BOEING787就航10周年BOEING787就航10周年

Interview2022/02/25更新

今も787は最先端、現役の主力機でまだまだ伸びていく

新機種として787選定を選定、ローンチ、そして運航開始後も深く787に携わった、篠辺 修(しのべ おさむ)ANAホールディングス特別顧問にお話を伺いました。

787初号機受領から10年が経ちました。今の率直なお気持ちをお聞かせください。
「ローンチカスタマーになるということには、物凄い苦労があった」と語ってくれた篠辺さん。新機材の納入日は決まっているのが通例ですが、787は初回納入予定日(2008年)から3年以上も遅れ、ボーイング社にとっても大きな衝撃となりました。ローンチカスタマーのメリットは、航空機メーカーと二人三脚で議論を進めていくことができ、基本となる仕様にANAの意見を大きく反映できること。ANAがローンチカスタマーではなかったそれまでの機材は、導入前に色々な機器や装備をANA仕様に変えてから受領する必要があり、時間も労力も必要でした。しかし、基本仕様をANAの仕様にできるメリットの裏には並大抵ではない苦労が待っていました。

新機種としての787選定、ローンチ、そして初号機受領
元々787を選んだ理由は、長距離を飛べる、燃費の良い飛行機ということでした。ANAとしては国内線でも導入したい、と国際線機材・国内線機材の2通りの準備で話が進んでいました。
機種選定の実施当時、篠辺さんは整備センターの技術部長として関わっていました。最終的には、国内線用機材として開発が検討された787-3は製造されませんでしたが、中長距離で活用できる787-8、787-9について、「10年経った今、主ともいえる戦力になった。この機種選定は良かったと思う。燃費もいい、遠くまで飛ばせる。ANAの国際線ネットワークのここまでの成長は、787がなければできなかったと思う」と力強く語ってくれました。787-3の存在を知る人は今ではもう少ないですが、この過程も大切なプロセスの一つだったのかもしれません。

787に採用される新しいシステムの開発は、大きなチャレンジでした。
「システムが全く違う。エンジンから圧縮空気を抽気して機体に使用する空圧システムの採用をやめ、電気で作動するシステムにした。今までの機材での実績から装備品やシステムの信頼性向上を目指してのことであったが、大丈夫なのか?と疑問の声も多くあった。経験がないから分からないわけで、これこそがローンチカスタマーとしてのチャレンジだった。例えば、ランディングギア・ブレーキ(制動装置)は、油圧による作動から電気による作動となった。それまでの飛行機と随分違う、見た目は一緒で綺麗な飛行機だけど、中身が全然違う飛行機となった」。

キャビンの窓の電気シェードもまた同様にチャレンジでした。787のキャビンの窓には、実際に開閉できるシェードがありません。CAが操作パネル上でコントロールする、あるいは窓の下のスイッチを操作すれば暗くできるシステムです。「運航開始後、『少し明るいんじゃない?』とお客様からお声があった。2年くらいかかったかな、でも改善していった」。運航開始後も改善し続け、チャレンジを重ねることでシステムの信頼性や居住性を高めてきているのがこの787という飛行機なのです。

787客室窓の電気シェード

2007年7月8日、初めてのお披露目となる787のロールアウトセレモニーの日を迎えました。当時篠辺さんは企画担当役員としてこのセレモニーに参加。アメリカのエバレットにあるボーイング工場で行われたセレモニーの盛大さはもちろん、セレモニー参加のために現地に着いたらまずタキシードの採寸があったことに驚いたそう。日本人はタキシード着用に慣れていなかったことなど、裏話も話してくれました。

日本に初めて飛来した787

当初、ANAは北京オリンピック(2008年開催)に787のチャーターで選手団の移動をサポートすることを考えていましたが、実際の開発が大幅に遅れることになり、残念ながら北京オリンピックには間に合いませんでした。
最終的には、2011年9月に初号機の受領セレモニーを行うことになりました。

2011年9月25日アメリカのエバレットで、「素晴らしい盛大なセレモニーができて思い出深い経験になった」と語る篠辺さん。「Fly 787」と印字されたタオルを工場前でセレモニーに参加した全員が振っていたそう。みんなが一つになった瞬間で、「これいいな!かっこいいな!」と思ったそうです。その後、格納庫で行われるANAグループの新入社員の入社式でも行われることとなりました。

受領セレモニーの話に戻りますが、セレモニーの最中も篠辺さんをはじめ、関係者は今後のことが頭から離れなかったそう。もっとやっておくべきことがあるのではないか。本当にこれで大丈夫なのか。ホッとできるのはまだまだ先のように感じていたそうです。

787の高い居住性。トイレには787として初めてウォシュレットが装備されたが・・・・・
新機材787の飛行機の「売り」は、客室内の湿度、気圧が地上の環境と近く、快適性が大きく向上していることです。ビジネスクラスには、フルフラットで直接通路にアクセスできるシートが初めから長距離仕様の機体に導入され、またトイレにはウォシュレットを装備していることも787の特徴です。

初号機に乗って日本に帰るとき、「世界で初めて787でウォシュレットを使った人になる!」と密かに計画していた篠辺さん。お手洗いから出てくるなり同乗していた某役員にその旨伝えると、「先輩、さっき私やっちゃいまして・・・」「なんだ、お前が世界初か!」とまさかの先を越されてしまった篠辺さん。「私は世界で2番目になった(笑)」と。

度重なる開発遅延と向き合いながらも、「ものすごく居住性の高い飛行機に仕上げて持ってきた」と当時を振り返る篠辺さんから、ここで初めて安堵の表情が見えました。

787運航開始~
2011年11月1日に運航を開始してからは、初期故障などトラブルが続きました。
エンジンの不具合、バッテリー問題。不具合が起こったとき、お客様への説明はもちろん、実際に操縦する乗員の納得もないと飛ばすことができません。そのたびに安全性と向き合い、ボーイングとも議論を重ね、信頼性向上に向けた努力をひたむきに続けました。

787のどこが好きですか?
「やっぱり大きな翼の綺麗なしなりでしょうか。」
特に、飛んでる時にきれいに見えるこの787の翼は1番の特徴とも言えます。理系の人はわかると思いますが、理屈どおりの曲線、このしなりは篠辺さんのお気に入りだそう。

これから次の10年、787とどのように歩んでいくべきでしょうか?
「この最先端の技術が詰まった、まだまだのびるこの飛行機が、次の世代の飛行機にどうつながっていくかが楽しみ」そう語る篠辺さん。また、将来は、777が歩んだ展開と同様に、787貨物専用機が見られるようになるのではないか、と想像を膨らませてました。

篠辺さんにとって787とは?
「787は今も最先端、現役の主力機でまだまだ伸びていくのでは」

飛行機は寿命が長く、進化していきます。他の機種もそうですが、ANAグループにとってはメインの機種だということもあって屋台骨の一つ。「いっぱい苦労したけれど、機種選定からたまたま関わることができた機体なので『出来の悪い子ほど可愛い』と言うが、とにかく、色々な場で苦労して、それが肥やしになり、ANAグループの主力機になっているのだなと感じる。だから、いい飛行機なのでは??」と少し恥ずかしそうに微笑む篠辺さんは、間違いなくANAの787の歴史におけるレジェンドです。

プロフィール

ANAホールディングス株式会社 特別顧問

1976年全日本空輸(株)入社。整備本部装備工場油圧課、技術部、品質保証部、営業推進本部副本部長などを経て、2007年4月からは企画担当役員としてボーイング787導入のプロジェクト長を務める。その後、整備本部長、常務取締役、副社長などを経て、2013年4月より代表取締役社長、2017年4月よりANAホールディングス(株)取締役副会長、2019年4月より現職。

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