有馬温泉:名湯とともに味わう紅葉の名シーンの数々
関西の温泉地といえばまっさきに名の挙がる有馬温泉。神戸空港から電車とバスを使っておよそ1時間ほどの有馬温泉は、六甲山北側のもみじ谷の山あいに広がっているため、まさに名湯と紅葉を同時に楽しめる場所。
紅葉と観光名所と。コンパクトに魅力が詰まった散策道
「神戸市の中心部に比べると山間にある有馬温泉では気温が一気に下がり、その寒暖差が生み出すとても美しい紅葉が楽しめます」と話してくださるのは有馬温泉の観光事業に10年携わってきた有馬温泉観光協会事務局の関口さん。
「有馬温泉駅に降りたち、紅葉を生み出す山々の谷間に延びる太閤通をはじめとする道を歩いてみてください。由緒ある温泉街の風情を紅葉の美しさとともに味わえます。中心部だけなら1〜2時間で歩いて回れるサイズ感で、街歩きの楽しさがギュッと凝縮されているんです」
有馬温泉街は街歩きで出会えるグルメも充実しています。名産品の有馬山椒は、「川上商店」をはじめとした名店で、ちりめん山椒や花山椒などをお土産として買うことができます。また、兵庫特産の但馬牛を堪能できる割ぽうに立ち寄り、季節のうつろいを感じさせるメニューで舌でも存分に秋を満喫するのも散策コースのプランとしておすすめです。
この季節の有馬温泉をもっと散策するなら「瑞宝寺公園」へと足を延ばすのがいいでしょう。公園内に季節限定でオープンする「もみじ茶屋」で一服しながら、2,500本ものカエデが真っ赤に色づく紅葉狩りを体験することができます。
川上商店
- 住所:兵庫県神戸市北区有馬町1193
- ウェブサイト:川上商店
瑞宝寺公園
- 住所:兵庫県神戸市北区有馬町500-19
唯一無二の湯につかり、ライトアップされた紅葉を楽しむ
「有馬温泉は火山のないところに湧く"有馬型温泉"と呼ばれる世界的にも珍しい温泉です。600万年前の海水が地中深くから地表に湧出するときに温まったもので、その泉質は唯一無二の成分。有馬温泉で湧出するお湯は多様なミネラルを含んでいて、その色や成分の違いから金泉・銀泉と呼ばれています」と関口さん。
とても歴史の古い温泉なのは「陶泉 御所坊」のように今なお旅館に"坊"という名を残すところが多いことからもわかります。坊は、鎌倉期に仁西上人が温泉にお寺を作った際にできた宿坊、つまりお宿のこと。実際に「陶泉 御所坊」は鎌倉時代に創業した由緒あるお宿です。太閤さんも愛でた名湯をゆっくりと堪能するなら、こうした有馬温泉の真髄を味わえるお宿に泊まり、存分にお湯に浸かって過ごすのがベスト。紅葉する木々や山並みを見ながら時の流れを忘れて湯につかる。紅葉シーズンの有馬温泉の過ごし方としてはこれ以上の醍醐味はないでしょう。温泉街の紅葉ポイントがライトアップされるので、宿泊することで夜のもみじ狩りも楽しめます。
宿泊が難しい方にもうれしいのが有馬温泉の充実した日帰り温泉施設です。「太閤の湯」は金泉・銀泉の両方に入浴できるのはもちろん、露天風呂やサウナ・岩盤浴も備わっているので日帰りでも有馬温泉の素晴らしさに触れられます。
陶泉 御所坊
- 住所:兵庫県神戸市北区有馬町858
- ウェブサイト:陶泉 御所坊
太閤の湯
- 住所:兵庫県神戸市北区有馬町池の尻292-2
- ウェブサイト:太閤の湯
六甲山の紅葉景色をダイナミックに浴びる
「関西の奥座敷」とよばれる有馬温泉の魅力は、自然を間近に体験できるアクティビティもあるところ。「六甲有馬ロープウェー」は色鮮やかに紅葉する六甲山をダイナミックに楽しめると評判です。
「ロープウェーで有馬温泉から六甲山に上がっていくときに見える景色は得も言われぬ絶景です。山肌を滑るように上っていくと窓越しに広がる黄色、赤、茶色、緑のグラデーションは圧巻。天気が良ければ、山頂から大阪方面までの見事な眺望も楽しめるんです」
令和2年に新しくなったロープウェーは大きく全面に広がるガラス張りで、360度開けた視界に映し出される雄大な山並みをスリリングに臨む体験は、この紅葉の時期にはとびきりのものです。
山頂の近くにはその標高を生かして高山植物を集めた「六甲高山植物園」があり、園内を見事に染め上げる紅葉をさらにじっくりと楽しめます。植物園に併設する「山小屋カフェ エーデルワイス」では紅葉の森の中でカフェやランチを。都会のけん騒から離れた山の秋を感じられます。
六甲有馬ロープウェー
- 住所:兵庫県神戸市灘区六甲山町北六甲4512-336
- ウェブサイト:六甲有馬ロープウェー
六甲高山植物園
- 住所:兵庫県神戸市灘区六甲山町北六甲4512-150
- ウェブサイト:六甲高山植物園
有馬温泉は自然豊かな環境に、名湯、お買い物、グルメ、体験と楽しいアクティビティがギュッと詰まっているのがうれしい関西のもみじ狩りの名所。世代を超えて、どの年齢の方も大満足の秋の行楽が楽しめます。
箕面公園:大阪観光とセットで楽しめるアーバンな紅葉
明治の森箕面国定公園は大阪府箕面市にあり、なんといっても都心からのアクセスの良さが魅力です。伊丹空港から車ならわずか15分ほど、電車でも30分という近さです。閑静な住宅街である一方で観光資源も充実しています。なかでも明治の森箕面国定公園は紅葉がとびきり美しいと評判で、大阪市街へ電車で30分ほどの距離のため、大阪の観光とセットで楽しむのに最適な都市型の紅葉の名所です。観光案内事業・観光情報プラットフォームの整備を実施している箕面市観光協会に紅葉の楽しみ方をうかがいました。
ランドマーク・箕面大滝に向かう滝道の紅葉散策
「紅葉といえば明治の森箕面国定公園の箕面大滝。ここを目的地に設定して散策するのが紅葉を満喫できる1番のおすすめコースです。阪急電鉄箕面駅から箕面大滝までは徒歩40分ほどの遊歩道"滝道"として親しまれています」(箕面市観光協会)
箕面駅から箕面大滝まで続く約3kmの道で体験できるのは、ここが都心からわずか30分の場所とは思えない自然の世界。木々が色づく景色を眺め、もみじ狩りをしながら箕面大滝まで歩みを進めることができます。
滝道の途中に立ち寄りたい場所が古刹「瀧安寺」。修験道の開祖・役行者(えんのぎょうじゃ)が箕面大滝で修行をしたことからこの地に生まれたお寺です。修験道の修行の場であることは箕面山の大きなバッググラウンド。その象徴である瀧安寺の凛としたたたずまいは格別です。
そして散策のゴールで目に飛び込んでくるのが落差33mのダイナミックな箕面大滝の姿。岸壁から滝つぼに一気に流れ落ちる豪快な滝の周りを紅葉のグラデーションが彩り、見事の一言に尽きる絶景です。
滝道の途中には休憩所などがしっかりと整備されているので安心して歩くことができます。また、箕面山には滝道以外にも自然歩道がたくさんあり、さらに足を延ばすのもおすすめです。「一目千本」「地獄谷」といった素晴らしい景色が見られるスポットや、大阪市内のあべのハルカスから大阪湾まで見渡せる展望台なども随所に用意されていて、ロングウォーキングプランに挑戦することもできます。
明治の森箕面国定公園
- 住所:大阪府箕面市箕面公園
- ウェブサイト:明治の森箕面国定公園
瀧安寺
- 住所:大阪府箕面市箕面公園2-23
- ウェブサイト:瀧安寺
紅葉ウォーキングの途中で秋の味覚を堪能する
おいしくて楽しいお立ち寄りスポットが豊富なのも散策の魅力の一つです。
箕面といえば「もみじの天ぷら」。滝道に軒を並べるお土産物屋さんや専門店など数十軒が扱っている銘菓で、本物のもみじの葉に衣をつけてカラリと揚げた、かりんとうのような味わいのお菓子です。もみじを目で見て、舌で味わい、とことん秋を楽しめます。
ランチは大正ロマンを感じる料理旅館「明治の森箕面 音羽山荘」で季節の料理を。大正15年に建てられた森に溶け込む気品と静ひつさをたたえたお屋敷では、四季折々の季節を映し出したお寿司や懐石をいただけます。障子やすりガラスを開いた先に広がる一面の秋色の世界。美しい森が紅葉に染まる様子を眺めながら季節の膳をいただけば、これ以上ない秋の思い出となるでしょう。
10月下旬ごろまでは、「明治の森箕面 音羽山荘」と「磯よし」で箕面川の上に桟敷を広げた川床でのお食事も体験できます。夏から秋への季節のうつろいを水面の風に感じ、川をたゆたい流れゆく落葉をながめながら旬の食事をいただく。紅葉ウォーキングの合間に組み込めば、箕面の秋を大満喫できるツアーの完成です。
明治の森箕面 音羽山荘
- 住所:大阪府箕面市箕面公園1-3
- ウェブサイト:明治の森箕面 音羽山荘
磯よし
- 住所:大阪府箕面市箕面公園1-20
- ウェブサイト:磯よし
都会と自然に隣接。いいとこどりができる紅葉スポット
大阪の中心地からわずか30分とは思えないほどしっかりと自然を感じられる箕面。まるっと1日「明治の森箕面国定公園」で紅葉を愛でる過ごし方はもちろん、伊丹空港から大阪観光に向かう途中にサクッと立ち寄るプランも立てやすく、都会と自然をつなぐ利便性の高い紅葉スポットといえます。
「山荘 風の杜」のような自然とシティ感のバランスの取れたホテルをはじめ、ビジネスホテルや高級旅館といった宿泊施設の種類が豊富にあるのも旅行プランを立てるときの大切なポイント。明治の森箕面国定公園でたっぷり1日を過ごしたら一泊して駅周辺や箕面市内の観光をプラス。大阪クラフトビールのパイオニア「箕面ビール」直営の「WAREHOUSE」など、箕面市内の魅力あふれる場所に立ち寄ってから、大阪などの次なる目的地に向かうといったプランも可能です。目的や家族構成によってオリジナルの欲張り紅葉狩りツアーが組めるのが箕面の魅力ともいえます。
山荘 風の杜
- 住所:大阪府箕面市箕面2-14-71
- ウェブサイト:山荘 風の杜
WAREHOUSE
- 住所:大阪府箕面市牧落3-14-18
- ウェブサイト:WAREHOUSE
空港や大阪市内に近くて利便性がよく、それでいて自然の恵みの紅葉は思う存分に楽しめる箕面。関西方面の都市部の旅行と紅葉を組み合わせる行程を組みたい方、短い日本の秋をアクティブに過ごしたい方にぴったりの注目の紅葉スポットです。
吉野山:桜の名所である世界遺産が魅せる秋の絶景
関西国際空港から車で1時間30分ほど。そこに現れるのは吉野山の深い自然です。古来より桜の名所、修験道の霊場として広く知られ、荘厳な空気をまとう吉野山は2004年に世界遺産に認定されています。春には花で魅せる桜は、実は秋には葉が美しく色づき、息をのむような紅葉の景色を見せてくれるため、秋の吉野山にはまた格別の味わいがあります。
深い自然に身を委ねて紅葉の散策を楽しむ
吉野の山は山岳信仰の一種である修験道が役行者(えんのぎょうじゃ)によって生み出された場所。山にこもって悟りを開く修験者・山伏たちの聖地です。
吉野の山には役行者ゆかりの桜が1,300年以上前から約3万本も植樹されてきました。吉野駅から金峯神社に続く道沿いでは、植えられてきた桜が下千本、中千本、上千本、奥千本とエリアごとに美しい紅葉を見せてくれるのです。秋の吉野山の楽しみ方をこの地で300年以上続く宿「湯川屋」16代目当主であり、観光協会長でもある山本さんにうかがいました。
「吉野山は"一目千本"と形容されるように眼前に広がる桜の壮大な景色が有名です。秋なら、どこを歩いていても桜の紅葉が目に飛び込んでくる。山の裾野から山頂まで順に色づいていく紅葉の絶景に触れられます」
「近鉄吉野駅からロープウェイの吉野山駅までの道のりは下千本のエリア。七曲と呼ばれる急坂ですが、桜並木の紅葉を楽しみながらのウォーキングが楽しめます。歩くのが苦手な方には千本口駅から吉野山駅までロープウェイの利用がおすすめです。眼下に広がる下千本の紅葉を楽しみながら移動できます」
さらに歩みを進めると次々と出会う吉野山の世界遺産を構成する国宝を含む文化財の数々。銅の鳥居、仁王門といった歴史的建築物を訪問しながら、紅葉を味わえる山道が続きます。
「中千本のエリアには源義経と静御前の悲話で有名な吉水神社があります。境内にある中・上千本一帯が見渡せるその名も"一目千本"スポットが有名です。そして中腹の見どころが花矢倉展望台です。花矢倉展望台は吉野山のなかでも特にその眺望の素晴らしさが評判で、奈良と大阪の県境までも眺望できる大パノラマを堪能できます。歩いてきた道の桜の木々が裾野まで広がり、色とりどりに紅葉する様子は息をのむような眺めです」
さらに秘境のような紅葉の世界を味わいたい方は、西行庵と金峯神社のある奥千本まで歩みを進めるといいでしょう。西行庵は詩人の西行が三年間を過ごした小さな庵。ここまでたどり着いたからこそ得られる静ひつのなかで、山が織りなす見事な紅葉を眺望できます。
吉野荘 湯川屋
- 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山440
- ウェブサイト:吉野荘 湯川屋
花矢倉展望台
- 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山1711
西行庵
- 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山639-3115
厳かな山の夜を過ごし、名産品に舌鼓を打つ
紅葉の鮮やかさを全身に浴びてたっぷりと歩いた日は、自然豊かな吉野の里の宿に泊まり、厳かな夜の空気に身を任せてゆったりとした時間を過ごしましょう。けん騒から離れて漆黒に包まれる山中で過ごす秋の夜長は、頭や心が日常から解放され、まさに悟りの世界への入り口。湯に浸かりながら、部屋の窓から、厳かな夜の景色を目に焼き付ければ、忘れ難い吉野での一日になるでしょう。
「吉野に来たらぜひ楽しんでもらいたい味もあります」と山本さんが紹介してくださったのは、柿の葉寿司。塩漬けにしたさばや鮭の切り身を乗せた寿司を柿の葉でくるんだ奈良の郷土料理です。ほどよい塩気を含んだ魚の身と酢飯が柿の葉の香りをまとったその風味は格別。「ひょうたろう」などここ吉野の地で製造するこだわりの店が多くあります。「店ごとに少しずつ異なる味を食べ比べしても楽しいですよ」と山本さん。
もう一つ、ぜひ味わいたいのが吉野名産の吉野本葛で作られた葛餅、葛湯、葛切りです。特に「葛屋 中井春風堂」の葛切りと葛餅は必食の逸品。目の前で作られる葛切りと葛餅の賞味期限はわずか10分という短さのため、この地を訪れた方だけが味わえます。
ひょうたろう
- 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山429
- ウェブサイト:ひょうたろう
葛屋 中井春風堂
- 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山545
- ウェブサイト:葛屋 中井春風堂
修験道の荘厳な世界に飛び込むスペシャル体験をする
吉野山は修験道の聖地。だからこその特別な体験もできます。一つ目は、秋の紅葉の時期に合わせて特別開帳される金峯山寺の秘仏御本尊金剛蔵王大権現3体の拝観。まさに吉野の里が祈りの地となった起源ともいえる場所で、御本尊の金剛蔵王大権現を直接その目で見ることができる絶好の機会です。ご開帳中は夜間拝観も可能で、闇夜に現れる金剛蔵王大権現は必見です。
もう一つが、金峯山寺での朝の勤行です。6時30分から始まるため、吉野に宿泊しないと体験できません。太鼓やほら貝の音が鳴り響く圧倒的で盛大な祈りの場は密教や山岳信仰が入り混じって生まれた修験道ならではのもの。ここで、この時にしか経験できない特別な時間を、紅葉の季節の吉野山の澄んだ空気のなかで過ごしてみてはいかがでしょうか。
金峯山寺
- 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山2498
- ウェブサイト:金峯山寺
歴史的名所の数々が放つ厳かな雰囲気のなかで紅葉を愛でる時間を過ごせるのが秋の吉野山。週末には吉野山奥千本線ラインという路線バスも運行されているので、体力や時間に応じてケーブルカーと組み合わせて紅葉を巡るのがおすすめです。
兵庫・大阪・奈良の3つの紅葉スポットが魅せる秋の世界
関西の3空港からそれぞれアクセスしやすい、兵庫・大阪・奈良にある3つの紅葉スポット。その地の文化や空気を背景にして織りなされた紅葉はそれぞれに美しく、表情の違う絶景です。深まる秋を五感のすべてで、全身で感じられる関西の紅葉の旅にぜひお出かけください。
- 記載の内容は2024年6月現在の情報です。変更となる場合があるのでご注意ください。
取材協力:有馬温泉観光協会、箕面市観光協会、吉野山観光協会