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写真:秋田市竿燈まつり実行委員会
東北の夏は、お祭りの季節。特に東北三大祭りと呼ばれる青森の「ねぶた祭」、秋田の「竿燈(かんとう)まつり」、仙台の「七夕まつり」は、毎年多くの訪問者を引きつけます。今回は、それぞれの主催者に話を聞き、各お祭りの魅力や見どころをひも解きながら、周辺の楽しみ方などを紹介します。
夏の東北なら、お祭りに合わせた旅の計画を
青森市、仙台市、秋田市では、毎年夏になると古くから続く大きなお祭りが開催されます。特徴的な山車や飾り、にぎやかなお囃子(はやし)に踊り手たち。夏の東北旅なら、そんなお祭りを中心にした旅のプランもおすすめです。その熱気からは地域の方たちの心意気が伝わってくるうえに、街の歴史にも興味が湧いてくるはず。東北の旅がより一層楽しく、思い出深くなること間違いなしです。
青森県青森市:巨大ねぶたの迫力に圧倒される「青森ねぶた祭」
りんごは言わずもがな、陸奥湾でとれるホタテなどの海産物も有名な青森市。遺跡も数多くあり、文化や歴史の薫り高い街といわれています。ここ青森市で開催されているのが「青森ねぶた祭」です。
ねぶた祭は、青森県内の各所で開催されており、さまざまな形の巨大なねぶた(灯籠)を乗せた山車が街中を練り歩き、ハネト(跳人)と呼ばれる踊り子の「ラッセーラ」というかけ声が響き渡る華やかさが特徴。なかでも青森市の祭りは特にその規模の大きさで知られています。
古くから市の重要な行事として、毎年8月2日から7日までの期間に開催。その由来は諸説あり、奈良時代に中国から渡来した「七夕祭」と、津軽にあった習俗行事などが一体化したのではないかといわれています。青森観光コンベンション協会の赤平直哉さんに見どころを聞きました。
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写真:青森ねぶた祭実行委員会
巨大ねぶたとともに、会場が熱気につつまれる
「なんといっても巨大なねぶたが特徴です。地元のねぶた師を中心に手作りされるもので、さまざまな絵柄やデザインになっています。作り手の思いや願いが込められているので、何を題材にしてどんなシーンをモチーフにした作品かを知ったうえで見てもらうとよりおもしろいと思います。その題材に合わせた動きをしているのにも注目してください。見栄を切るように左右に動かしたり、戦いを演出するために上下に揺れたりしているんです」と赤平さん。
ねぶたの多くは、その年のテーマに沿って歴史上の人物や風景、神話などをベースにして作られています。祭りの開催時期が近づくと、ウェブサイトにはそれぞれのねぶたの下絵と題材についての解説ページが作られるため、事前にチェックしておくと、ねぶたをもっと楽しめるはずです。
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写真:青森ねぶた祭実行委員会
ハネトになって地元住民と交流を楽しむことも
「また、ねぶた祭は、ねぶたと囃し方、ハネト(踊り子)が一体となって運行します。ハネトに混ざって参加することもできるので、ぜひ体験してください。踊り方は簡単ですが、わからなければ周りの地元住民が教えてくれます。そういう交流も楽しんでもらえたらいいなと思っています」
ハネトの衣装を着ていれば、誰でもねぶた祭の列に加われるのです。衣装は現地でレンタルでき、着付までしてもらえるのだそう。ケンケンをしながら「ラッセーラ」と声を張り上げれば、祭りの盛り上がりを体感できるはずです。
大きなねぶたそのものの魅力はもちろん、古くから街全体で大切にしてきたからこその一体感を味わえるのが、ねぶた祭の魅力。掛け声をかけたり、ハネトとして参加したり、じっくりねぶたを観察したりと、さまざまな楽しみ方を見つけてみてください。
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写真:青森ねぶた祭実行委員会
お祭りに合わせて行きたい青森市のおすすめスポット
ねぶた祭の余韻を楽しむなら、「ねぶたの家 ワ・ラッセ」へ。祭に出陣し、受賞した大型ねぶたがずらりと展示されていて、筆使いや色の重なりなど、より細やかな部分まで目にすることができ、実際のお祭りとは違った楽しみがあります。
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写真:ねぶたの家 ワ・ラッセ
お祭りの前後には「青森県観光物産館アスパム」へ行くのもおすすめです。青森銘菓や海産物、民工芸品までさまざまな青森の名産がそろっています。アスパム内のお土産店「アスパム物産」で取り扱いのある、金魚型のねぶたをモチーフにした「金魚ねぶた(りんご玉羊羹)」はお土産にもぴったりです。
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写真:アスパム物産
また、行程に余裕があるなら、青森県内の他のねぶた祭に足を延ばすのも楽しいもの。実際、複数のお祭りを回っていく方も多いそうです。同じねぶたでも「弘前ねぷた」は華やかな扇形、「五所川原立佞武多(たちねぷた)」は20mを超える高さが特徴で、地域によっての違いを実感できます。
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青森ねぶた祭
- ウェブサイト:青森ねぶた祭
ねぶたの家 ワ・ラッセ
- 住所:青森県青森市安方1-1-1
- ウェブサイト:ねぶたの家 ワ・ラッセ
青森県観光物産館アスパム
- 住所:青森県青森市安方1-1-40
- ウェブサイト:青森県観光物産館アスパム
アスパム物産
- 住所:青森県青森市安方1-1-40 青森県観光物産館アスパム1階
- ウェブサイト:アスパム物産
宮城県仙台市:雅で艶やかな笹飾りに魅了される「仙台七夕まつり」
東北の玄関口として、アクセスにも便利な仙台市。仙台藩主の伊達政宗公のお膝元として、江戸時代から現在まで東北でも最大の都市として栄えています。
ここでのお祭りといえば「仙台七夕まつり」。全国各地で"七夕まつり"が開催されるなか、仙台は日本一の規模を誇るほどにぎやかです。
毎年8月6~8日の3日間、仙台駅前から続くアーケード商店街が豪華な笹飾りで装飾され、観光客でいっぱいに。江戸時代から続く伝統行事で、途中、不景気や戦争で衰退の危機がありながらも、「仙台商人の心意気」で乗り越えて今まで続いてきたといわれています。そんな七夕まつりの見どころについて、仙台七夕まつり協賛会の髙橋昇吾さんに見どころを聞きました。
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写真:仙台七夕まつり協賛会
商店街を歩きながら鑑賞する豪華絢爛な笹飾り
「特徴は、市内各所に掲出される笹飾りです。特に仙台駅の前から続く6つの商店街では、全長約1.5kmの区間で一斉に飾られます。豪華絢爛な笹飾りが立ち並び、とても見ごたえがあると思います。昨年はこの区間だけで約250本の笹飾りが商店街全体を美しく彩りました」と髙橋さん。
くす玉と呼ばれる球体の下に吹き流しを下げた形が定番ですが、デザインはさまざま。そのすべてが手作りというから驚きです。
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写真:仙台七夕まつり協賛会
飾りの細部をじっくり観察すると作者のこだわりが見えてくる
「すべて竹と和紙で作られているのが特徴です。それぞれのお店が総出でデザインを考えて手作業で仕上げるのですが、仕事の合間に和紙を折ったり切ったりしながら、何カ月もかけて作っているんです。伝統的な"七つ飾り"を基本にしながら、自分たちの商いの内容を伝えたりその年に流行したものを表現したりと、その違いを見るのが楽しいんですよ」
"七つ飾り"と呼ばれる伝統的なモチーフには、短冊や折り鶴、巾着などがあり、それぞれに健康長寿や商売繁盛などの意味が込められているそうです。大きな笹飾りのなかの"七つ飾り"を探すのも一興です。
「お祭りの当日までデザインは内緒で隠していて、初日に一斉に掲げられて初めてわかるんです」
完成した笹飾りは吹き流し5本1組でつるされ、観光客はその間を縫うように歩いたり、頭上で風になびく姿を眺めたり。この期間だけの美しい風景を楽しみます。祭り期間中には各商店街で審査が行われ、受賞した笹飾りには金賞や銀賞などの賞札がつるされるため、それらを探しながら歩くのもおもしろそうです。
夏祭り特有の踊りやお囃子のないお祭りですが、それも気にさせないくらいの豪華絢爛な笹飾りがずらりと並んだ姿は圧巻の一言。風になびく姿が涼やかな、仙台の夏の風物詩を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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写真:仙台七夕まつり協賛会
お祭りに合わせて行きたい仙台市のおすすめスポット
七夕飾りを楽しんだ後は、ぜひ「瑞鳳殿(ずいほうでん)」へも足を延ばして。仙台藩祖伊達政宗を祀(まつ)る霊廟(れいびょう)で、お祭り期間中はここでも伝統的な笹飾りを見ることができます。参道70段や境内を竹灯籠で灯しているため、夜には幻想的な雰囲気を楽しめます。
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写真:公益財団法人瑞鳳殿
仙台といえば牛タンを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、夏の仙台でぜひ食べてほしいのが冷やし中華。実は仙台発祥といわれていて、夏になると市内の中華料理屋の店先には一斉に「冷やし中華はじめました」の貼り紙が出ます。暑い夏にぴったりの、ひんやり仙台グルメをどうぞ。
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写真:中国料理 龍亭
仙台七夕まつり
- ウェブサイト:仙台七夕まつり
瑞鳳殿
- 住所:宮城県仙台市青葉区霊屋下23-2
- ウェブサイト:瑞鳳殿
中国料理 龍亭
- 住所:宮城県仙台市青葉区錦町1-2-10
- ウェブサイト:中国料理 龍亭
秋田県秋田市:夏の夜空にゆらめく提灯(ちょうちん)にくぎ付け「秋田竿燈(かんとう)まつり」
日本海に面し、北は白神山地、東は奥羽山脈と自然に囲まれ、東北でも有数の米どころとして知られる秋田市。まさに稲穂のように見える無数の提灯が夏の夜空に輝くのが「秋田竿燈まつり」です。毎年8月3~6日に開催され、その始まりは江戸時代。五穀豊穣を願い、夏の病魔などを払うための「ねぶり流し行事」が原型とされています。ねぶり流しとは、願い事を書いた短冊を川に流すことで邪気を払う行事のこと。それが独自に発展し秋田竿燈まつりとなったといわれています。
竿燈とは、竹の竿(さお)に提灯をつけたもの。まつり本番では、長さ12mの竿に46個の提灯をつるしたものがずらりと掲げられます。秋田市竿燈まつり実行委員会の真田恭子さんに、魅力についてお話を聞きました。
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写真:秋田市竿燈まつり実行委員会
合図とともに一斉に立ち上がる280本の竿燈
「ぜひ見ていただきたいのは、お祭りのスタートです。合図とともに、たくさんの提灯がついた長い竹竿が一斉にゆらりと立ち上がる様が圧巻で、さらに太鼓の振動が響いてきて、笛の音色が響き渡って、一気にお祭りの熱気が伝わってきます。通りを埋め尽くすほどの竿燈は、毎回感動して涙が出るほどなんです」と真田さん。
竿燈はなんと280本もあり、立ち上がった後は「差し手」と呼ばれる方たちの腕の見せどころ。「どっこいしょー、どっこいしょ」という掛け声でお囃子に合わせ、約1.2mの継竹(つぎだけ)を足していき、最大で20mほどの高さになることも。それを手のひらや肩、額に乗せてバランスをとっていき、時には腰で支えるという難易度の高い技も。大きくしなる竿燈を上手にバランスを取りながら操っている様には、感動したり、ハラハラさせられたり。
「12mの竿燈は、重さが50kgもあります。しかも屋外なので風が吹いたりするなかで上げているんです。何度見てもため息が出るほどすごいことだなぁと思います」
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大人から子供へ、町紋とともに受け継がれていく伝統を体感する
さらに注目してほしいのは、大きな竿燈に混ざって、小さなサイズのものがあること。小中学生や幼稚園児までが差し手となって、自分の体よりも大きな竿燈を掲げて必死に頑張っている姿が見られます。
「差し手は、いきなりなれるものではありません。小さなころから練習して、少しずつコツを身につけながら大きなものを上げられるようになっていく。町内で代々、技を受け継いでいっていることが伝わってくるんです。小さな竿燈を見ると、これから先の祭りを担っていく子たちなんだとしみじみ思わされます」
竿燈を操る技、お囃子に太鼓の音色まで、江戸時代からずっと受け継ぎ続けている秋田竿燈まつり。ゆらりと揺れる竿燈の明かりを見ていると、この土地に暮らす方たちが守ってきた伝統と、無病息災や五穀豊穣を願う気持ちは、古から変わらないものだと気づかされるはずです。
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写真:秋田市竿燈まつり実行委員会
お祭りに合わせて行きたい秋田市のおすすめスポット
夏の秋田で人気なのは「ババヘラアイス」。ビーチパラソルの下でほっかむりをしたおばあちゃんが一つ一つヘラを使って美しいバラの形に盛り付けるアイスは、古くから地元の方たちに親しまれており、お祭りでも人気のおやつ。せっかく秋田に来たのなら食べてみたい一品です。
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お祭りを楽しんだ夜は、地元グルメの岩がきはいかがでしょうか。ミネラル豊富な鳥海山の伏流水の栄養のおかげでとろりと甘く、大ぶりなのが特徴。滅多に県外に出回らない貴重なもので、市内の居酒屋で食べることができます。
帰る前には、ぜひ旅の思い出として秋田銘菓のもろこしを。小豆の粉を固めた和菓子で、ほろりとした口溶けが後引くおいしさです。秋田竿燈まつりの様子を模ったものがあるため、お土産にもおすすめです。
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写真:菓子舗 榮太楼
秋田竿燈まつり
- ウェブサイト:秋田竿燈まつり
菓子舗 榮太楼
- 住所:秋田県秋田市高陽幸町9-11
- ウェブサイト:菓子舗 榮太楼
祭りを楽しみ、無病息災を願う夏の旅
秋田の竿燈が夜空を照らし、青森のねぶたが光とともに舞い、仙台の七夕が星空に願いを託す。三つの祭りは、歴史の長さを感じさせ、伝統を守って受け継いできた街の方たちの熱い気持ちが伝わってくるものばかりです。その由来や見どころなどを知ってから出かけてみると、よりお祭りを楽しむことができるでしょう。その土地の方たちと一緒に願いを込めながら参加すれば、きっと思い出深い夏になるはずです。
- 記載の内容は2024年4月現在の情報です。変更となる場合があるのでご注意ください。
取材協力:青森観光コンベンション協会、仙台七夕まつり協賛会、秋田市竿燈まつり実行委員会