「ドナウの真珠」と呼ばれる世界遺産の街
中央ヨーロッパに位置するハンガリーはその周囲をオーストリア、スロベニアをはじめとする7つの国に囲まれた内陸の国です。その首都、ブダペストは街の中心を南北にドナウ川が流れ、「ドナウの真珠」「ドナウの薔薇」などの異名を持つ、世界で最も美しい街の一つに数えられています。
ドナウ川を挟んで西側に広がる丘陵地、ブダ地区には歴史的・文化的遺産が多く集まり、東側の平野部、ペスト地区は官庁街を有し、経済の中心地として賑わっています。
トラム(路面電車)に乗れば一日、二日で一通りぐるっと観光できるコンパクトな街ですが、ドナウ河岸、ブダ城、そしてアンドラーシ通りを含むブダペストの街全体が世界文化遺産に登録されています。
今回のナビゲーターであるチェリストの水野優也さんは現在、ブダペストにあるハンガリー国立リスト・フェレンツ音楽大学に留学中。ショパン国際ピアノコンクールで日本では半世紀ぶりの第2位を受賞した名ピアニスト・反田恭平さんが創設した、ジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)のメンバーとしても活動しています。
水野さんが師事しているのは、ミクローシュ・ペレーニ氏。1948年に生まれ、9歳でチェリストとしてデビューしたというペレーニ氏は伝説のチェリストとして知られています。水野さんによるとハンガリー人のチェロには定評があり、著名なチェリストの多くをハンガリー出身者が占めているのだそうです。
では早速、水野さんと一緒にブダペストへの旅に出かけましょう。
地元に根付くハンガリアン・ミュージック
ハンガリーと言えばまずは何をおいてもフランツ・リストの名が挙がりますが、生涯をかけてハンガリー民謡など民族音楽の収集を行ったコダーイやバルトークも、この国にとって大切な音楽家です。
著名な音楽家を幾人も輩出するほど音楽との関係が深いハンガリー。その首都であるブダペストには、音楽を食事とともに楽しめるレストランがたくさんあります。
「レストランに食事に行くと、よく少人数の楽団がハンガリアン・ミュージックなどを演奏をしているんです。地元の人たちもみんな、それを純粋に楽しんでいるのが伝わってきて、普段の生活に音楽が根付いているんだなと思いますね」と、水野さん。
水野さんが普段の暮らしから感じるハンガリーの人たちの性格はどちらかというと「内気」。水野さん自身も自分から積極的に人に話しかけるタイプではないので、地元の人たちと打ち解けるのに最初は少々、苦労したそうです。
「近所の市場とかに行くと、英語が通じない場合もあるのですが、通じたとしても英語で喋ると外国人という感じで、やはり向こうの対応もよそよそしいんです。だから、例え通じなくても、頑張ってハンガリー後で話すと、おまけしてくれたり(笑)。こちらが心を開きさえすれば、実はすごく優しい人たちです。基本的に治安が良いので、旅行もしやすいのではないでしょうか。
歴史を遡ると、ハンガリーはアジアにもルーツを持っています。そのためか、音楽も人もちょっと日本と共通する部分があって、どこか懐かしい感じがします」
街の中心に広大な温泉施設のある温泉大国
日本と共通する部分といえば、実はハンガリーは世界でも有数の温泉大国です。日本で主流の火山性温泉とは異なり、地熱で暖められた地下水を組み上げる非火山性の温泉で、長湯をしてものぼせにくいぬるめのお湯が特徴です。歴史的に“お風呂好き”のローマ帝国やオスマン帝国の影響を受けたこともあり、ブダペストだけでもなんと100を超える源泉が存在するとか。
「僕が行ったのは、洞窟の中みたいな真っ暗な温泉でした。水着を着用して入ります。湯治場でもありますが、昔から社交場でもあって、お湯に浸かりながらチェスをやったりする人もいるそうですよ」
街の中心には露天風呂が3つ、屋内風呂が15もある壮大なセーチェーニ温泉があり、ブダペストが温泉都市と言われるのも頷けますね。
ちょっと内気で温泉好き。水野さんのお話を聞いていると、ハンガリーの人たちと日本人との意外な共通項に、なんだか急にハンガリーに親近感が湧いてくるようです。
後編では水野さんが絶賛するブダペストのグルメをご案内いたします。
水野優也がナビゲートするブダペスト【空たびミュージック】後編
- 水野 優也(ミズノ・ユウヤ)
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1998年生まれ、東京都出身。第89回日本音楽コンクールチェロ部門第1位および岩谷賞(聴衆賞)、黒桝賞、徳永賞、全部門を通じて最も印象的な演奏に対し贈られる増沢賞を受賞。国内各地でのソロリサイタルをはじめ、数々の楽団とも共演を重ねている。2018年よりリスト・フェレンツ音楽大学に留学し研鑽を積んでいる。