
世界中のおいしいものが集まる街・東京には、ある特定のジャンルのグルメが集まり、高いレベルでしのぎを削る「激戦区」と呼ばれるエリアがあります。今回は都内5エリアの「グルメ激戦区」をピックアップ。その地が培ってきた食文化を楽しみ、その街の魅力に触れるプランをご紹介します。
浅草:伝統料理の老舗が歴史を紡いできた東京屈指のグルメタウン

東京の北東に位置する浅草。赤い大きな提灯の雷門でお馴染みの浅草寺を中心に江戸屈指の歓楽街として栄えてきました。そして浅草寺の参拝者たちを楽しませてきた江戸の味を今も変わらず堪能でき、東京を代表する老舗の味の激戦区でもあります。

写真:駒形どぜう
伝統の味を守り続けてきた「駒形どぜう」は創業1801年のどじょう料理専門店。暖簾をくぐると奥に広がるのは、入れ込み座敷。座敷に直にテーブルがわりの金板と呼ばれる長い板が置かれ、金板の上に乗せられた「どぜうなべ」を囲んで食べるスタイルです。
炭火にかけられた鉄鍋のなかにはすでにしっかりと煮込まれてやわらかくなったどじょうがたっぷり。ねぎをどっさり乗せてひと煮立ちさせたら、お好みで山椒や七色唐辛子をパラリとふりかけていただきます。手間ひまかけて煮たどじょうはまるごと食べられるやわらかさ。それでいてどじょうの味わいがしっかりと堪能できます。江戸の味を感じるキリリとした割下を途中で加えながら、お酒を楽しみながら鍋をつつけば、江戸っ子気分。200年以上人々に愛されてきた店の味と風情に浸って、江戸時代にタイムトリップできます。

写真:駒形どぜう
もうひとつの浅草らしい老舗が今年で開店101年目の「元祖 釜めし春」です。関東大震災で焼け野原になった浅草で、大きな釜を使った炊き出しがきっかけでできたという釜めし。その味を生かし、1合釜で炊き上げる今の釜めしスタイルが生まれました。
オーダーをうけてから炊き上げる釜めしは、木ぶたを開けると蒸気とともにフワッとお出汁と炊きたてのお米の香りが立ち上ります。食べ進めていくと底にはおこげ。これまた釜炊きならではのおいしさです。こだわりの鶏肉を使った鳥釜めし、海の幸・山の幸が詰め込まれた五目釜めし、牡蠣やたけのこなどの季節限定の味など、釜めしの種類は豊富。鳥釜めしは鶏肉のうまみやこくがしっかりとご飯に染み込み、五目は海鮮や野菜の味がそれぞれ引き立て合う欲張りな味わい。具材ごとに、まったく異なるおいしさが楽しめるのがひと釜ずつ炊き上げられる釜めしの魅力です。

「浅草寺さんのお参りの帰りに必ず立ち寄るというお客様や、ふらりと釜めしを食べにきてくださる常連さんがたくさんいます。子供の頃連れてきてもらった方がお子様を連れてきてくださって、そのお子様がお友達と食べにきてくれるなんてこともあります。3世代に渡って通ってくださるご家族も珍しくありません」と「元祖 釜めし春」の4代目世代にあたる豊田さん。
何世代にも、何百年にも渡って愛されてきた老舗の味が集う場所、東京・浅草。皆の記憶に残る思い出の味、一度は食べておきたい伝統の味が楽しめる街です。

駒形どぜう 本店
- 住所:東京都台東区駒形1-7-12
- ウェブサイト:駒形どぜう 本店
元祖 釜めし春
- 住所:東京都台東区浅草1-14-9
- ウェブサイト:元祖 釜めし春
神保町:カレー&喫茶が優しく寄り添う本の街

東京ど真ん中の神田神保町は世界屈指の書店・古書店街。軒先や店の外まで本が陳列されていて、街はまるでひとつの大きな本棚のよう。お目当ての本を探したり、掘り出し物に出会えたり、本好きにはたまらない場所。そしてこの街に集う本好きに愛され、育まれ、街の代名詞ともなっているグルメがカレーと喫茶です。

「書の街のなかでやらせてもらっているという気持ちはずっとある」と話すのは101年の歴史を誇る「スマトラカレー共栄堂」店主の宮川さん。「40年ほど前にうちが神保町にきたときにはほとんどカレー屋さんはなかったけど、今はカレーグランプリをやっているくらいお店が増えているよね」。
本を買いにくる方を中心に、近隣大学の学生、サラリーマン、そしてカレーの街としての評判を聞きつけて神保町のカレーを味わいにくる方で、お店は絶えずにぎわっています。「スマトラカレー共栄堂」のカレー作りはスパイスをラードなどで1時間30分ほどしっかりとローストするところから始まります。ていねいにローストされて一体感が生まれたスパイスは、ビターさを帯びた深い味わいを感じる独自のルーに。誰にも真似できないこの味がグルメな読書家たちを唸らせ、カレーの名店として名を馳せるようになったのです。

「パソコンを開かれちゃ困るけど、本を読むのはOK。読みながらゆっくりカレーを食べてくださる方も多いですよ」と宮川さん。読書家たちの至福のランチタイムが今のカレー王国神保町を創生したのかもしれません。
神保町には古書店や書店だけでなく出版社もあり、本の読み手はもちろん作家や編集者などの作り手も集う街。読書や打ち合わせに欠かせない喫茶文化が自然と醸成されたのも納得です。その喫茶文化を担う名店のひとつが「神田伯剌西爾(かんだブラジル)」。

地下に降りて店内に入ると、そこは隠れ家のようなほの暗い落ち着く空間。かつてはこの店内にばい煎機もあったそう。現在、ばい煎機は別の場所に移りましたが、今も変わらず使う豆のすべては自家焙煎のこだわりぶりです。お店自慢の「神田ぶれんど」は苦味も甘味も感じられるどっしりとした濃さのある味わいで、そんな一杯を求めて本読みたちが集まります。
「お店の創業から半世紀。時代の移り変わりとともに変化する部分もありますが、作家さんや編集者さんが打ち合わせをしたり、本を読みながらコーヒーを楽しんでいただけたりする場所であること、そして本の街としての神保町は変わりませんね」と30年勤めている店長の竹内さん。

片手に本、片手にはスプーンやコーヒーカップを。読書家たちの豊かな時間を紡ぎ出すグルメとして育まれたこの街のカレーや喫茶。今は神保町にこの味を求めて訪れる方も多くいる東京必食グルメのひとつです。
スマトラカレー共栄堂
- 住所:東京都千代田区神田神保町1-6 サンビルB1
- ウェブサイト:スマトラカレー共栄堂
神田伯剌西爾
- 住所:東京都千代田区神田神保町1-7 小宮山ビルB1
- ウェブサイト:神田伯剌西爾
築地:市場の面影残す名店が見守る変わりゆく街

東京湾岸エリアにある築地市場。かつて都民の台所と呼ばれ、食のプロが集う魚河岸だった築地市場は市場自体が豊洲に移転したことで、現在はその場外の商店街や関連のお店が残るグルメスポットに変化しています。
大にぎわいの場外商店街の路地裏に一歩入ると、ごま油の香ばしさがふわりと鼻をくすぐります。暖簾をくぐって席に着くと「いらっしゃい!なんにする?」と威勢のいい店主黒川さんの掛け声。ここは市場で仕入れた鮮度抜群の魚介の天ぷらが絶品の店「てんぷら黒川」。パチパチと油がはぜる音や小気味いい作業音が小さめの店内に響きます。カウンターはもちろん、テーブル席でも作る様子を感じられるこの距離感が、天ぷらの揚げ上がりを待つ時間を楽しくします。
「おまちどおさま!あったかいうちに食べてね!」と出された特製天丼は帆立と芝海老のかき揚げに、きす、穴子、えび、ししとうの天ぷらが乗った豪華さ。程よい甘さのタレがからんだご飯とカラリと揚がった天ぷらに、箸が止まりません。
「市場のそばでやればなんでもそろうからと30年ほど前にこの地に店を持ったけど、市場が移転して今はだいぶ静かになったよ。でも常連さんは黒川の味を食べにきてくれるし、市場の方もたまに寄ってくれたりするしね。変わりゆく築地を見ていくつもりだよ」と黒川さん。黒川の天ぷらを食べれば、変わらぬ築地を感じられます。

人でごった返す場外商店街のなかで凛としたたたずまいを放つお店がもうひとつ。近場での小さな移転をしたばかりだという明るい店内が自慢の「つきじ鈴富 すし富本店」です。こちらは長年まぐろ専門仲卸を行ってきた「鈴富」が手がける本格江戸前寿司店。その日の仕入れから提供されるネタを使った選りすぐりの江戸前寿司は絶品。「店長おまかせ握り」はお店自慢のまぐろが巻物にまでたっぷりと使われ、金目鯛は昆布締めで出すなどの江戸前らしい丁寧さが光ります。

「まぐろ屋なんで天然のまぐろを使っています」と話すのは店長の橘さん。仲卸業務は築地から豊洲に移りましたが、現在も築地のこの店では仲卸直営だからこそ味わえる天然まぐろにこだわって提供しているそう。
「寿司職人にとって築地市場は特別な街。以前は仕事を終えた競り人に握りを出しながら、今日はどんなネタがいいよとか情報交換をしたり、プロの話を聞かせてもらったりしていました。今は市場にできた商店街を中心に食べ歩きの街に変化を遂げた感じかな。場内の跡地がこれからどうなっていくかも楽しみにしています」と橘さん。

大きな変化の波のなかで変わりゆく築地。それでも変わらぬ味を守る方や店でいただくこだわりの美食に出会える街です。
てんぷら黒川
- 住所:東京都中央区築地6-21-8
つきじ鈴富 すし富築地本店
- 住所:東京都中央区築地6-23-12 秋本ビル1F
- ウェブサイト:つきじ鈴富 すし富築地本店
新大久保:韓国料理を中心に多国籍グルメが軒を連ねる多様性の街

JR山手線新大久保駅。駅に降り立って通りに出た瞬間、韓国語、中国語、ヒンディー語、ベトナム語……さまざまな言語が喧騒のなかに聞こえてきます。東京のコリアンタウンとして発展してきた街・新大久保。今も変わらず韓国カルチャーを本場さながらに体験できるエリアであり、今では韓国に限らずさまざまな国の食文化も満喫できる街に。
サムギョプサルやチゲ鍋などの定番韓国料理だけでなく、韓国で今流行っている最先端の料理や日本ではなかなか食べられないメニューに出会えるのが、歴史ある巨大コリアンタウン新大久保の真骨頂。
「DAOL」は、最旬のヘルシーな韓国料理が食べられると話題のお店です。「チョゲチム」は韓国では海辺の街でよく食べられる海鮮料理。ホタテ、ムール貝、アサリ、アワビ、イカ、エビなどの海鮮が惜しみなく入り、さらには韓国おでんの練り物や水餃子、野菜も加わったゴージャスな鍋です。海鮮の旨みがにじみ出たスープで作るカルグクス(韓国うどん)で締めれば大満足間違いなし。ボリューム満点のこの海鮮鍋を日本で味わえるお店はなかなかみかけません。

「DAOL包みチキン」はバーベキューソースでマリネしてオーブンで焼き上げたチキンを、カラフルな野菜とともに大根の甘酢漬け"サンム"に包んでいただく一品。グリルチキンは韓国料理の鉄板アイテムですが、たっぷりの野菜とともにヘルシーに食べられるようにアレンジしているのがこのお店の特長。ハニーマスタード、チリソース、わさびマヨの3種のソースをつけて、チキンをさっぱりとよりおいしく食べられると評判が評判をよび、女性を中心に大人気です。

そして、韓国料理にとどまらず、インド、タイ、ベトナム、トルコ、アフリカン…いわゆるエスニック料理のお店に事欠かないのも新大久保の魅力。
そんな韓国料理以外のお店のなかでも老舗なのがタイ料理の店「ソムオー 新大久保店」。タイ国政府認定を受け、タイ北部イサーン地方出身のシェフが腕をふるうお店は、タイやお隣ミャンマーの日本在住者を中心に大にぎわい。地元の方たちもその味を認めて通うお店ですから、本場のクオリティを楽しめることはお墨付き。干しエビの旨みたっぷりの青パパイヤサラダ「ソムタム」、鶏ひき肉をホーリーバジルと炒めた「ガパオライス」、ハーブの香り豊かな辛酸っぱいスープ「トムヤムクン」。タイ料理でははずせない王道メニューの数々はどれも秀逸で、多国籍料理が集まる激戦区・新大久保で長年愛されてきたこの店だからこその味です。

「食の大使館」がずらりとそろっている東京・新大久保の街。未体験の料理や味を満喫する東京グルメ旅が楽しめるでしょう。
DAOL
- 住所:東京都新宿区百人町1-5-6 白萩マンション1F
- ウェブサイト:DAOL
ソムオー 新大久保店
- 住所:東京都新宿区百人町1-11-24 YSビル1F
清澄白河:パン&コーヒーが切磋琢磨する東京カルチャーのフロンティア

清澄白河は東京の東に位置し、かつて深川とよばれていた下町情緒あふれる場所。下町のシンボル隅田川が近くに流れ、その支流や運河が街なかを走っているので水辺の街としても印象深いエリア。国内外の現代美術を中心に展示している「東京都現代美術館(MOT)」がある街でもあります。
一杯ずつハンドドリップするスタイルでサードウェーブという世界的コーヒームーブメントの中心を担った「ブルーボトルコーヒー」。その日本一号店があるのがこの清澄白河です。他にもコーヒー好きにはたまらない専門店がこの地にたくさんあります。清澄白河はコーヒー、特にばい煎機も備えた本格的コーヒー文化の盛んな地として発展しているのです。中でも「The Cream of The Crop 清澄白河ロースター」は「ブルーボトルコーヒー」に先駆けて2012年4月からこの地でおいしいコーヒーと自家ばい煎の豆を提供しています。

「川沿いは空間が豊かで工場や倉庫が多く、天井が高い物件に恵まれています。煙や香りが出やすい巨大なばい煎機を設置するための好条件がそろっているともいえますね。この店舗ももとは木材倉庫でした。この街はコーヒー文化が発展する条件に合っているのかもしれません」とお話しするのは「The Cream of The Crop 清澄白河ロースター」の喜多さん。
「多いときで月に500kgの豆をばい煎します。平日は近隣の常連さんを中心に、土日はMOTを訪れた方や、このエリアのコーヒー巡りをしているというお客様もコーヒーを飲みに、そして豆を買いに足を運んでくださいます。清澄白河からMOTに向かう道の"資料館通り"は下町情緒あふれる通り。その道沿いやこの界隈にはこだわりのパン屋さんも多いので、パンを買って、コーヒーを買ってという流れで来てくださるお客様もいます」

清澄白河はコーヒーとともに、こだわりのパン屋が集まっていることでも有名なエリア。開いている日時が少なく幻のような存在の店、塩パンで全国的に名をはせる店、店内でコーヒーばい煎もする店、食パン専門店など、個性あふれるパン屋さんは枚挙にいとまがありません。

写真:Kenta Hasegawa
下町に現代アートとともに新しいカルチャーと、人の流れを生み出したMOTは街歩きの起点となるだけでなく、その館内にはパンが評判のカフェもあります。それが「二階のサンドイッチ」。「サンドイッチは額縁のような。」がお店のコンセプトで、アートを額縁に入れるように、シェフによる料理をパンに挟んで提供するサンドイッチメインのお店です。その時の展示をイメージしたメニューやコラボレーションもあり、まさに食で表現するアート。

写真:二階のサンドイッチ
アートとコーヒーとパンと。清澄白河をギュッと濃縮したようなお店を巡って、東京カルチャーの最先端を体験してみてください。
The Cream of The Crop 清澄白河ロースター
- 住所:東京都江東区白河4-5-4
- ウェブサイト:The Cream of The Crop 清澄白河ロースター
東京都現代美術館
- 住所:東京都江東区三好4-1-1
- ウェブサイト:東京都現代美術館
二階のサンドイッチ
- 住所:東京都江東区三好4-1-1 東京都現代美術館2F
- Instagram:二階のサンドイッチ
- 記載の内容は2025年2月現在の情報です。変更となる場合があるのでご注意ください。