2021/11/25
二酸化炭素(CO₂)や二酸化窒素(NO₂)といった目には見えない大気中における温室効果ガスの増加によって、地球温暖化が進んでいます。宇宙航空分野の基礎研究から開発・利用までを一貫して行っているJAXA(宇宙航空研究開発機構)では2009年以来、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)により地球全体の温室効果ガスの増加を捉えてきました。
以下の図は、「いぶき」が捉えた大気中の温室効果ガスであるCO₂の濃度が2009年より上昇し続けていることを示しています。
「いぶき」が観測したCO₂の濃度(抜粋)サテナビ「いぶき(GO SAT)」<https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/gosat/>参照
温室効果ガスの排出量削減策を検討するためには、どこで温室効果ガスが排出されていて、どこで吸収されているかを正しく把握する必要があります。JAXAでは、「いぶき」等の温室効果ガス観測機器を使用し、宇宙から世界中の大気成分の観測を行うことで、データを用いた温室効果ガスの削減を目指しています。
ANAホールディングスの松本さんは、2018年にJAXAからANAに出向で来ていた方との会話の中で、「飛行機は衛星より低い高度を飛んでいるため、衛星に搭載されるセンサ(観測機器)を飛行機に乗せることができれば、衛星よりも細かくデータを取ることができるかもしれない」ということに気づき、飛行機を利用して温室効果ガスの分析に貢献したいとの思いでJAXAとANAでタッグを組み、人工衛星と旅客機から地表面の大気成分等の分布を観測(リモート・センシング)する実証実験「GOBLEUプロジェクト※1」をスタートさせました。
JAXAの皆様と、ANAホールディングス宇宙事業チームの松本さん(左から3番目)と宮下さん(一番左)
ANAとJAXAの共同研究「GOBLEUプロジェクト」では、「いぶき」の観測技術を応用して小型化したJAXAの観測機器を実際にお客様がご搭乗されているANA便の機内に持ち込み、飛行経路上における大気成分(CO₂、NO₂等)の詳細な濃度分布を観測します。
ANA便の機内にて観測機器を用いて大気成分を観測中の様子
具体的には、太陽光が地上に当たって反射した光を観測機器がキャッチします。大気中に温室効果ガスがあると、観測機器が光をキャッチするまでの間に一部の光が吸収されて、観測機器に到達するまでに光が弱まります。この吸収された光の量を分析することで、大気中にどの程度の温室効果ガスが含まれているかがわかる仕組みになっています。
太陽光が地上に当たって反射した光を、飛行機に乗せた観測機器がキャッチする仕組みの図
観測機器「いぶき」では、高度約666kmの宇宙から、地上で反射した光の量を観測し大気成分の濃度を計測しますが、この共同研究においては、ANAの飛行機に観測機器を乗せて上空約10kmの高さから観測するため、より高解像度で詳細なデータを得ることができます。
衛星からの観測とANAの飛行機を利用した観測の違いを示した図
JAXAの観測機器を用いてANA便の機内で取得したデータと「いぶき」等の人工衛星が宇宙で取得したデータを組み合わせることで、地球全体の大気成分の観測に使用している人工衛星だけでは把握が困難であった、都市域における人間活動に伴う温室効果ガスの排出量を、交通・産業などの発生源別に分析可能になりました。
将来的には研究結果を用いて、人間活動に伴う温室効果ガス排出量の多くを占めると考えられている都市域における温室効果ガス排出量削減策を検討します。また、温室効果ガス削減効果の評価に役立つデータを提供し、世界各国に温室効果ガス排出量削減のための対策を義務付けたパリ協定への貢献を目指します。
共同研究を通じて、JAXAとANAグループは宇宙と空から環境問題をはじめとする地球規模の社会課題の解決に貢献し、持続可能な社会の実現に向けて取り組んでまいります。
この動画は、2021年4月7日NH249便羽田発福岡行きにて実施された、GOBLEUプロジェクトの検証様子を撮影した1分程度の動画です。動画内では、JAXAとANAのプロジェクトメンバー7名が、羽田空港国内線ターミナルからANAの飛行機に観測機器を持って搭乗し、上空にて機内の窓から観測機器を使用して大気中の成分を観測しています。最後に、プロジェクトメンバー7名の集合写真が表示されます。プロジェクトの詳細は、記事内2段落目のANA × JAXAの共同研究「GOBLEUプロジェクト」をご覧ください。
ANA宇宙事業化プロジェクトのHPやXはこちら
ANA SPACE PROJECT HP:https://www.ana-spaceproject.com/
X:https://twitter.com/ANA_SPACE_PRJ