「お祭り」から始まる旅は、その国や町をより身近に感じられる
名所を巡ったり、ツアーで買い物をしたり。そんな旅も楽しいけれど、起点を「お祭り」にするというのも、旅のだい醐味のひとつ。訪れた国や町の文化をより深く知ることができ、新しい出会いの入り口になってくれます。
屋台に並ぶおいしそうな地元の料理や、地元の方が身にまとう伝統的な衣装。古くから伝わる音楽も奏でられ、長年、大切に守ってきた文化や歴史が息づいています。訪れた国や町がぐっと近くに感じられるのは、お祭りを起点にした旅だからこそ。にぎやかなフェスティバルもあれば、ユーモラスな行事もあり、きっと新しい発見や出会いがあることでしょう。
中世の古城を望む、ドイツ・コッヘムのワイン祭り
木組みのかわいらしい建物が軒を連ねるその向こうの丘には、古いお城と、ワイン畑が広がる町。モーゼル川に沿うように広がるコッヘムは、フランクフルトから鉄道に乗って40分ほどの場所にある、ドイツで最も古いワイン産地のひとつです。町を歩いてわかるのは、大きなホテルやレストランはほとんどなく、家庭的な料理を出すレストランやカフェ、小さな民宿が多いこと。
コッヘムで8月に開催されるのが、ワイン祭り。モーゼル川に向かって傾斜する丘には、一面にぶどう畑が広がり、日差しをたっぷりあびて味が凝縮されているだろうことがわかります。そこかしこにワインショップがあり、道端にはワインの自動販売機まであるほど。コッヘムの白ワインを目当てに、国内から足繁く通う愛好家がいるというのもうなずけます。
50以上あるワイナリーの中には、ツアーを開催しているところもあり、さらにはワインに合うソーセージやチーズなどを出す屋台も。地元の方たちが毎年楽しみにしているお祭りというだけあって、いつもはおだやかな町が一段とにぎわう季節。
そして旅の楽しみは、ワインだけにあらず。町のどこにいても目に入るのが、丘の上にそびえるコッヘム城。もともと要塞だったことから、隠し扉や町へ続く秘密の通路などもあり、それらを紹介するガイドツアーも人気です。もちろん、お祭りの時期には城内でワインを飲んだり屋台で食事をしたりと、異空間で味わう楽しみも。
コッヘムは、1日もあれば、ゆったりと歩いて回れる町。ここを起点にモーゼル川沿いの近隣の町へ遊びに行く人も多いそう。おすすめは、ドイツ三大美城のひとつであるエルツ城。ドイツでは戦争で破壊され、再建された城が多いなか、この城は850年以上前に建てられた姿がそのまま残されています。モーゼル渓谷の深い森の中にたたずむ姿は、じつに幻想的で絵本の中の世界のよう。城を目的にしながら、渓谷の森でゆったり過ごす時間もまたいいものです。
美しいぶどう畑と、趣ある古城と。派手な観光地ではないからこそ、おいしいワインとお祭りの活気を楽しみながら、ゆったりとリラックスした時間を過ごすことができるのは、コッヘムならではなのかもしれません。
コッヘムワイン祭り
- 開催時期:毎年8月
- アクセス:フランクフルト国際空港から車で1時間40分ほど。または、鉄道で2時間40分ほど。
地元自慢のフェスティバル、韓国・釜山の花火祭り
日本での花火大会を見ていてもなお、感動するという声があがるのが釜山の花火祭り。ソウルに次ぐ第二の都市である釜山では、夜景のきれいな海岸沿いで、なんと10万発もの花火を打ち上げる一大イベントがあります。日本国内の花火大会では最大でも3〜4万発なので、その規模の大きさは想像以上。開催されるのは、ビーチエリア「広安里(クァンアルリ)」。海水浴でのにぎわいが落ち着いた秋になると、花火祭りに向けて再び街が活気であふれます。
海の向こうにはライトアップされた広安(クァンアン)大橋が見え、橋の手前や奥に停泊する船から一斉に花火が。地響きのように足から伝わるドーンという音とともに、夜空から降り注ぐように次々に打ち上げられる花火は圧巻です。
国内だけでなく海外からも訪れる人が多く、ビーチは人でいっぱい。けん騒を味わいながら海岸で見るのも楽しいですが、ここは釜山。海に隣接していながら山も多いという土地柄、荒嶺山烽燧台(ファンニョンサンボンスデ)や鎮海山(チネサン)などの高台へ行くと、ライトアップされた海岸線や市街地の夜景も一緒に堪能できます。海岸沿いのホテルに宿泊すれば部屋からのんびり観賞することも。
屋台も出ていて、キンパやおでん、トッポギなど気軽に食べられる軽食がたくさん。街歩きも楽しいものです。さらには、広安里から釜山駅まで戻れば、釜山港にあがる海産物を扱う大きな市場「チャガルチ市場」も。1800年代後半から続く古い市場で、数年前に建て直されて近代的なビルに。地下2階から地上7階まであり、その規模は韓国一といわれています。一歩入れば大きな声が飛び交う昔ながらの市場そのもの。
ほかにも、海産物からお惣菜まで扱う釜田(プジョン)市場や、厨房用品や日用品店など700件近い店が軒を連ねる国際(クッチェ)市場、小規模ではあるもののデジクッパや屋台通りのある西面(ソミョン)市場、地元の方たちがカニといえばここという機張(キジャン)市場などもおすすめ。港町らしい活気あふれる釜山の姿を、ぜひ。
釜山花火祭り
- 開催時期:毎年11月
- 住所:プサン広域市スヨン区クァンアンヘビョンロ219
- アクセス:金浦空港から鉄道で3時間ほど。もしくは国内線に乗り換えて1時間ほど。
- ウェブサイト:釜山花火祭り
フライパン片手に走って祝う、イギリスのパンケーキ祭り
頭に三角巾、腰にはエプロンをつけスタートラインに並ぶ人々。キッチンから出てきたような姿ですが、足元はしっかりスニーカーを履いています。そして手には、フライパン。おいしそうに焼かれたパンケーキを落とさずにゴールまで走るというレースが始まるのです。
なんとも愛らしくておもしろいこのレースは、パンケーキ祭りの一環。パンケーキ・デーと呼ばれる日に開催され、イギリスでは、ロンドンやオルニー村など各地でにぎわいを見せるそう。
そもそもは、復活祭の前に行う40日の断食期間に備え、家にある卵や牛乳を消費するためにパンケーキを作ったのが始まりといわれています。今では断食をする人はほとんどいませんが、パンケーキを食べるという習慣は残っているというわけです。
パンケーキレースも歴史は古く、発祥は1445年のことといわれています。オルニー村の主婦が断食前日にパンケーキを焼いていたところ、礼拝の始まる鐘がなってしまい、フライパン片手にエプロン姿のまま教会へ駆け込んだことから、とか。
発祥の地であるオルニー村では、戦争で中断されながらも、大戦後には毎年開催されてきました。一方、ロンドンでは、2009年に再開され、世界中から多くの方が集まってくるイベントになっています。
レースの内容はそれぞれの地域で違うもの。特にロンドンは、仮装をしていたり、チーム戦のリレーだったりと、バリエーション豊か。特に人気なのは、ハリーポッターのロケ地としても有名な「レドンホール」で行われるレースです。ロケーションの良さと、飛び入り参加もできることからロンドンっ子から観光客まで集まって大にぎわい。
一方、オルニー村では、発祥の逸話から女性だけが参加するレースがメイン。子供だけのレースもあって、じつにほのぼのした雰囲気を味わえます。
どの地域でも、レースの他にもお楽しみがあってこそのお祭り。早食い競争もあれば、パンケーキ店が自慢の一品を提供したり、この日だけの特別メニューのパンケーキを出すカフェもあったりと、とにかくパンケーキ尽くしです。
甘い匂いに満たされ、あまりの楽しさに忘れそうになりますが、これは宗教行事。観覧料や売上、サポート料は教会への寄付にすることが多く、たっぷり食べて楽しんだら、きちんと着替えて教会へ礼拝に行く人もたくさん。その姿からは、宗教や文化が背景にあってこそのお祭りということが伝わってきます。
ロンドンならアクセスもしやすく、にぎやかで華やか。一方、旅慣れている人や本場の雰囲気を知りたいなら、オルニー村へ足を延ばすのも楽しいはずです。しっとりした冬のイギリスで、春を知らせる楽しいお祭りをぜひご堪能あれ。
パンケーキ祭り
- 開催時期:毎年2月
- アクセス:オルニー村は、ロンドンから鉄道で2時間ほど。
美しく幻想的な、タイ・チェンマイのイーペン祭り
タイで最も美しいお祭りといわれているのが「ロイクラトン祭り」。なかでも、チェンマイでは「イーペン祭り」と呼ばれ、国内外からたくさんの方が訪れます。
ロイクラトン祭りは旧暦11月の満月の夜に行われ、川の恵みへ感謝し、自らのけがれをそそぐことが目的。諸説ありますが、13世紀のスコータイ王朝の王妃がきっかけといわれています。バナナの葉ではすの花をかたどったクラトンとよばれる灯ろうを作り、川に流したことから始まったそう。今でも同じように続いていて、小さな花を飾ったクラトンにろうそくや花火をつけ、願いを込めて川に流します。
タイの全土で行われ、各地域によって形式が異なるものですが、特にチェンマイでは、空にも灯ろうを上げるコムローイ祭りも同時に行われることで有名です。
コムローイとは、紙製の灯ろう。夕方から会場に人々が集まり始め、僧侶たちによる儀式が進んでいくにつれ、あたりは少しずつ暗くなっていきます。コムローイに点灯したら、20時めがけてカウントダウンをし、一斉に夜空へと放つのです。真っ暗な空に光の灯ったコムローイが何千も舞い上がる姿は、とても美しくて幻想的。すべての病気や不幸を手放し、新しい年を迎えたいという思いを込めて放つのです。
観光客がコムローイを上げることもできますが、環境に与える影響などさまざまな課題があります。政府による制限があり、一人が複数の紙灯篭を空に放たないように個数制限が推奨されています。環境に配慮したい場合は、この美しいお祭りを目で見て楽しむという選択肢も。
お祭りは、クラトンとコムローイだけではありません。そもそもイーペン祭りは数日に渡って開催されているもの。チェンマイ市内ではいたるところでランタンの飾り付けがされ、寺院での儀式や伝統舞踊を見ることもできます。
美しく飾りつけられた巨大ランタン山車や、タイの伝統衣装を身にまとった人たちのパレードも夜通し行われます。会場には、屋台もずらりと並んでいて、パッタイやカオソーイなどでお腹を満たしながら、お祭りを楽しむことができます。
イーペン祭り
- 開催時期:毎年10月または11月
- アクセス:バンコクからチェンマイへは、国内線で1時間ほど。
- ウェブサイト:イーペン祭り
アメリカ・ワシントンD.C.のナショナルチェリーブロッサムフェスティバルでアメリカ版のお花見を楽しむ
さかのぼること約110年。東京からワシントンD.C.へ友好の証として、3,000本の桜の木が贈られました。なんと、それらの桜は今もなお、ポトマック川沿いやタイダルベイスンで花を咲かせて人々を楽しませています。「ナショナルチェリーブロッサムフェスティバル=全米桜祭り」は、そんな桜の姿とともに春の訪れを祝うため、3週間ほど開催されるお祭り。
日本でのお花見ももちろん楽しいですが、ワシントンで見る桜もひと味違っていいものでしょう。タイダルベイスンにある桜は樹齢100年近いものも多く、一斉に咲き誇る姿は、圧巻の一言。広い芝生もあるので、春の風に吹かれながらのピクニックや散策も楽しめますし、夜はライトアップされてまた別の風情ある姿を見ることもできます。
フェスティバルでは、花火大会やマラソンなどが行われるほか、フィナーレとして開催される盛大なパレードも見どころです。時間になると桜のような紙吹雪が舞い、大きな歓声とともにスタート。ブラスバンドや鼓笛隊が登場するとともにどんどん熱気が高まっていき、三味線や和太鼓、桜の造花でデコレーションされた「フロート」と呼ばれる山車や巨大バルーンやパレードカーなどが、日米それぞれの文化を紹介していきます。日本人も地元の方たちも一緒に法被を着ておみこしを担ぐ姿からは、春の訪れを喜ぶ気持ちは万国共通だと感じられます。
また「ジャパニーズストリートフェスティバル」として、日本文化を紹介するブースが多数出ているエリアも。武芸を実践したり、アニメグッズを販売していたり、日本食を提供していたり。同時に「カイト・フライング」としてたこ揚げ大会も催されます。
ちなみに、パレードが行われるワシントン記念塔からの通り周辺には、国立自然史博物館やスミソニアン博物館、国立航空宇宙博物館、米国植物庭園など、ゆっくり回りたいスポットがあるのもうれしいポイント。桜を眺めた後には、博物館巡りをしたり、さらに植物を楽しむべく庭園へ足を延ばしたりするのもおすすめです。
見慣れているはずの桜が、場所を変えることでまた違った魅力を放ち、旅をより一層印象深いものにしてくれるに違いありません。
ナショナルチェリーブロッサムフェスティバル
- 開催時期:毎年3月〜4月
- ウェブサイト:ナショナルチェリーブロッサムフェスティバル(英語)
お気に入りのお祭りを見つけて「常連」になる楽しみも
文化や伝統を知ることで、その町がもっと好きになり、身近になる。そんな体験をすれば、きっとまた次も訪れたくなるもの。実際、旅好きのなかには、毎年、同じお祭りに参加することを楽しみにプランを考えている人もいます。お気に入りのお祭りが見つかれば、地元の方と同じように開催時期が心待ちになるはず。第二の故郷のような場所に出会えるかもしれません。
- 記載の内容は2023年4月現在の情報です。変更となる場合があるのでご注意ください。