沖縄県初!ドローンによる研究用血液輸送を実施

2025/02/10

ANAグループでは、航空機の安全運航に関する知見を活かし、2016年からドローンを用いた地域貢献事業を展開しています。この取り組みの一環として、ANAホールディングスの未来創造室モビリティ事業創造部ドローン事業チームは、沖縄県で初となるドローンによる研究用血液の輸送に成功しました。また、本実証実験は、沖縄県が実施している「令和6年度テストベッド実証支援事業」の採択事業となっています。

血液製剤輸送における沖縄県の課題

沖縄県赤十字血液センターでは、血液製剤の受注を受けた際に、自動車で北部の病院へ血液製剤を輸送しています。しかし、高速道路が少ないことや県民の移動手段が自動車に限られていることによる渋滞などの沖縄の地理的特性から、この輸送には片道約1時間程度を要します。また、血液センターは病院側のニーズにより緊急で血液製剤が必要となる場合、この交通事情の中、緊急走行して届けなければならないという社会的使命を背負っています。さらに、血液製剤の輸送中は温度管理が重要であり、厳格に定められた温度範囲で保冷を維持しなければなりません。このため、特殊な保冷剤を使用した輸送が必要不可欠です。

ドローン事業チームでは、これまで有人離島や過疎地の山間部など物流課題が顕著である地域で、医療品輸送にドローンの活用を検討し、ノウハウを蓄積してきました。今回、より社会的意義の高い血液製剤輸送の課題に関してもドローンを用いて貢献することができないかと考え、この取り組みにつながりました。

ドローン操縦の様子

なぜドローン?

ドローンを活用する最大の利点は、輸送時間の短縮と将来的な省人化です。機体性能が向上し、将来的に血液センターから病院に対して直接飛行ができるようになると車で約1時間程度かかっていた血液製剤の輸送をドローンで最短約35分に削減ができます。これにより、緊急時でも迅速に血液製剤を届けることが可能になり、医療現場での即応性が格段に向上します。さらに、ドローンの遠隔操縦技術により、輸送の省人化も実現できます。ドローンは通信を介した操作が可能なため、1人で複数機体を同時制御できるところまで技術が進展する見込みがあります。そうすることで現時点でも社会的問題になっている配送担い手不足という物流課題に対して対応できる可能性があります。

ドローンでの輸送には、温度管理の課題もありましたが、血液製剤輸送用の保冷剤を開発している株式会社スギヤマゲンにご協力いただき、ドローン輸送専用の保冷箱を新たに開発し、同社の保冷剤も用いることでドローンでも血液製剤を一定の温度で一定時間保冷し続けることが可能になりました。

専用の保冷箱に保冷剤と研究用血液を詰めている様子

ドローンの機体紹介

今回使用したドローンは、ドイツWingcopter GmbH社のVTOL型固定翼ドローン「Wingcopter198」です。この横幅198cm x 長さ167cmの大きさのドローンには、胴体中央の下部にデリバリーボックスがついています。そこに温度が一定に保たれた保冷箱を収納し、研究用血液を入れて運びます。一機あたり2パック分の血液製剤を運ぶことができます。

Wingcopter198のデリバリーボックス

この機体の特徴は、PC上の専用ソフトウェアのみを使用して遠隔操縦ができることで、ドローンのオペレーターの負担を軽減し運用効率を向上させることができます。また、離着陸時に長大な滑走路を必要としないことも特徴です。さらに、効率巡航速度は90km/hであり、緊急医療品の配送や遠隔地への物流において迅速な対応が可能になります。貨物の搭載重量次第では、一度の充電で最長100 kmの航続距離を誇り、山間部や離島などアクセスが困難な遠隔地域への物流にも適しています。

自動車や航空機を使った輸送ではCO2が排出されますが、この「Wingcopter198」のドローンは電力を使用して動作するため、飛行中に直接的なCO2排出が発生しません。そのため、「Wingcopter198」を使用した輸送は、環境への負担軽減の利点もあります。

ドローンによる研究用血液の輸送実証実験

2024年11月27日から12月1日にかけて、沖縄県で実証実験が行われました。この実験では、ドローンを活用して浦添市から名護市まで研究用血液を輸送し、その過程で研究用血液の品質に問題がないかを確認しました。ドローンは浦添市を出発し、バッテリー交換のために恩納村の漁港を経由後、トータルで約53kmの距離を約50分かけて名護漁港まで飛行しました。風が弱まった日には恩納村の漁港を経由せず、直接飛行をして39分で飛行できる日もありました。その後、名護漁港に到着した研究用血液は、車で8分かけて沖縄県立北部病院まで運ばれました。

ドローン飛行の様子.1
ドローン飛行の様子.2
ドローン飛行の様子.3

この実証実験では、飛行ルートの安全性、現場での運用を見据えた実践的な手法・機材を用いた配送フローの実現性、自動車による配送員の負担軽減効果、研究用血液製剤の品質面の医学的評価などの面で検証が行われました。5日間の実証実験を実施し、輸血医学に精通されている東京都立墨東病院の藤田浩氏に医学検査の協力を経て、ドローンで輸送した研究用血液は通常の輸送と比較しても品質の差がないということが医学的に確認されました。

今後に向けては、季節を変えて猛暑の中での品質面での確認や風速制限など運用できる範囲を増やすための機体性能の向上、長期間での実証実験の中で様々な気象環境下での配送実施率などのデータ取得を目指していきたいと考えています。

担当者インタビュー

ANAホールディングス未来創造室モビリティ事業創造部ドローン事業チームの青柳さんと高岡さんにインタビューしました。

ANAホールディングス未来創造室モビリティ事業創造部ドローン事業チームの青柳さん
ANAホールディングス未来創造室モビリティ事業創造部ドローン事業チームの高岡さん

青柳さんは一等無人航空機操縦士の国家資格をお持ちで、ドローンのオペレーターを担当されていますが、今回の運航で特に大変だったことは何ですか?

(青柳)今回の運航では、冬の沖縄県という北風の風速が強い気象条件下での運航判断が大変でした。今回の運航では、53kmという長い航続距離であった為、風向・風速次第では、飛行毎にバッテリー残量が変化をする為、上空の気象環境を適切に判断しなければいけません。また、今回の運航ルートは、米軍の嘉手納基地へ離着陸する有人機の飛行経路と重なる部分があり、事前に丁寧な調整が必要でした。そして、保冷時間を適切にクリアするための定時運航も求められます。今回の運航では、温度管理が重要な研究用血液を輸送しており、保冷時間を厳守することが求められていました。出発時刻や飛行ルート、風向・風速計算など綿密に計画し、少しでも遅延が発生しそうな場合には、プロジェクトマネージャーと調整を行いました。

ドローンのオペレーターとして、運航の際にどのようなことを意識されていますか?

(青柳)ドローンオペレーターとして運航する際には、安全第一で状況に応じた判断を心がけています。法規制や飛行環境は日々変化する可能性があるので、国土交通省の情報をこまめに確認し、飛行計画を立てて万全の準備を整えます。また、運航従事者とのコミュニケーションを密にすることも大切です。単独で操縦するのではなく、様々なスタッフや機体メーカーと連携して運航を実施しました。そのため、事前に綿密な打ち合わせを行い、お互いの役割やスケジュールを共有することで、円滑な運航を可能にしています。

高岡さんは今回の事業のプロジェクトマネージャーを担当されていますが、今回の実証実験ではどのような点が特に難しかったですか?

(高岡)今回の実証実験では、保冷が必要な研究用血液という、非常にデリケートなものをドローンで輸送するという点で、多くの困難が伴いました。輸送した研究用血液(赤血球)は、温度が2℃から6℃帯を逸脱してしまうと品質に影響が出てしまう可能性があります。沖縄県という環境なので、真夏の気温を想定して、事業関係者とドローンに搭載する専用の保冷コンテナの試験や飛行中の温度のモニタリング方法、研究用血液の搭載方法など、細心の注意を払って取り組む必要がありました。また、「ドローンによる医薬品配送に関するガイドライン」など法規制に準拠した安全な運航体制を構築することが求められたので、これらの課題を克服するため、関係各社と協力し、何度もシミュレーションを重ねました。

今後ドローンを活用してどのような事業を展開していきたいと考えていますか?

(高岡)今回の実証実験で得られた知見を活かし、ドローンによる医療物資の輸送事業をさらに強化していきたいと考えています。今後は、血液製剤だけでなく、他の医薬品や検体など、輸送条件が厳しく、迅速な配送が求められる医療物資全般の配送に対応できるような体制を構築したいと考えています。また、機体メーカーなどと連携し、複数のドローンを同時に運航できるようなシステムを構築したいと考えています。これにより、配送効率が大幅に向上し、人件費をはじめとするコスト削減が期待できます。将来的には、ドローンによる医療物資輸送が社会実装され、地域医療の活性化に貢献し、人々の生活をより豊かにする一助となることを願っています。

ANAグループでは、これからもさまざまな形での地域貢献やCO2排出量の削減に向けて取り組んでまいります。