グリニッジ・ヴィレッジで、音楽とカクテルに酔う、夜のひとときを
マンハッタン南西部に位置し、ソーホーとイースト・ヴィレッジに隣接するグリニッジ・ヴィレッジ。ソーホーが“芸術家の街”として盛り上がる以前の1900年頃から、ここに居住していた芸術家たちがオルタナティブ・カルチャーを広め、小さな出版社やアートギャラリー、オフ・ブロードウェイをはじめとする実験的な劇場などが発展したエリア。若いアーティストたちが作品を展示できるスペースとして、後に誰もが知ることになる美術館「ホイットニー・ミュージアム」の前身、「ホイットニー・スタジオ・クラブ」が設立されたのも1914年のこと。
さらに1938年から10年間運営していた伝説のナイトクラブ「カフェ・ソサエティ」では、アフリカ系アメリカ人の才能を発掘する、アメリカで初めて人種を隔てないジャズ・イベントを開催。1950年代から60年代半ばにかけて、アメリカ文学において異彩を放った作家ジャック・ケルアックや、アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズたちによるコレクティブ「ビート・ジェネレーション」の東海岸の中心地であり、60年代のカウンターカルチャー・ムーブメントの発祥地でもある、特異な文化の変遷をたどってきました。
このエリアを象徴する公園「ワシントン・スクエア・パーク」周辺には今でも、マイルス・デイビスやビル・エヴァンスたちがプレーした1935年創業の老舗「ヴィレッジ・ヴァンガード」や、世界のジャズ界を牽引し続ける「ブルーノート・ニューヨーク」などの名門ジャズ・クラブとジャズ・バーが密集。この「ブルーノート・ニューヨーク」が特別な理由は、グリニッジ・ヴィレッジの経済と地元ミュージシャンたちの成長を担ってきただけでなく、客席にいたスティービー・ワンダーやクインシー・ジョーンズなどの大物アーティストがステージに呼び出されることもあるから。ジャズ・ファンなら、何かが起こる“スペシャルな夜”を期待しつつ、一度は足を運んでみたいところ。
Blue Note New York
- 住所:131 West 3rd Street, New York, NY
- ウェブサイト:Blue Note New York(英語)
ニューヨーク郊外、緑豊かなアップステート・ニューヨーク1日観光
マンハッタン中部のミッドタウンにある「グランド・セントラル」駅は、ニューヨーク市と「アップステート・ニューヨーク」(以下、アップステート)と呼ばれるニューヨーク州郊外のエリアをつなぐメトロノース鉄道のターミナル。そこから鉄道でブロンクスを越えて、ハドソン川沿いに1時間ほど北上すると、山脈や森林、渓谷などの大自然を内包した雄大なエリア、ハドソン・バレー(ハドソン渓谷)が広がります。そもそもアップステートとはニューヨーク市とロングアイランドを除いたすべてのエリアを示すゆるやかな呼び名でしたが、ここ十数年で、保養地や移住先としてニューヨーカーたちの話題に上がるアップステートとは、多くがこのハドソン・バレーのことを示すのだそう。
鉄道の車窓から景観の移り変わりを感じながらも実際にハドソン・バレーに降り立つと、大都市・マンハッタンを忘れるほどのパワーみなぎる大自然に開放感を味わえるのが魅力。一帯には州立公園や自然保護区が多く、ハイキングはもちろん、夏はカヤック、冬はクロスカントリースキーなどのエコツーリズムが充実しています。そのほか、印刷工場跡地にできたディア・アート財団による大型美術館「ディア・ビーコン」や、広大な敷地に大型の彫刻が設置された屋外博物館「ストーム・キング・アートセンター」、アメリカを代表する工業デザイナー、ラッセル・ライトの邸宅兼スタジオであるデザインセンター「マニトガ」など文化施設も数多く点在。なぜ、見渡す限り自然にあふれたこの渓谷に文化施設がたくさん存在するのでしょうか?
もともとアップステートは1850年頃、ヨーロッパのロマン主義の影響を受けた芸術家たちによって、ハドソン・バレーをはじめ、キャッツキル山地やアディロンダック山地などこの地の豊かな自然風景が描かれた、アメリカで最初のアート・ムーブメント「ハドソン・リバー派」が起きた場所。その芸術の名残を今でもとどめているというわけです。ここでは、忙しないニューヨーク市とは異なり、何をするにしても時間に余裕を持った行動が理想的。エコツーリズムや大型文化施設には半日ほど必要なので、マンハッタンとの交通アクセスや、アップステートでの宿泊をしっかり計画することをおすすめします。
Dia: Beacon
- 住所:3 Beekman Street, Beacon, NY
- ウェブサイト:Dia: Beacon(英語)
絵に描いたようなニューヨークを求めるなら、自由の女神像やタイムズスクエア、「ニューヨーク近代美術館(MoMA)」などの観光名所は間違いないけれど、ここで紹介したエリアのほかにも見どころはたくさん。小さなことから大きな潮流が生まれる、力強いエネルギーに世界が恋をする都市なのです。
- 記載の内容は2023年4月現在の情報です。変更となる場合があるのでご注意ください。
取材・文 = Saki Kusafuka
写真 = Masahiro Takai