マンハッタンの中心地、ロウアー・イースト・サイドで至高のグルメを
マンハッタンの南東端に位置するロウアー・イースト・サイドは1830年代から、3〜4階建ての長屋式アパートで生活をしていた移民や労働者たちの拠点となった歴史ある場所。その一部で、ナムジュン・パイクやオノ・ヨーコなどの芸術家たちが1960年代から70年代にかけて広めた前衛芸術運動「フルクサス」や、ジェームス・チャンスを筆頭に70年代末から80年代初頭にかけて起きたアンダーグラウンドの芸術運動「ノー・ウェイヴ」など、後に世界的な影響をもたらすカルチャーが生まれたのも、このエリアです。
2000年代半ばになると、居住者の階層が上がるにつれて居住空間の質が求められるようになり、建物の改修や都市再開発によりエリア全体が高級化。今では、長屋式アパートの間や路地裏に、洗練されたブティックやレストラン、バーが建ち並ぶニューヨークのトレンド発信地に。もともとここは、マンハッタン北部のハーレムとブルックリンのちょうど中間で、地下鉄のアクセスがよく、仕事帰りの飲み会や仲間同士の食事会など何かとニューヨーカーたちも集う中心地。最近では、ウィリアムズバーグ橋を渡ったブルックリンのイースト・ウィリアムズバーグにもトレンドの波が広がり、若者たちが集まる“第2の中心地”として発展しています。
ロウアー・イースト・サイドは、アメリカンはもちろん、スカンジナビアンからアフリカンまで、“人種のるつぼ”ニューヨークならではのバリエーションに富んだ食が魅力。昔からユダヤ系アメリカ人の移民も多く居住するエリアで、1988年創業の名店「カッツ・デリカテッセン」や、1914年創業の「ラス&ドーターズ カフェ」など老舗のデリでは、今でもユダヤ伝統の食文化を提供しています。
「コシェル/カシェル」と呼ばれるユダヤ教の食習慣とは、たとえば乳製品と肉類を一緒に食べてはいけない、豚肉・甲殻類は禁忌。食べられるものは、ウロコとヒレのある魚、主食のパン・穀物など。「ラス&ドーターズ カフェ」は、創業以前から手売りしていたという「シュマルツ・ヘリング」と呼ばれる産卵直前のニシンや、イワシ、キャビアを使った伝統に忠実なユダヤ料理が評判。言わずと知れたクラシック・メニューは、自家製ベーグルにスモークサーモンとクリームチーズをたっぷり挟んだ、NYスタイルのベーグルサンド「ロックス&ベーグル」です。
このエリアは、レストランのほかにもオーナーの個性あふれるインデペンデントなお店も多いところ。独自のセンスが光るアパレルのセレクトショップをはじめ、品質の高いオーガニック食材のグローサリーストアや良質な音をオールジャンル取り扱うレコードストア、アートブックの専門店など、食事のついでに街を歩いてみるだけで気になるお店が見つかるはず。そんな“発掘するおもしろさ”があるのもロウアー・イースト・サイドならではの魅力です。
Russ & Daughters Cafe
- 住所:127 Orchard Street, New York, NY
- ウェブサイト:Russ & Daughters Cafe(英語)
最新のアート発信地、チェルシーで審美眼を磨くギャラリー巡り
マンハッタンの南西部・ハドソン川沿いに広がるチェルシーは、ニューヨーク市のほかのエリアとは一線を画す、洗練された街並みと穏やかな雰囲気が特徴。そんな昨今の落ち着いたイメージとは一変、かつてここは、最寄りのフェリーターミナルをはじめ埠頭や倉庫などで働く湾岸労働者が多いエリアだったのだそう。定番人気の観光スポットである「チェルシー・マーケット」は、実は「ナショナル・ビスケット・カンパニー」(現、ナビスコ)の工場として1890年代に建設され、都市再開発により1990年に建物を改修。1階には地元の新鮮な食材を提供するフードコートとスーパーマーケット、ショッピングセンター、さらに上層階にはケーブルテレビ局やオフィスまでもが入居する大型複合施設として1997年にオープンしました。
チェルシーは、アメリカが世界に誇るモダン・アートの巨大なメッカとして知られる場所。実は1950年代以降、エリアの高級化とともに“芸術家の街”として発展していたソーホーから産業が衰え始めたチェルシーの空き倉庫へとギャラリーが移転していったことにより、1990年代以降にアートマーケットが大きく成長を遂げました。今では潤沢な資金を持つギャラリーオーナーたちが手がける200以上ものスペースがあり、なかには「デイヴィット・ズワーナー」や「ハウザー & ワース」など、ビル一棟すべてのフロアが展示に使われる大型ギャラリーも。アメリカのみならず世界も注目するアーティストたちの、自由でのびやかな感性に触れられるはず。1日かけてじっくりアート鑑賞をするなら、あらかじめギャラリーのウェブサイトからアーティストの目星をつけて有意義なルートを計画するのがおすすめです。
「歴史的建築物を取り壊さずに保存する」そんな運動がアメリカ全土で広まるなか、既存の建物を再利用した都市再開発のよい例は「チェルシー・マーケット」のほかにもあり、2009年春にはニューヨーク・セントラル鉄道の高架線跡地を再設計した「ハイライン」と呼ばれる美しい緑道が誕生。東側にある「エンパイア・ステート・ビル」から西側に広がるハドソン川のサンセットまでを見渡せるおよそ2kmの緑道は、ツーリストだけでなく、大都会で暮らすニューヨーカーたちにとっても安らぎのスポットです。
Gagosian - 541 West 24th Street
- 住所:541 West 24th Street,New York, NY
- ウェブサイト:Gagosian - 541 West 24th Street(英語)
ブルックリンのエンタメスポットで楽しむ、ミックスカルチャー
マンハッタン南部、イーストリバーにかかるウィリアムズバーグ橋・マンハッタン橋・ブルックリン橋を渡った先がブルックリン。ヨーロッパによるブルックリンの開拓は1640年代に始まり、これまでに380年ほどの歳月を経てきたアメリカで最も歴史あるエリアなんだそう。実はこのブルックリン、もともとは独立した一つの「市」として存在していましたが、1898年の区画整理によりニューヨーク市の行政区の一部へ。それ以降ニューヨーク市の行政区は、マンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクス、スタテンアイランドの5つに分かれています。ひとえに「ブルックリン」といっても、この行政区のなかで最も人口が多く、およそ250万人が居住。東西南北に広がる近隣住区ごとに、ユダヤ系をはじめ、アフリカ系やカリブ系、イタリア系など民族的な多様性があり、街の雰囲気も異なるのが特徴です。
さまざまな人種と民族を抱え、異なる価値観が見事に融合する新しいカルチャーが生まれてきたブルックリンは、演劇や映画の舞台として数多く登場し、小説家ヘンリー・ミラーや、脚本家アーサー・ミラーなどを輩出してきたアメリカ文学においても重要な地。マンハッタンへアクセスしやすく、大小のお店が建ち並んだ西部のフォート・グリーン周辺には、そんな背景を反映する文化施設が充実しています。1908年に運営を始めた劇場「バム」は、演劇やダンス、音楽、オペラの公演、映画上映など前衛的な作品を中心に幅広いプログラムが魅力。世界を魅了するブロードウェイ・ミュージカルとは異なる角度で、もう一歩踏み込んだアメリカのカルチャーに触れられるスポットです。
さらに「バム」からもう少し南部へ足を延ばしたパーク・スロープ、プロスペクト・ハイツ周辺には、このエリアを象徴する大きな都市公園「プロスペクト・パーク」や、公園に隣接する植物園「ブルックリン・ボタニック・ガーデン」、1895年に開館した大型の美術館「ブルックリン・ミュージアム」、映画館、ライブハウスなども。2000年代半ば以降、高級化されるマンハッタンからブルックリンへと文化の拠点が移り変わり、“今のニューヨーク”らしい新たな潮流が生まれる場所として注目のエリアのひとつです。
BAM/The Brooklyn Academy of Music
- 住所:30 Lafayette Ave, Brooklyn, NY
- ウェブサイト:BAM/The Brooklyn Academy of Music(英語)
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