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    掲載日:2022.01.27

    【ANAオフィシャルカレンダーWelcome Aboard(ウェルカムアボード)2022連動企画】オーストラリアへ旅したい(1)

    ANAオフィシャルカレンダーWelcome Aboard(ウェルカムアボード)2022との連動企画。2月の掲載地・オーストラリアにまつわる、作家・甘糟りり子さんの旅情あふれるエッセイをお届けします。

    例えばボンダイビーチで

    若い頃、旅行とは未知の世界に飛び込むことだった。特に海外はそう。味わったことのない食べ物、自分のいるところとはまったく違う宗教や習慣、行き交う人々の目新しいファッション、そして初めて見る景色。旅は自分の経験を増やしてくれるものだったのだ。刺激大歓迎、吸収こそが旅の醍醐味と思っていた。ホテルは寝る場所で、その寝る間ももったいなくてあちこちを歩き回り、異国の地の空気を少しでも多く吸いたかった。帰国して、空港からやっと自宅に帰ってくると、ぐったりした。その疲労までを含めてが旅だった。

    年齢を重ねて、別の旅のスタイルもいいと思うようになった。日常を、日常とは違う環境で繰り返す旅だ。経験を反復して自分を放出する、何もしない旅。

    例えば、ボンダイビーチでのんびりする。お茶をして、散歩をして、時々本を読んで、後は食べて飲んで寝るだけ。そういう旅をしてみたい。

    三日月形の白砂が広がるボンダイビーチ。サンセットも美しい
    画像:Tourism Australia

    ボンダイビーチにひかれたのはまず地名の響きだった。オーストラリアを代表する観光地だが、最初に聞いた時はインドのビーチかと思った。ボンダイとは「岩に砕ける波」という意味のアボリジナルピープルの言葉だという。

    何年か前、オーストラリアに行った時、アボリジナルピープルの音楽と踊りを見せてもらった。身体や顔に伝統の模様を描き、腰を皮で覆っただけの裸の男性達が、手にした木を振り回したり、大地を踏み鳴らしたり、時々声をあげたりしながら舞う。文明に晒されていないもの特有の迫力があって、初めて見るのになつかしさというよりもっと強い郷愁を感じた。長いパイプのようなものは世界で初めての管楽器といわれるイダキ(ディジュリドゥ)。呻きのような、息遣いのような音色だった。観光用のパフォーマンスなのだろうけれど、それでも、私たちの原型に触れた気がする時間だった。

    そんな彼らが「岩に砕ける波」と名付けたボンダイビーチはシドニーの中心部からわずか8km、車で20分という近さ。都会の目と鼻の先のビーチだ。

    私は鎌倉の稲村ヶ崎で育った。海までは歩いて5分。今もその家で暮らしている。日常の中に海がある。鎌倉はシドニーのような都会ではないけれど、観光客と地元の人でにぎわう街があって、すぐ先に海や砂浜があるという環境がよく似ている。どちらも、街と自然が溶け合い、肩の力が抜けたはなやかさが個性だ。

    稲村ヶ崎は北緯35度18分26秒 東経139度31分14.5秒。
    ボンダイビーチは南緯33度58分28秒 東経151度16分40秒。
    かっこつけて、この間勉強した海図の座標で表してみた。どんな陸地も海の上での住所はなく、場所を緯度経度で表す。

    先日、江ノ島の横に沈む夕陽を眺めていたら、慣れ親しんだはずの海について改めて知りたくなった。日常こそはどうやら未知の世界らしい。ボンダイビーチでもきっと、日常に潜む未知が見つかりそうな気がしてならない。

    <作家プロフィール>
    甘糟りり子

    横浜生まれ、鎌倉育ち。大学卒業後、アパレル会社を経て文筆業へ。独自の視点を活かした小説、エッセイやコラムに定評がある。著書に『産む、産まない、産めない』(講談社文庫)、『鎌倉の家』(河出書房新社)、『バブル、盆に返らず』(光文社)など。

    • メインビジュアル:ボンダイビーチ(画像:Tourism Australia)
    • 写真はすべてイメージです。
    文:甘糟りり子

    ANAオフィシャルカレンダーWelcome Aboard(ウェルカムアボード)2022連動企画

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