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    掲載日:2021.07.26

    釣り好き水中写真家の水辺めぐり日記(第4回 長野県 木曽谷の森)

    主に淡水魚の魅力に魅せられ、全国を訪ね歩いている写真家の知来要(ちらい・よう)さん。誰も来ない水辺でじっとその時を待ったり、魚たちと同じ視点を求めてウエットスーツで潜ったり、ユニークな撮影スタイルの中で出会ってきた、水辺の景色やその土地の魅力をお伝えします。

    サンショウウオとイワナ

    サンショウウオとヤマトイワナが棲む流れ
    夏空を背にヤマトイワナが泳ぐ
    古代魚も思わせるヤマトイワナの朱点

    標高1000mの木曽の森。ひんやりした空気の中、初夏の陽射しを透かした樹々の緑が、谷風に揺れています。その中でカメラと釣りザオを持って、「ヤマトイワナ」を狙いました。

    他のイワナが白い斑点を持っているのに対して、ヤマトイワナには白点がほぼなく、全体的に暗い色の体をしています。その姿は、サケ・マスの仲間というより、むしろドジョウやナマズを思わせますが、代わり体の側面には赤く美しい斑点を特っています。
    マクロレンズで赤い斑点、ヒレ、顔と、各部を撮影している時のことでした。魚が体をくねらせ、もがいた拍子に口から何かを吐き出しました。サンショウウオです。イワナは主に水生昆虫、河畔林から落下する陸生昆虫、あるいは小魚などをエサにしていると認識していましたが、サンショウウオの幼生も食べていたことに驚きました。

    釣りもしながらの撮影だった

    さらに最源流部を釣り上がって行くと、細い分流の中の小さなよどみに、3cmほどの何かの稚魚を見つけました。水面の波が底の砂にモアレのようなゆらゆらとした影を落とす、穏やかな世界です。試しに掬ってみようと、ザブンと釣り用のランディングネットを水中に差し込みました。しかし小さな魚たちの逃げ足は速く、岩の下に隠れてしまいます。岩を持ち上げて、砂が舞っているあたりを狙ってサッと掬うと今度は3匹入りました。
    ピチッ、ピチッとネットの中で跳ねる小さな体には、一人前にサケ科の魚類に見られる「パーマーク(幼魚紋)」が見て取れます。ヤマトイワナの稚魚です。この地でしっかり世代交代して、命が受け継がれていることに感激しました。

    つぶらな瞳が愛くるしいハコネサンショウウオの幼生

    釣りのときに携帯している小さなアクリル水槽に水を汲んで3尾を泳がせてみました。すると3尾のうちの1尾は底にへばりつき、体型が少し違っています。しかも脚が生えていました。頭部にはエラがあり、ゆるキャラのモデルにもそのままなりそうな愛くるしい容姿です。
    のちに図鑑で調べると、ハコネサンショウウオの幼生であることが分かりました。太古の時代から生き延びてきたヤマトイワナとサンショウウオは、今ではそれぞれが希少種です。これからも絶えることなく命を繋げて行ってほしいと思う一方で、かわいいサンショウウオがヤマトイワナに捕食されていることには、少し複雑な気分にもなったのでした。

    • 写真はすべてイメージです。
    ライター:知来 要
    フォトグラファー:知来 要

    釣り好き水中写真家の水辺めぐり日記

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