多様な食文化を実現させた街
東京からフライトで約9時間半(ANAでは、羽田・成田両空港から直行便を運航)、約11×11kmのコンパクトな街サンフランシスコ。太平洋とサンフランシスコ湾に面した街は坂道が多く、いまだにケーブルカーが重要な交通機関の役目を果たします。年間を通して穏やかな気候で、猛暑日がなく、また雪も降らないなど、過ごしやすさも魅力です。
そんなサンフランシスコは、世界屈指の美食の街としても広く知られています。新鮮な魚介類が豊富なことや、太陽が惜しみなく降り注ぐカリフォルニア州産の新鮮な食材が手に入ること、また移民を多く受け入れた背景により、中華料理をはじめとするエスニック料理が身近にある環境などが、サンフランシスコで多様さと美味しさを兼ね備えたグルメが発展してきた理由です。加えて多くのハイテク企業がオフィスを構え、そこで働くハイテクワーカーのライフスタイルに合ったハイエンドなレストランの需要が高いことも要因とされます。実際に数多くのレストランが、ミシュランガイド入りや米国料理界のアカデミー賞と呼ばれるジェームス・ビアード賞を受賞しています。
そこで今回は、サンフランシスコグルメから、サンフランシスコを知る上でも欠かせない代表的な5つの料理をピックアップ。それぞれ関わりの深いエリアと合わせてご紹介します。
フィッシャーマンズワーフの定番グルメ「サワードウブレッド」
サンフランシスコグルメを語る上で欠かせないのが、サワードウブレッドです。サワードウブレッドとは、生地が酸っぱいパンで、霧の多いサンフランシスコ特有の気候と地域に存在する酵母や細菌の特定の条件下で作り出されます。1840年代のゴールドラッシュ以降、サンフランシスコではサワードウブレッドが広く普及しており、サンフランシスコの代名詞ともされる食べ物です。長時間の発酵プロセスを経るサンフランシスコのサワードウブレッドは、酸味加減のシャープさが引き立ち、ほかの都市で食べるパンとはやはり違う味。加えて、軽く弾力があり甘さを含む生地が酸味を引き立たせ、複雑な風味が楽しめます。
そんなサワードウブレッドを楽しむなら、サンフランシスコ屈指の観光エリア、フィッシャーマンズワーフへ。一般的にサワードウブレッドはサラダに添えたり具材を挟んでサンドイッチとしていただきますが、おすすめなのが熱々のチョッピーノ(海鮮シチューの一種)やチャウダーなど、スープと一緒に食べる方法。港町という立地条件から魚介類が豊富なフィッシャーマンズワーフならではの食べ方です。
フィッシャーマンズワーフに大きなカフェを持つ「Boudin Bakery」は、丸いサワードウブレッドの中をくり抜き、その中にクラムチャウダーを入れたスープが王道メニューとして大人気。海風が強いふ頭は夏でも肌寒い日が多く、熱々で濃厚なクラムチャウダーと程よい酸っぱさのパンは、まさにからだに染みわたるおいしさです。この「Boudin Bakery」は、ゴールドラッシュ時代から変わらないレシピを受け継ぐ伝統的なサワードウブレッドをいただける場所として知られています。
フィッシャーマンズワーフは、シーフードレストランや屋台が立ち並ぶ場所でもあります。新鮮なゆでガニやフィッシュアンドチップスなど食べ歩きができるほか、「ピア39」(レストランやショップ、水族館などが集まるスポット)の奥に生息する野生のアシカを見学したり、ゴールデンゲートブリッジを眺めたり、特産品であるダンジネスクラブの大きな看板をバックに記念撮影など、まさに観光には事欠きません。
またフィッシャーマンズワーフから、地元産の食べ物や雑貨のみを扱うマーケットプレースやファーマーズマーケットを開催するフェリービルまでは、湾沿いに歩行者専用のボードウォークがあり、徒歩でのアクセスも可能です。多くのローカルがジョギングや散歩を楽しむ景観の良いコースで、天気の良い日はダウンタウンの高層ビルと反対側の湾を眺めながら、のんびり散策にも適しています。
- 知っておきたい!サンフランシスコの交通事情
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坂道が多いサンフランシスコ。交通手段として欠かせないのがケーブルカーです。1873年から変わりなく特有のリズムと速度で走るケーブルカー乗車は、ぜひ試したいもの。特にユニオンスクエアの始発駅では、現在でも手動でケーブルカーを回転させる様子を見ることができます。パウエル通りの急斜面を登り、ノブヒル地区と中華街の街並みを抜けてフィッシャーマンズワーフに着くルートは、まさにサンフランシスコを体感できるコースです。
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レトロなケーブルカーの乗車体験とは裏腹に、最近人気なのが自動運転の無人タクシーです。現在サンフランシスコでは「Waymo」が市内をあちこち走っており、アプリさえあれば簡単に乗車できます。ドライバーがいないタクシー、という近未来な体験もぜひ試してみましょう。
Boudin Bakery
- 住所:160 Jefferson Street, San Francisco, CA 94133
- ウェブサイト:Boudin Bakery(英語)
ミッション地区が発祥の「ミッションスタイルブリトー」
サンフランシスコ・ブリトーとも呼ばれるミッションブリトーは、1960年代にサンフランシスコのミッション地区で発祥。当時メキシコから移住した多くの移民が肉体労働に従事しており、ランチに食べ応えのある大きなブリトーを好んだことが起源とされています。特徴は、ライス、ビーンズ、ミート、サルサ、ワカモレ、サワークリームなどの具材を小麦粉のトルティーヤで包んだ巨大なサイズ感。一般的にアルミホイルに包まれて提供されます。たくさんの具材の中から好みをカスタマイズできることや、ずっしりとした食べ応えのあるボリュームと素朴な見た目が、一般的なブリトーとの違いです。
バレンシア通りにある「Taqueria La Cumbre」は、当時の面影を残すローカルにも人気の老舗店。素朴な店内ではカウンターで好みの具材をセレクトすると、目の前で大きなブリトーを作ってもらえます。ミッションブリトーは、もっちりとしたトルティーヤにたくさんの具材が重なるように巻かれており、半分に切ったものを大きくかぶりついていただきます。一口ごとに違った味わいを楽しめ、数種類のサルサを加えることで飽きずに食べ進めることができます。どっしりとした食べ応えなので、二人でシェアするのにもぴったりです。
この大きなブリドーをテイクアウトしてぜひ向かいたいのが「ミッション・ドロレス公園」。丘の傾斜に位置する公園は、公園の南西端(20番通り&チャーチ通り)まで上がるとサンフランシスコ市街を見下ろせる絶景スポットがあります。見事な街並みを眺めながらブリトーをいただけば、サンフランシスコ気分を満喫できること間違いありません。
また流行の発信地ともいわれるミッション地区は、目抜き通りのバレンシア通り沿いに多数のレストラン・カフェ・小売店やおしゃれなブティックが立ち並んでいます。ここでは雑貨や洋服などのショッピングはもちろん、美味しいコーヒーを楽しむことができます。おすすめは、カカオときび砂糖のみを使ってこだわりのチョコレートを製造する「Dandelion Chocolate」。ローカルにも人気のスポットです。すっきりとした甘さの上質なクラフトチョコレートは、ホットチョコレートとしていただくのにぴったり。ミッション地区には2軒のおしゃれなカフェと工房があり、休憩にも最適です。
- 知っておきたい!サンフランシスコの気候
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年間を通じて穏やかな気温のサンフランシスコは、夏は涼しく、冬は穏やかという独特の気候です。平均気温は、約12℃(冬の夜間)から、約22℃(夏の昼間)の間を変動するのが一般的で、32℃を超えるような暑い日は一年でわずか数日、雪が降ることもありません。
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また晩春から初夏にかけて霧が多く発生し、天然のクーラーの役目を果たしてくれるため肌寒い日が続きます。10月が最も暖かく、主に11月の終わりから3月の間に雨が降ります。どの季節にせよ、1日における気温の変化が激しく、早朝と夕暮れ以降は肌寒くなるため、必ず上着を持参しましょう。また、朝は風が少なく、大変気持ちよい時間帯。観光の際も早朝からスタートすると、カリフォルニア独特のすがすがしい朝を体験できますよ。
Taqueria La Cumbre
- 住所:515 Valencia Street, San Francisco, CA 94110
- ウェブサイト:Taqueria La Cumbre(英語)
Dandelion Chocolate 16th Street Factory
- 住所:2600 16th Street, San Francisco, CA 94103
- ウェブサイト:Dandelion Chocolate 16th Street Factory(英語)
歴史と現代が融合するギラデリスクエアで楽しむ「飲茶」
ゴールドラッシュの時代から中国移民を多く受け入れてきた背景から、多数のおいしい中華料理が食べられる場所があるのもサンフランシスコの魅力。特に飲茶はカジュアルなテイクアウトからハイエンド、カート式までさまざまなスタイルが楽しめます。飲茶といえばチャイナタウンで、特にサンフランシスコには北米で最も歴史のあるチャイナタウンがありますが、最近はチャイナタウン以外のエリアに、見た目も美しい飲茶や、伝統的な点心をモダンにアレンジするなど、新しいスタイルのレストランが増えています。
本格的な広東料理をモダンに展開した「Palette Tea House」は、ターメリックやビーツなどを使って5色にアレンジしたカラフルな小籠包や、黒い蒸し生地をスワンに見立てた点心など、伝統的スタイルの飲茶に加えて見栄えの良いオリジナルな点心が人気のレストラン。ミシュランガイドにも常連入りを果たす人気店です。飲茶レストランといえばなんとなくせわしない印象がありますが、2019年にオープンしたばかりの店内は、趣のあるレンガ壁に彩りのよい照明が飾られた開放的でリラックスした雰囲気。落ち着いて食事を楽しめます。
Palette Tea Houseがあるのが、1852年に設立された古いギラデリチョコレート工場の跡地を再開発したギラデリスクエアです。古い歴史と現代が融合するユニークなスポットは、近年ローカルに人気のレストランが次々オープンし話題となっているエリア。サンフランシスコ湾を見渡す景観の良さに加えて、フィッシャーマンズワーフからも徒歩圏内とアクセスも抜群。サンフランシスコのお土産として定番のギラデリチョコレートカフェをはじめ、ブティックやショップが軒を連ねるため、お買い物や散策にも適しています。
- 知っておきたい!サンフランシスコの治安
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ニュースなどでも度々話題となるサンフランシスコの治安ですが、他のアメリカの大都市と同じようにホームレスや薬物中毒者問題を抱えています。場所によるため、テンダーロインやシビックセンターなど、一般的に治安が悪いといわれるエリアへはできるだけ近寄らない方が賢明です。
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また一時期に比べると改善しましたが、車内荒らしも横行しています。たとえ安全といわれる場所でも、車内の見える場所に荷物を置きっぱなしにすることは厳禁です。パスポートや多額の現金など貴重品はホテルなど宿泊先の金庫に預け、最低限の荷物で行動すること、散策の際はできるだけ人通りの多い通りを選ぶなど、常に注意を払って行動することでトラブルを避けることができます。
Palette Tea House
- 住所:900 North Point Street, San Francisco, CA 94109
- ウェブサイト:Palette Tea House(英語)
ソノマ地区の自然が育てる「カリフォルニア料理」
サンフランシスコの食文化を語る上で外せないのが、カリフォルニア料理です。カリフォルニア料理とは、北カリフォルニア発祥の料理スタイルで、持続可能で新鮮な地元産の食材に重点を置き、さまざまな食文化を融合させた革新的な料理のことを指します。サンフランシスコでも実に多くのレストランがこのカリフォルニア料理を提供していますが、カリフォルニア料理を楽しめる日帰り旅行先としておすすめなのが、ソノマカウンティーです。ソノマはナパに続くワインの生産地で、サンフランシスコから車で約1時間の距離。田園風景が広がるのどかな環境は、農場と直接契約を行い、その日調達された新鮮な食材で日替わりメニューを提供する"ファーム・トゥ・テーブル"レストランを楽しむのにぴったりの場所といえます。
中でも知名度が高いのが、カリフォルニア料理と日本の懐石料理を融合させた「SingleThread」。このユニークなコンセプトのレストランはミシュランの三ツ星を獲得しているほか、The World’s 50 Best Restaurantsにも常に上位入りを果たす人気店です。5エーカーの自家農園を併設し、採れたての新鮮な食材を使い、カリフォルニアと日本の味を融合させてアプローチする独特のスタイル。まさに最先端かつ、こだわり光るカリフォルニア料理を堪能できる場所です。予約必須の人気店ですが、ソノマを訪れる際はチェックしたいレストランです。
またワインの生産地であるソノマは、ワイナリー巡りにも適した場所です。中でもおすすめなのが、SingleThreadから車で約30分の距離にある「Freeman Vinyard & Winery」。家族経営のブティックワイナリーでは、日本で生まれ育ったアキコさんがワインメーカーとして、その土地のテロワールを活かしたオーガニック栽培のワインを作っています。予約制のテイスティングツアーは、テイスティングのほか、小規模ワイナリーのツアー、ブドウ畑の見学など盛りだくさん。ソノマらしいひとときを過ごせます。
SingleThread Farm - Restaurant - Inn
- 住所:131 North Street, Healdsburg, CA 95448
- ウェブサイト:SingleThread Farm - Restaurant - Inn(英語)
Freeman Vinyard & Winery
- 住所:1300 Montgomery Road, Sebastopol, CA 95472
- ウェブサイト:Freeman Vinyard & Winery(英語)
絶品「ビルマ料理」をリッチモンド地区で体験
意外と知られていませんが、サンフランシスコはおいしいビルマ料理を食べることのできる場所でもあります。これは1990年までに、ミャンマーからの米国移民のほぼ3分の2がカリフォルニア、特にサンフランシスコなどの都市部に居住するようになった歴史的背景にあります。そのため他都市ではあまり見かけないビルマ料理店を、市内あちこちで楽しむことができます。
特にダウンタウンから西にあるリッチモンド地区は、移民が多く住む場所として知られ、ビルマ料理店をはじめさまざまなエスニック料理を楽しめるエリア。またサンフランシスコで最も大きな面積を誇るゴールデンゲートパークも徒歩圏内という環境の良さから、2023年にはタイムアウトマガジンの「世界で住みやすい地区ランキング」に取り上げられました。
そんなのんびりした雰囲気と多様なコミュニティで形成されるリッチモンドでおすすめなのが、2024年2月にジェームス・ビアード賞でクラシックアメリカン賞を受賞したばかりの「Mandalay」。1984年からビルマ料理を提供し続ける老舗レストランは、現在サンフランシスコで経営するビルマ料理店で最も古いレストランです。
「Mandalay」は、ミニマルでインダストリアルな外観や内装が主流のサンフランシスコでは異例な、黄色と緑の派手な外観が目印です。店内も鮮やかな黄色の壁に、ミャンマーのさまざまな民芸品や装飾品が飾られています。なんだかレトロでノスタルジックな内装は、異国気分を味わうのにぴったり。ここでぜひ食べてみたいのが発酵させた茶葉にトマトやピーナッツ、ガーリックチップスなど8種類の具材にレモンを絞っていただく「発酵お茶の葉サラダ(Tea Leaf Salad)」、マイルドな茶葉にそれぞれの具材が引き立つ優しい味わいです。またインドのパラダに似た薄いパンにカレー風味のソースをディップしていただく「バラダ(Balada)」もおすすめ。もちもちとしたパンとカレーの組み合わせを楽しめます。インドや中国、タイ料理に似ているけれど、どこか違うビルマ料理、ぜひサンフランシスコで味わってみましょう。
食事の後に、リッチモンド地区を散策しつつぜひ足を運びたいのが緑豊かなゴールデンゲートパーク。日本庭園や、アメリカバイソンを飼育・保護する「バイソン・パドック」など見どころも満載です!
Mandalay
- 住所:4348 California Street, San Francisco, CA 94118
- ウェブサイト:Mandalay(英語)
サンフランシスコならではの魅力を満喫する旅へ
穏やかな気候、素晴らしい景観、そして何といっても世界屈指の美食の街として世界中の旅行者を魅了するサンフランシスコ。ここには紹介しきれなかったグルメも、まだまだたくさんあります。ぜひ現地に足を運んで、自分の目と舌で体験してください。
- 記載の内容は2024年11月現在の情報です。変更となる場合があるのでご注意ください。