時空を超えて迎える、年間80万人
江戸時代の姿のまま、それも、地域全体を保存している町があることをご存知ですか。福島県会津若松から南へ約30km、下郷町(しもごうまち)にある大内宿(おおうちじゅく)をご紹介します。
福島空港に着いたら車、または電車の場合は湯野上温泉駅へ。車で10分ほど行くと、国の重要伝統的建物群保存地区に指定されたかつての宿場町が見えてきます。まっすぐ伸びた数百メートルの街道には、両側に美しく並ぶ茅葺屋根の家並み。江戸時代から数百年、世代を越えて今も地域の人々が暮らす大内宿のシンボルとして、訪れた人を優しく出迎えてくれます。
大内宿は戦国時代から人々がここに暮らし、縁側に商品を並べて小売業をしたり、家屋の一部を宿として営業するなど、会津と関東を結ぶ街道として栄えてきました。明治以降、交通網の発達などと共に人々の往来が減少するも、歴史的観点から保存を希望する声が強まります。そして現在では、住民憲章「売らない・貸さない・壊さない」の三原則のもと、約130人の住民が48軒を宿や飲食店として守り、年間80万人の観光客を迎えるまでの観光地になりました。
想像力を膨らませながら街道沿いを歩けば、きっと先人たちへの畏敬の念が込み上げてくるでしょう。
時代はいつだって名もなき民が築く
大内宿まで来たら見逃せないのが、敷地内にある「大内宿町並み展示館」です。当時の生活道具や農具が1300点、さらに参勤交代で使われた会津藩主の部屋も当時の雰囲気そのままに再現されています。
ボタンひとつ、あるいは端末に向かって声を掛けるだけで用事が済む現代だからこそ、かつて全てが手作業だった時代を想像する時間は貴重です。手作りされたそれぞれの道具の用途を知り、サイズや感触を試し、もしかしたら自分のご先祖も使っていたのだろうかと思いを馳せる。過去と未来をつなぐ、今を実感できる場です。
大内宿町並み展示館
- 住所:福島県南会津郡下郷町大内山本8番地
- TEL:0241-68-2657(教育委員会 文化財係)
- ウェブサイト:大内宿町並み展示館
大自然が作り上げた、いのちの芸術
大内宿から車で約30分の距離にある「観音沼森林公園」は、約1万7千年前、甲子旭岳の噴火によってできた沼地と、敷地内の自然を楽しめる散策路などが整備された森林公園。30ヘクタールという広大な敷地内には多様な草木が息づき、新緑から雪景色まで、全ての季節を演出しています。
自然の形をできるだけ保ちながら散策路が整備されており、観音沼の周辺をぐるっと一周することもできます。約1.2kmの周囲をゆっくり歩いても1時間前後。高低差が少ない道のため、落ち葉を踏みしめたり、沼に浮島を発見したり、水面に映り込む景観美を眺めたりと、大自然の息吹に身をまかせながら、全身で南会津を感じる時間が過ごせます。
観音沼森林公園
- 住所:福島県南会津郡下郷町野際新田上ノ台
- TEL:0241-69-1144(下郷町 総合政策課 商工観光係)
- ウェブサイト:観音沼森林公園
ほっとするような味がたくさん
豊かな自然の中ですっかり気持ちがほぐれたら、ローカルグルメをチェックしましょう。
大内宿でご当地グルメといえば「蕎麦」ですが、せっかくならその他の味も楽しんでみませんか。実はこの地ならではの食べ歩きグルメも充実しているのです。 たとえば、ねぎそばで知られる「本家 玉屋」は店頭で「きんつば」を焼き、「山形屋」では「大内丸」という大きなせんべいを、注文を受けた後 に醤油をつけて 二度焼きしてから販売しています。さらに「そば処こめや」にはジャガイモで作った「いももち」、工芸品を販売する「南仙院本家」ではそば粉の衣で揚げた「そば粉の天ぷらまんじゅう」などなど、買ったその場で味わえるおやつ感覚のおいしさが充実しています。
ご飯を軽く潰して団子状にした上に、炒ったじゅうねん(エゴマ)を甘味噌にした「じゅうねん味噌」を絡めた「しんごろう」は、囲炉裏でじっくり焼かれた香ばしさと、ふんわりとした歯応えが人気の郷土料理のひとつ。大内宿に向かう際、茅葺屋根の駅舎が特徴の会津鉄道・湯野上温泉駅でも購入できます。寒さの厳しい南会津で、心身に染み入る味をお見逃しなく。
水と土と太陽に恵まれ、地域の愛によって守られ続ける大内宿。受け継がれたものが放つ重厚さを味わいに出掛けてみてください。
- メインビジュアル:雪景色の大内宿(画像提供:下郷町観光協会)