをシュテファン・シュヴァイゲルト、マティアス・ラッツ氏に、室内楽をマルティン・シュパンゲンベルク氏に師事。