写真:にいかっぷホロシリ乗馬クラブ
阿寒湖:豊かな動植物が暮らす手つかずの自然の中へ
豊かな動植物の営みに触れることができるのは北海道の夏の醍醐味の一つですが、手つかずの原生林へ入っていくワクワク感、ここでしか見られない動物の痕跡に驚いたり、さまざまな植物を観察したり……そんな体験をしてみたいという方には「阿寒摩周国立公園」がおすすめです。
「阿寒摩周国立公園」は道東の中心部に位置し、北海道で最初に指定された国立公園。阿寒湖、摩周湖、屈斜路湖と3つのカルデラ湖があり、全国的にも珍しい地形といわれています。
摩周湖と屈斜路湖のある東側は、今でも噴煙を上げる硫黄山や、釧路湿原へとつながる釧路川の源流がある場所。一方、阿寒湖のある西側は、雄阿寒岳と雌阿寒岳に見守られるように湖や沼が点在し、阿寒湖畔にはアイヌコタン(集落)があるなど、アイヌ文化が色濃く残る土地でもあります。今回は「阿寒摩周国立公園」の西側、阿寒湖畔にある「あかん遊久の里 鶴雅」でガイドをつとめる髙田茂さんに、ここで触れることができる自然についてお話を聞きました。
「阿寒湖周辺の森林は、手つかずの自然として残っていることが最大の魅力です。国立公園になる前から、前田一歩園財団の私有地として守られてきたという歴史があるからなんですよ。樹齢800年を超えるカツラの木があったり、コケがびっしりと生えている場所があったりと、人がめったに入れない場所だからこその自然がたくさん。ボッケと呼ばれる火山ガスが噴き出る小さな穴がいくつもある場所では、地面がほんのりあたたかくて地熱を直接感じられます」
ここが火山によってできた土地だということがよくわかります。原生林が残っているのは、財団認定ガイドが同行しなければ入れない場所があるからこそ。髙田さんは、まさにその財団指定ガイドの一人です。
「阿寒湖だけでなく、雄阿寒岳(おあかんだけ)の湧き水がたまってできた次郎湖や、阿寒湖からの水が流れ込んでできている太郎湖、雌阿寒岳のふもとにあるオンネトーという湖もあります。僕も個人的によく足を運んで、コーヒーを飲みながら静かにゆれる湖面を見たりと、おだやかな時間を過ごせます」
「鶴雅アドベンチャーベース SIRI」が提供する"不思議の森ツアー"や"神秘の秘湖トレッキング"では、そんな阿寒湖周辺の魅力を堪能できるそうです。
「エドマツとトドマツの違いや見分け方を話したり、トリカブトを見つけたら、アイヌの方たちがこの毒を狩猟に使っていたというお話もします。そうしてこの土地のアイヌ文化にも興味を持ってもらえたら、と思っています。ここでは野生の動物は、警戒心が強くて頻繁には見られませんが、その代わり、鹿が角を研いだ樹木の傷や、クマが植物を食べたあとなどの痕跡はたくさん見られます」
歩く途中にある地面の穴に手を入れると、湖で冷やされたひんやりとした風が通るのを感じられたり、かと思えば温泉のわく手塚沼が出現したり。夏なら、オオウバユリやエゾアジサイなどの珍しい植物を見ることもできます。じっくり歩いているうちに、景色を見るだけでなく、鳥の声や葉の擦れる音、植物を触った感覚にも集中していき、少しずつ五感が研ぎ澄まされていくのがわかります。
6歳くらいから楽しめるコースも多く、家族連れに人気というのもうなずけます。自分の目や耳がいつもよりも研ぎ澄まされていく感覚を味わえるのは、手つかずの原生林と、火山が生み出した湖が点在するこの場所ならではなのです。
鶴雅アドベンチャーベース SIRI
- 住所:北海道釧路市阿寒町阿寒湖温泉4-6-10 あかん遊久の里 鶴雅 ウイングス館
- ウェブサイト:鶴雅アドベンチャーベース SIRI
- 最寄り空港
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釧路空港
新冠:サラブレッドの街で馬たちと一緒に過ごす
北海道の南西部に位置する日高地方は、北海道の中では温暖で冬は雪が少ない地域。実は、日本のサラブレッドの80%が日高生まれというほど競走馬の生産数がとても多い場所として有名です。過ごしやすい気候に加えて広大な土地があり、降水量が少なく牧草が育てやすかったことがその理由といわれています。
そんな気候は、もちろん人間にとっても気持ちのいいもの。夏でもからりとした空気が心地よく、さらに広大な牧場を馬がのんびりと草をはむ姿を見ているとなんとも穏やかな気持ちになります。
日高地方の中でも、中部に位置する新冠町には「サラブレッド銀座」と呼ばれる通りがあり、約8kmにわたってひたすら牧場が続くという圧巻の場所。見渡す限りの緑の牧草や、じゃれあっている馬を見ることができるのは、新冠町ならではです。
新冠町にある「にいかっぷホロシリ乗馬クラブ」の支配人、中川太一さんいわく「北海道内でも、これだけサラブレッドが見られる牧場が広がる場所は他にはありません。育成されているサラブレッドもいれば、現役を終えてのんびり暮らすサラブレッドもいるので、見ているだけでも楽しいと思います」
時折、近くまで寄ってくる懐っこい性格の馬もいるそうです。牧場が広がっているため風の通りもよく、夏の北海道らしい清々しさも感じられます。馬を眺めながらぶらりと散歩するのも気持ちがいいでしょう。
そして、さらに馬に近づきたいなら、乗馬クラブでの体験がおすすめ。「にいかっぷホロシリ乗馬クラブ」では、元競走馬に乗ることができるだけでなく、さらに森の中をトレッキングできるというツアーがあります。
「最初に馬場で練習して馬に慣れてきたら森の中へ。馬に乗るだけで高さが変わるので、風の強さも違ってくるし、吸い込む空気もなんだか別のような気がしますよね。風景を眺めているだけでも時間を忘れられるという方が多いです。それに、馬に乗っていると野生の動物が逃げないので、意外と近くで見ることができます。人間ではなく、馬と意識してくれるせいか天敵と思わないのかもしれませんね。ここでは、鹿やキツネ、キジなどは頻繁に会えますよ」
森の中へと分け入っていくと、頭上で揺れる木の枝の様子や、鳥の鳴き声がとても近く感じられます。馬の息遣いが近くなり、じんわりと体温まで伝わってくるため、馬との距離がグッと縮まって感じられるはずです。時折道草をする馬を上手にあしらいながらトレッキングできるようになっていくのも、他では得難い体験でしょう。
「この体験を忘れられない方が多いようです。"北海道に来るたびに馬に乗りたくなって"と足を運んでくださるリピーターがたくさんいます」
北海道の自然を味わうなら、馬と一緒に過ごす風景は記憶に強く残るでしょう。ドライブやサイクリングもいいけれど「乗馬」はきっとより忘れられない時間になります。経験する前後では、見える景色がきっと変わっているに違いありません。
にいかっぷホロシリ乗馬クラブ
- 住所:北海道新冠郡新冠町字西泊津26番地
- 最寄り空港
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新千歳空港
知床:流氷に育まれた栄養豊かな海の楽園へ
ヒグマやエゾシカ、シマフクロウ……珍しい野生動物が数多く暮らす場所である知床国立公園は、季節を問わずたくさんの観光客が足を運ぶ場所。細長い半島には知床五湖や羅臼岳をはじめとする知床連山があり、これを境に東西で天気が変わるほどの違いがあります。
西側のウトロでは、知床五湖や大小ある滝、原生林などの散策が楽しめ、トレッキングが人気。冒頭に挙げた動物に出会える確率の高いエリアです。
そして、東に位置する羅臼は、ホッケやキンキ、昆布漁などが盛んで漁港として栄えている場所。冬に流されてくる流氷によってプランクトンが運ばれ、それを食べる魚がたくさん集まってくるという豊かな海だからです。そして、それを狙うのは人間だけではなく、シャチやイルカ、さらにはクジラまでも姿を現すという、国内でも珍しい海なのです。
「知床の海は、海岸から離れるとすぐに深海というのが特徴です。深さがあるからこそ、クジラやシャチが陸から観察できるような距離まで来ることがあります。それに、年間を通して、いろいろな種類のクジラが訪れるのは本当に珍しい。シャチをはじめとして、マッコウクジラやミンククジラ、ツチクジラや、ザトウクジラ、世界で2番目に大きいナガスクジラが現れることもあります」と教えてくれるのは、「知床ネイチャークルーズ」のガイドである東口彩加さん。
実際に自分の目でその姿を捉えたいなら、「知床ネイチャークルーズ」の「クジラ・イルカ・バードウォッチング」へ参加してみましょう。乗船してわずか10分ほどで、イルカやシャチの姿が見えてくることもあります。船の横を寄り添うように泳ぐイルカもいれば、周りの様子を伺うかのように顔を出したり、尾びれを勢いよく海面にたたきつけるシャチも。数頭が一斉に呼吸を合わせて浮上してくる姿は圧巻です。
「クジラの中でもマッコウクジラは"クリックス音"というものを出すので、いる場所がわかりやすいです。海中にマイクを入れて確認し、音が止んだら浮上してくる合図なので、皆さんにお知らせします。クジラはパターンが決まっていて、40分深海にいて、7分浮上するというのを繰り返すんですよ」
クルーズを楽しみながら目線を上げると、国後島がすぐ近くに見えることに気づきます。振り返ると船が出た漁港ははるか遠く。シャチやクジラに夢中になっているうちに、船はかなり沖まで進んでいるのです。
「クジラ類はもちろんですが、海上からの風景も知床ならではだと思います。海の生き物や風景を写真におさめたいと何度も足を運んでくださる方が多いです。季節によって会える種類も違いますし、海の表情もさまざまで飽きないのが、この海の魅力だと思っています」
10年ガイドを務めているという東口さんですら、いつも新鮮に感じられて楽しめるという知床の海。もちろんシャチやクジラに会えない日もありますが、それはまた訪れる理由にすればよしと考えて半島内のトレッキングに切り替えることもできます。さまざまなアクティビティが楽しめる懐の深さが、知床の魅力なのかもしれません。
知床ネイチャークルーズ
- 住所:北海道目梨郡羅臼町本町27-1
- ウェブサイト:知床ネイチャークルーズ
- 最寄り空港
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根室中標津空港
仁木・余市:芳醇(ほうじゅん)な一杯を、それを生み出す美しい景色と一緒に味わう
北海道の西部、積丹半島のつけ根にあるのが余市町と仁木町。日本海に面していて、道内でも指折りの温暖な気候が特徴の地域です。あたたかな日差しと昼夜の寒暖差があることから、さくらんぼやりんご、ぶどうにいちごと、さまざまなフルーツが栽培されているフルーツ王国としても有名です。ちなみに仁木町は、さくらんぼやぶどう、プルーンについては作付面積も生産量も北海道一なのです。
特に夏から秋にかけては、実り多き季節。さくらんぼが色づくと、仁木や余市の方は「夏が始まった」と感じるのだそう。ほかにも、ブルーベーリーやプラム、プルーンなどがたわわに実っている姿があちこちで見られます。観光農園も多く、フルーツ狩りの体験を実施しているところも。温暖とはいっても、道外と比べれば爽やかに過ごせるため、あちこち回るのも楽しそうです。
そして、余市といえばウイスキーを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。その気候が醸造に向いていることに加え、ぶどうの栽培が盛んなことから、小規模なワイナリーがたくさんあるのも、この地域ならではです。「NIKI Hills Winery」の副支配人であり、ワイナリーツアーを担当している梅田明さんにお話を聞きました。
「北海道というと、たとえば十勝平野のように畑や田んぼがずーっと遠くまで広がっているイメージがあるかと思います。しかし、仁木や余市はちょっと違う。丘陵地帯が多く、遠くには小高い山も連なっているので他とは違った風景を楽しむことができると思います。見渡すとワイン用に栽培している垣根仕立てのぶどう畑が続いていたり、さくらんぼの木があちこちで見られたり、ミニトマトのハウスが並んでいたりと、すごく豊かな土地なんだと実感できると思います」
「NIKI Hills Winery」では、ぶどう棚を実際に近くで見られたり、ワインができるまでの工程を間近で紹介してもらえる「ワイナリーツアー」を開催しています。
「実際に畑に入ってぶどうの木を見るほか、醸造所の中でワインができるまでをお話ししていくツアーです。作業している時間だと、醸造所に近づいただけでワインの香りがしてきますよ。最後にはレストランで試飲していただいて、ここでできたワインの味と香りを楽しんでいただけるようにしています」
初心者にもわかりやすく、赤ワインと白ワインの違いの話があったり、醸造所にある機械でどのような工程を経てワインになるのかを見られたり。実際に醸造過程を見ることで、よりワインに対する愛着が湧く方もいれば、探究心を刺激される方もいるでしょう。ワイン愛好家はもちろん、ワインスクールの先生と生徒や、実際にワイナリーを開きたいという方なども足繁く通っているというのがその証拠。もちろん、アルコールが苦手な方やお子様でも試飲できるよう、ぶどうジュースがあるのも嬉しいポイントです。
「夏はより緑が濃くなるし、さまざまなフルーツも楽しめるのでおすすめです。秋の紅葉もいいですし、冬の雪景色も圧巻だなと思います」
「NIKI Hills Winery」では、食事を楽しめるレストランや宿泊施設もあり、季節を変えてリピートする方が多いというのも納得です。アクティブに過ごす北海道もいいですが、ここでワインやフルーツを楽しみながら、ゆったりと過ごす時間も格別です。ワイナリーだからこそ味わえる北海道の良さをご堪能ください。
NIKI Hills Winery
- 住所:北海道余市郡仁木町旭台148-1
- ウェブサイト:NIKI Hills Winery
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新千歳空港
季節やエリアを変えても楽しめる懐深き北海道
4つのエリアでの夏のおすすめを紹介してきましたが、北海道にはほかにも自然を楽しむことのできるたくさんのエリアがあります。そのエリアのことをもっとよく知りたいと思ったら、是非ガイドのいるアクティビティに参加してみてください。きっと記憶に残る体験ができるはずです。また、お気に入りのエリアができたら、別の季節に訪れてみるのもおすすめ。同じエリアでも、季節が変われば楽しめる風景もアクティビティも変わるため、リピートすると新しい発見があることでしょう。ぜひ、アクティビティとガイドの皆さんを頼りに、北海道の自然の楽しみ方を見つけてください。
- 記載の内容は2024年3月現在の情報です。変更となる場合があるのでご注意ください。