オペレーションにおけるCO₂排出量削減の三大施策

2022/11/04

運航によるCO₂排出量削減のために、ANAが長年行っている、三大施策についてご紹介します。

第一施策「Normal Climb」

飛行機の翼には、翼の面積を変化させるために上がったり下がったりするフラップ(別名:高揚力装置)があり、離陸時にはそのフラップを下げることで翼の面積を広げ、揚力で低速度でも上昇することが可能になります。フラップを下げたままでの上昇も可能ですが、翼の面積を広くしたまま飛んでいる間は空気抵抗も強くなり、速度を上げることが困難になります。また、フラップを下げている時間が長いと、燃料効率は悪くなります。離陸後、早め(高度300m前後)にフラップを上げて(元に戻して)空気抵抗を抑え、より早く飛行機が効率よく飛ぶ巡航高度(1万メートル前後)へ到達することで、燃料の節減かつCO₂排出量の削減につなげている施策を「Normal Climb」と呼んでいます。

Normal Climbの上昇方法を、フラップに焦点をあてた3枚の画像で表しています。1枚目は、離陸前地上走行中の画像で、フラップの場所が示されています。2枚目は、離陸後直後上昇中にフラップが下がっている画像で、フラップを下げて翼の面積を広げることで、上に浮く力(揚力)を発生させ、低速度でも上昇を可能にすることが示されています。3枚目は、上昇中の早い段階にフラップが元に戻っている画像で、上昇後は早めにフラップを上げて元に戻すことで、空気抵抗を減らし、消費燃料を削減できることが記載されています。
Normal Climbの画像解説

逆に離陸後にフラップを下げた状態で、ある高度(通常900m前後)まで上昇する「Steepest Climb」という方法もあります。空港によっては騒音軽減のために離陸後の高度や速度の指定をしているところもあり、そのような空港ではフラップを高度900m前後まで下げ続けるSteepest Climbで上昇を実施しています。このやり方は騒音軽減に効果はあるものの、Normal Climbに比べて空気抵抗を受ける時間が長くなってしまうため、結果的に巡航高度までの上昇でより多くの燃料を消費してしまいます。巡航高度である1万メートル前後まで上昇するには、いち早くフラップを上げて元に戻したほうが燃料効率は良いのです。

Normal ClimbとSteepest Climbを図で比較しています。左半分は、Normal Climbの図で、3本の矢印で離陸から巡航高度10000mまでの飛行機の上昇ルートが描かれています。高度300mの位置に飛行機の絵があり、300mから10000mまで加速することが示されています。Normal Climbは高度300m前後でフラップを元に戻し、空気抵抗を抑えながら高度10000mまで加速することが記載されています。なるべく早くフラップを上げて元に戻すと、より早く巡航高度にたどり着けるため、燃料節減とCO₂排出量削減につながります。右半分の図は、Steepest Climbの図で、左の図と同様に3本の矢印で離陸から巡航高度10000mまでの上昇ルートが描かれています。高度900mの位置に飛行機の絵があり、900mから10000mまで加速することが示されています。騒音軽減のために離陸後の高度や速度の指定がある空港では、高度900m前後までフラップを下げて翼の面積を広げて上昇し、加速できるのは高度900m以降のため、Normal Climbよりは遅く巡航高度に到達することが、記載されています。
Normal ClimbとSteepest Climbの比較

高度や速度等の指定がない空港では、ANAではなるべくCO₂排出量の削減に貢献できるよう、Normal Climbの上昇方法を採用しています。Normal Climbの実施により、実施しない場合に比べて年間で約2,983トン(2021年実績)ものCO₂排出量削減に貢献しています。約2,983トンは、ANAのB777-300ERの飛行機約8.5個分の重さに相当します。

第二施策「Reverse Idle」

着陸した飛行機は、リバーサー(逆噴射装置)やブレーキを使い、減速します。エンジンに取り付けられたリバーサーを使うことで、一時的にエンジンのパワーを上げ、高速で着陸した飛行機をより早く減速させることを可能とします。

飛行機の画像と、エンジンに拡大した画像です。エンジンに拡大した画像では、リバーサーの仕組みについて記載があります。リバーサーは、着陸時にエンジンの後方部分が後ろにスライドし、前方部分との間にできた溝から、空気が前に流れることで、減速させる仕組みです。
リバーサーの仕組み

その一方で、リバーサーを使用することで、多くの燃料を消費します。着陸する滑走路が十分に長く、安全上問題がない場合は、リバーサー使用時のエンジンパワーを調整して小さくすることで、燃料消費量を抑制し、CO₂排出量削減につなげ、かつ騒音を抑える効果もあります。この施策は、リバーサーの使用をアイドルレベルに抑えることから「Reverse Idle」と呼んでいます。リバーサーを使用しないことで、結果的にタイヤのブレーキに負担がかかりますが、ANAで使用しているブレーキの耐久性は、ブレーキの強弱ではなくブレーキの使用回数に左右されるため、Reverse Idleを実施してもブレーキの耐久性には影響が少ないことがわかっています。
このReverse Idleを実施することにより、実施しない場合と比べて年間で約10,608トン(2021年実績)ものCO₂排出量削減につながります。約10,608トンは、ANAのB777-300ERの飛行機約30.5個分の重さに相当します。

第三施策「One Engine Taxi In」

飛行機には、右側と左側の合計2つエンジンがついていますが、着陸後は1つのエンジンでも十分に地上走行が可能です。着陸後に片方のエンジンを止めて、1つのエンジンパワーを使って地上走行することを「One Engine Taxi In」と呼んでおり、この取り組みにより燃料消費量の削減、かつCO₂排出量の削減につながります。

飛行機のエンジン

いつでも着陸後にエンジンを1つ止めて良いわけではなく、降雪などで地面が滑りやすい時や風が強いときにはエンジンを1つ止めることで飛行機の左右のバランスが影響して、車がスリップする時と同じような現象が起こりやすくなってしまいます。また、B787型機では着陸後のエンジンの冷却時間を5分取得が必須と決められているなど、機種ごとのルールも存在します。そのため、パイロットが天候や飛行機の周辺環境を確認し、1つのエンジンでも問題がないと判断したときにOne Engine Taxi Inを実施しています。特に、1つのエンジンでもTaxiには十分なパワーがあるB767型機で、積極的に実施されている傾向が見られます。このOne Engine Taxi Inの施策によってCO₂排出量を年間約1,909トン(2021年実績)も削減しています。約1,909トンは、ANAのB777-300ERの飛行機約5.5個分の重さに相当します。

Efficient Flight Program

これらの三大施策では、実績データを採取し、実施率やCO₂排出削減量などの結果を毎月運航乗務員にフィードバックしています。それだけではなく、例えばOne Engine Taxi Inの実施判断に役立つよう各空港の誘導路の傾斜を図で表した資料を作成し運航乗務員に提供するなど、施策の実施に役立つ情報の提供もしています。それらを行っているのが、Efficient Flight Programの事務局です。Efficient Flight Programは、ANAの運航乗務員ができる運航の燃料節減やCO₂排出量削減の施策を社内で促す取り組みで、今回紹介した三大施策もその中の一つです。まずは安全を第一に考え、そのうえでプラスアルファで環境に配慮しながらできることは何かということを考えながらEfficient Flight Programの取り組みを進めています。

Efficient Flight Program 事務局ご担当者にインタビュー

Efficient Flight Programの事務局、運航乗務員の西川キャプテンにお話をうかがいました。

運航乗務員の西川キャプテン

いつもどんな仕事をされているのでしょうか?

B777に乗務していますので、いつもは飛んでいます。主にアメリカ路線とヨーロッパ路線を飛んでいます。また、国内線と貨物便の中国路線も担当しています。通常のフライトとは別に所属している部の仕事で、Efficient Flight Programや乗員のアナウンス、将来の乗員の働き方についてなどの施策をスタッフとともに進めています。

なぜ「Normal Climb」「Reverse Idle」「One Engine Taxi In」の3つが三大施策なのでしょうか?

これは、燃料削減・CO₂排出量削減効果が大きいからです。その他の施策も実施しますが、この3施策が軸になっている事は間違いありません。会社が主導して実施する他の燃料節減策に対し、この3施策は乗員の意識や工夫、積み重ねが実施率に大きく反映されます。なので個々人の意識を変えて、ひいては運航部門全体の意識を変えることにより、実施率上昇=CO₂排出量削減へとつなげていきたいと考えています。

今後の展望について

昨年度よりFuel Dashboard(燃料削減の見える化ツール)を導入し、より細かなデータが抽出できるようになりました。例えばA空港の〇〇滑走路からの離陸はNormal Climbの実施率が低い、なども容易にわかるようになったのです。これを利用しない手は無く、今後に施策をする/しないにあたっての真因を追求できると期待しています。もちろん三大施策だけでなく、分析ツールを使うことによってさまざまなデータ解析から、新たな別の取り組みへとつなげていくことも検討中です。
航空業界がコロナ禍に苦しむ中、パイロットも危機感を持ったのでしょう。コロナ禍の減便中にEfficient Flight Program施策の実施率は大きく向上しました。今後の復便にあたって、醸成されたエコへの気運が途切れることがないように、Efficient Flight Program委員会から情報を発信していきたいと思います。

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SDGs 12番 つくる責任つかう責任
SDGs 13番 気候変動に具体的な対策を