今の旬はビオ・カリーヴルスト
前編でご紹介したドイツビールとともに古谷さんが絶賛するのがベルリン発祥のドイツ料理、「カリーヴルスト」。カレー味のソーセージです。焼いたソーセージにケチャップとカレー粉をまぶしただけのシンプルな料理ですが、庶民の味として愛されています。
「さまざまなお店が味を競い合っているんですが、僕がおすすめしたいのはビオ・カリーヴルストです。ビオはオーガニックという意味です。カリーヴルストは普通はだいたい3ユーロ以下なんですけど、ビオは倍くらいするんです。『なんでこんなに高いんですか』って聞いたら、ソーセージの素材は牛から厳選して、ソースに使われるケチャップもマヨネーズも全部オーガニックにこだわっているからなのだとか。で、食べてみたら、普通のカリーヴルストと全然違った。食べ終わっても、ソーセージがいつまでもずっと舌の上にいる感じなんです。美味しいものを食べた後って、味の記憶が舌に残りますよね? なんか僕、このビオ・カリーヴルストにエクスタシーを感じてしまったんです(笑)。 ベルリンに行ったら、ぜひカリーヴルストの食べ比べをしてください。絶対に楽しいと思います」と古谷さん。
食べ比べといえば、野趣あふれる「シュバイネハクセ」も古谷さんの一推しです。シュバイネハクセは塩漬けした骨つきの豚スネ肉を野菜などと一緒に漬け込んで、ボイルしてから焼き上げた料理です。同じ骨つきの豚スネ肉をボイルするアイスバインに比べると、皮付きのシュバイクハクセはこんがりと焼き上がるのが特徴だそうです。
「豚のスネ肉の塊にフォークが刺さった状態で出てきたりします。ベルリンやミュンヘンなどそれぞれの地域によって調理の仕方も違うんです。地域ごとに個性があるから、ドイツのさまざまな街で食べてみるときっと楽しいですよ」
ジーンズで気軽にオペラに出かけられる、音楽あふれる街
おすすめのグルメについて熱く語ってくれた古谷さんですが、ベルリンでの音楽の楽しみ方についても教えてくださいました。
「ベルリンは音楽にあふれた街なんです。例えば電車に乗っていると突然、車両に楽団が入ってきて演奏が始まったりします。ギターとかフルートとか、時には歌う方も。電車でオーボエを吹いてた方がいて、その人は実力はあるんだけど楽器が全然だめで、それを見ていた方が新しいオーボエを買ってプレゼントしたという話を聞いたことがあります」
何とも素敵なエピソードです。電車の中だけでなく路上演奏も、ベルリンでは日常的に見られる光景なのだそう。
このようにベルリンでは暮らしに音楽が根付いているのですが、この町に10を超えるプロのオーケストラがあると聞けば、それも納得です。たとえば今日、公演を聴きたいと突然思いたったとしても、すぐにチケットを予約できる、そんな環境が整っているのです。オーケストラ毎に拠点となるコンサートホールが決まっているから、演奏だけでなくホールの設計にも目を向けるとさらに楽しみが広がりそうです。
「ホールによって音の響き方も全然違います。また、観客席の前の方で聴くのか後ろで聴くのかによっても違いがありますね。僕はベルリンフィルのアカデミーに所属しているので、ベルリンフィルへの想いも強くて。皆さんには、ぜひベルリンフィルハーモニーのホールに来ていただきたいなって思います。東京のサントリーホールにも受け継がれているオープン型のホール設計が特徴で、舞台を囲んで後ろ側にも客席があります。お客さんと奏者の距離が近く、お互いにアイコンタクトを交わせるくらい。自分がお客さんとして聴きに行った時には、指揮者が前にいて、自分が楽器を吹いているような感覚で演奏を聴くこともできるんです。まるでオーケストラの一員であるかのような、そういう音楽の聴き方も面白いんじゃないでしょうか」
コンサートの感想をダイレクトに伝えるベルリンの若き聴衆
誰もが音楽を楽しめる環境が整っているベルリンですが、最近はさらにそれが顕著になっているようです。
「ひと昔前なら、オペラを聴きに行くにはしっかりとスーツやドレスを着ていったものでしたが、最近は夜の公演にジーンズで行っても全く問題ありません。それに向こうにいてびっくりするのは、僕と同年代の人たちやもっと下の年代の子たちが普通にオーケストラの演奏会に足を運んでいることです。彼らから、感想や講評をメールやSNSでいただいたりします。『今日聴きに行ってたよ』とかメッセージを送ってもらえることも多くて、それが凄く励みになりますね」
ドレスアップして演奏会に出かけるのも旅行者としての楽しみの一つですが、カジュアルなスタイルでも構わないと聞くと、一気に演奏会へのハードルが下がるという方も多いのではないでしょうか。気軽に演奏会に出かけて、終わったらビールで乾杯! 想像しただけでも、そんな素敵なドイツ旅に心が弾みますね。
さて、【空たびミュージック】最終回となる次回は、JNOを率いるピアニストの反田恭平さんに、ポーランドのワルシャワを案内していただきます。どうぞお楽しみに。
前編では、古谷拳一さんが感じるドイツ語と音楽の関係について語ってくれています。ぜひご覧ください。
古谷拳一がナビゲートするベルリン【空たびミュージック】前編
- 古谷 拳一(フルヤ・ケンイチ)
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1994年大阪府生まれ、千葉で育ち9歳の時にファゴットと出会う。千葉県立幕張総合高校卒業、東京藝術大学にて卒業時にアカンサス賞ならびに同声会賞受賞。東京藝術大学卒業後、スイス文化庁の奨学生としてスイスチューリッヒ芸術大学院に入学、満場一致の満点で卒業し、2021年9月より同大学院のソリストコースに特待生として在学中。スイス在学中にはベルリンフィルカラヤンアカデミーのオーディションに合格し2019-2021年在籍。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団日本ツアーやジルベスターコンサートなどにベルリンフィルの一員として参加した。室内楽ではハンスアイスラーベルリン音楽大学の室内楽修士課程にPacific Quintetとして在籍。Japan National Orchester コアメンバー。
スイスMuri国際コンクールファゴット部門優勝、プラハの春国際コンクールで二位を受賞。室内楽では「Pacific Quintet」としてカールニールセン国際コンクール室内楽部門で2位を受賞とSound &Explanationコンクールで優勝とソリスト室内楽共に輝かしい成績を残している。
ドイツ文化財団、スイス文化庁奨学生、キーファーハブリッツェル財団、YAMAHA音楽財団より奨学金を授与される。ファゴットをこれまでに伊藤真由美、井上俊次、岡崎耕治氏に師事。ファゴットをシュテファン・シュヴァイゲルト、マティアス・ラッツ氏に、室内楽をマルティン・シュパンゲンベルク氏に師事。