生物多様性保全
基本的な考え方
ANAグループは、「ANAグループ環境方針」「ANAグループ生物多様性方針」を制定し、環境課題解決に向けた環境目標の達成や生物多様性保全を重要な経営課題としています。2018年3月には、IATAが推奨する野生生物の違法な取引撲滅を目的とする「バッキンガム宮殿宣言」に日本の航空会社として初めて署名するなど、外来生物の輸送の防止、希少種保護への配慮ある輸送の提供など、輸送という事業活動の中で水際対策を強化し、生物多様性への取り組みを推進しています。
2022年12月に新たな生物多様性に関する世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF*)」が採択されました。ANAグループとしては、特に以下のターゲットについて対応していきます。
- Global Biodiversity Framework
- ターゲット3:2030年までに陸域及び海域の少なくとも30%を効果的に保全・管理する
- ターゲット5:野生種の利用、採取及び取引が持続可能で、安全かつ合法的であること
- ターゲット8:緩和、適応及び防災・減災の行動を通じて、気候変動による生物多様性への影響を最小化する
- ターゲット16:世界の食料廃棄の半減、過剰消費の大幅削減、廃棄物の発生の大幅削減
ANAグループ生物多様性方針
ANAグループは、環境方針に掲げているように、環境課題解決に向けた環境目標の達成や生物多様性保全を重要な経営課題としています。事業活動を通じて自然環境や人権への負の影響を回避・最小化することに努め、自然環境の保全・再生(ネイチャーポジティブ)に貢献していきます。
- ANAグループは、事業活動が生物多様性に与える影響と事業活動の生物多様性への依存度を地域固有性を考慮した上で把握し、社会に開示します。また、ネイチャーポジティブへの取り組みを積極的に情報開示し、取り組み内容の継続的な改善に努めます。
- 「野生物の違法取引を減らすことを目的とした「野生動物保護連盟特別輸送委員会、バッキンガム宮殿宣言(United for Wildlife Transport Taskforce Buckingham Palace Declaration)」を遵守し、航空輸送を利用した違法な野生動物の取引の防止、生態系、生息地及び種を脅かす外来種についても、航空輸送が侵入経路とならないように努めます。
ワシントン条約(CITES)の絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約に記載されている絶滅のおそれのある種を運航関連サービス、原材料、機内サービス品に使用しないよう努めます。 - サプライチェーンにおける森林破壊をゼロにすることを目指し、生物多様性の損失や森林破壊を引き起こすサプライヤーからの商品調達を行わないよう努めます。
- 環境負荷を抑制し、気候変動の緩和により生物多様性への負の影響を最小化するよう努めます。
- 食品類の廃棄率削減や紙資源の使用削減による生態系の保全と森林破壊の防止に努めます。
- すべての役員・社員への教育を通して、生物多様性保全に対する認識を高め、生物多様性保全活動への社員参加を促進します。
- グループ各社が事業活動の中でビジネスパートナーやサプライヤーと協力して生物多様性の保全に努める他、行政や地域社会、国際的なNGO・NPOなどの外部パートナーと協働した取り組みを推進します。
TNFD最終提言に基づく情報開示
ガバナンス
生物多様性に関する依存と影響、リスクと機会を含む自然関連課題については、ESG経営推進体制のもとで対応しています。ANAホールディングス株式会社代表取締役社長を総括、ESG経営推進の最高責任者であるチーフESGプロモーションオフィサー(CEPO)を議長とし、当社およびグループ会社の取締役・執行役員、ならびに当社常勤監査役を委員とするグループ ESG経営推進会議を設置し、気候変動や生物多様性などを含む環境課題にかかわる重要方針や施策についての議論、決定、目標に対する進捗のモニタリングを年4回行っています。取締役会は、環境課題を含むグループ全体の経営方針や目標を定めつつ、当社グループ各社の経営および業務執行を監督する役割を担っています。
気候変動・生物多様性への対応は「ANAグループ調達方針」にも盛り込まれています。
「ANAグループ調達方針」は、「調達基本方針」と「サプライヤー行動指針」で構成され、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」「国際人権章典(「世界人権宣言」)」等の人権・労働に関する国際規範を参照しています。本方針を踏まえてサプライヤーを選定するとともに、選定後に定期的なモニタリングを行うなど、サプライヤーの皆さまの理解と協力が得られるよう積極的に働きかけています。
主に調達に携わる部門に『調達責任者』を選任し、サプライヤーの皆さまと共に持続可能な社会の実現に向けて責任ある調達の取り組みを進めていきます。
戦略
開示概要及び取り組みについて
TNFD提言では「優先地域を特定し」事業における自然関連の依存と影響についての分析を行うとされていますが、今回はグループ事業全体における自然への依存と影響について把握を行いました。今後は、今回把握したグループ事業の直接操業とバリューチェーン上流及び下流における自然関連の依存と影響、リスクと機会に関して、TNFD提言に沿って「優先地域の特定」を進めてまいります。
依存と影響の概要
ANAグループの事業はさまざまな観点から自然の恵み(生態系サービス)に依存していることが分かりました。例えば、航空機の安定的な運航は安定した気候によりもたらされ(調整サービス)、持続可能な航空燃料(SAF=Sustainable Aviation Fuel)の原材料や機内食用の食材の一部は、直接自然の恵みを享受している(供給サービス)ほか、一部の就航路線や地域創生事業はその地域の豊かな生物多様性がもたらす食や文化などの観光資源やレクリエーション機能(文化的サービス)の恩恵を受けています。
また、ANAグループの事業は自然の恵みに依存していると同時に、自然に対し影響を及ぼしている可能性があることも分かりました。例えば、航空機の運航に伴うCO2 排出、航空機や空港から出る騒音や照明は周囲の生態系に影響を与えることに加え、食品・プラスチック・紙類の廃棄、航空輸送を通じた野生生物の違法取引や侵略的外来種の移入・拡散への非意図的な寄与は、生態系にさまざまな影響を及ぼしている可能性があります。
リスクの概要
自然への依存と影響は、ANAグループ事業を継続する上で、さまざまな側面からリスクにつながる可能性があります。SAFやカーボンクレジット調達が困難になり、SAFやカーボンクレジット、機内食の食材調達が困難になった場合や、汚染物質に対する規制が強化された場合のコスト増、生物多様性が損なわれることに遠因する、豊かな自然の観光を目的とした旅客数の減少に伴う収入減、侵略的外来種や野生生物違法取引に対する取り組み不足によるレピュテーションリスク、水の利用・排水における環境への配慮が不十分であることに起因するダイベストメントなどがリスクとして挙げられます。
機会の概要
ANAグループ事業における自然関連の機会についても分析を行いました。
TNFDの中では、自然関連の機会は自然回復のための機会(サステナブル・パフォーマンス)か自社事業における機会(ビジネス・パフォーマンス)の2つに分類されます。
自然回復のための機会として、ANAグループではこれまでに野生生物の違法取引撲滅セミナーの開催や、沖縄でのツルヒヨドリなどの外来種防除活動、チーム美らサンゴによるサンゴの植え付け活動、愛媛のみかん農園の未来を守るプロジェクトなどに取り組んでまいりました。
そして、自社事業における機会としては、これまでも取り組んできたサステナブルなツーリズム企画実施を通じた地域貢献と需要創造による路線収入最大化などに、より一層取り組んでまいります。
対応策
今回の開示においては、特定した自然関連の依存と影響、リスクと機会に関連する既存の取り組みを整理しました。
今後、今回特定した自然関連の依存と影響、リスクと機会の重要性を評価した上で、重要なものに対してはAR3Tフレームワーク*等を活用しながら効果的な対応策の強化を検討してまいります。
- SBTs for Natureが提言する企業が取り組むべき目標に合わせた行動の枠組み。
回避(Avoid)・軽減(Reduce)・復元(Restore & Regenerate)・変革(Transform)の4段階からなる。
依存と影響、リスクと機会の分析
リスクと影響の管理
ANAグループの事業活動が自然に依存または影響を与えている事項について、IATA(International Air Transportation Association=国際航空運送協会)の課題認識、外部有識者(イー・アール・エム日本)とのダイアログ、依存と影響の分析ツール「ENCORE*」の分析結果を総合的に活用して、直接的だけでなく間接的にも依存または影響を及ぼす可能性を考慮して洗い出しを行いました。
その後で、グループ内関係会社や関係部署との議論を経て、依存と影響、リスクと機会について分析を行いました。今回の分析では、自然関連の依存と影響、リスクと機会についてその大きさや発生する可能性が小さいであろう項目も含めて抽出しました。今後の分析でも、それらについて発生可能性や経営へのインパクトの分析を含めた重要性評価を行ってまいります。
- ENCORE:企業や金融機関が自然関連の依存と影響を理解する初期段階において役立つ無料のオンラインツール
自然関連リスクの管理プロセス
取締役会に報告されたANAグループ環境方針やANAグループ生物多様性方針のもと、リスクマネジメントに関する基本事項を規定した「ANAグループ・トータルリスクマネジメント規程」に基づき、「グループESG経営推進会議」にて基本政策の立案・発議、進捗のモニタリングを行っています。自然関連のリスクについても、重要なリスクと認識しており、トータルリスクマネジメントの仕組みの中で取り扱っています。
グループ各社・各部署においては、ESGプロモーションオフィサー(EPO)を推進責任者、ESGプロモーションリーダー(EPL)を推進実行者として、リスクマネジメント体制を構築しています。EPLはリスク管理(予防対策)を計画的に実施するとともに、危機発生時には事務局と連携しながら迅速に対応にあたる役割を担っています。
指標と目標
ANAグループは、事業活動を通じて生物多様性に与える影響の緩和に努めるとともに、事業活動および社会貢献活動を通じて、生物多様性の保全を推進してまいります。TNFDにおける自然関連の依存・影響・リスク・機会を管理するためのグローバル中核開示指標については、今後ANAグループにおける重要性を踏まえ分析・開示を進めていく予定です。
ANAグループの環境目標 | 2030年度 | 2050年度 | |
---|---|---|---|
1 | CO2 排出量の削減 | 2019年度比実質10%以上の削減 SAF*使用量10% |
実質ゼロ |
2 | プラスチック・紙などの資源類の廃棄率の削減 | 2019年度比70%以上削減 | 廃棄率ゼロ |
3 | 機内食など食品類の廃棄率の削減 | 廃棄率3.8%以下 | 廃棄率2.3%以下 (2019年度比50%以下) |
4 | 野生生物の違法取引撲滅 | 1回以上セミナー開催 | 年1回以上セミナー開催 |
- CO2排出量の削減は、気候変動を緩和させ生物を災害から守ります。
2030年には消費燃料の10%をSAFに置き換え、2050年には燃料のほぼ全量を低炭素化していくことでCO2排出量を削減します。EUやICAOのCORSIAで認証された、生物多様性や食料生産への影響が少ない原材料を使用したSAFを購入することで、生物多様性に与える影響を回避します。また、気候変動のみならず、生物多様性の保全・向上に貢献する高品質なカーボンオフセットを活用します。 - 紙資源の使用削減は、森林破壊を食い止め、酸素を作り出す森を守り、そこに生息する生態系を守る事にも繋がります。
ANAグループでは、2020年5月より森林管理協議会(FSC)認証の素材を使用した紙製のストローを導入しています。また、2020年4月よりプラスチック製から(FSC)認証の木製のカトラリーへ変更しており、これにより約6トン(2019年度使用実績に基づく)の使い捨てプラスチックの使用量を削減します。 - 機内食などの食品ロス削減として、食品廃棄物を肥料として循環させ廃棄量を削減します。森林伐採や化学農薬・肥料の投与量を減らした土地利用により、生物多様性の劣化を抑えます。
- 環境目標の達成を通して生物多様性の維持・回復に努めるとともに、航空輸送における違法な野生生物の取引撲滅を目的とした啓発活動や、生物多様性の保全を目的とした環境保全活動を行います。
事業活動を通じた取り組み
回避・軽減 | 軽減 | 復元 |
---|---|---|
1. 違法な野生生物の取引撲滅を目的としたセミナー
2. SAFの活用
SAFの活用の詳細はこちら 新しいウィンドウで開く。外部サイトの場合はアクセシビリティガイドラインに対応していない可能性があります。 |
3. 航空貨物用プラスチックフィルムのリサイクルにおける資源循環型スキームの構築
資源循環型スキームの構築の詳細はこちら 新しいウィンドウで開く。外部サイトの場合はアクセシビリティガイドラインに対応していない可能性があります。 4. 食品残渣の循環型仕組み
食品残渣の循環型仕組みの詳細はこちら 新しいウィンドウで開く。外部サイトの場合はアクセシビリティガイドラインに対応していない可能性があります。 |
5. 愛媛みかん農園の再生とグリーンツーリズム推進
愛媛みかん農園の再生の詳細はこちら 新しいウィンドウで開く。外部サイトの場合はアクセシビリティガイドラインに対応していない可能性があります。 |
ステークホルダーとの協働
「TNFDフォーラム」への参画
「TNFDフォーラム」に参画し、自然資本関連情報開示の国際的枠組みについての知識を深め情報開示の充実に取り組んでいます。
TNFD提言に沿った情報開示への賛同
ANAグループは2023年12月に「自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures(以下、TNFD))」による提言への賛同を表明しました。TNFDの提言に沿った自然関連の情報開示を進めていきます。
環境省「生物多様性のための30by30アライアンス」への賛同
2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」に賛同し、その活動を支援します。この目標は、COP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性グローバル枠組み」の「ターゲット3」に位置づけられています。
生物多様性のための30by30アライアンス 新しいウィンドウで開く。外部サイトの場合はアクセシビリティガイドラインに対応していない可能性があります。
経団連生物多様性宣言・行動指針への賛同
2016年より経団連自然保護協議会に常任委員企業として参加、「経団連生物多様性宣言イニシアチブ」に賛同しています。
経団連生物多様性イニシアチブ 新しいウィンドウで開く。外部サイトの場合はアクセシビリティガイドラインに対応していない可能性があります。
WWF法人会員
2022年より、WWF ジャパンの法人会員として、WWF の環境保全活動を応援しています。
WWFジャパン 新しいウィンドウで開く。外部サイトの場合はアクセシビリティガイドラインに対応していない可能性があります。
軽減 復元 |
|
チーム美らサンゴ 観光資源の保全 サンゴ保全活動 (2004年から) 環境省、沖縄県、恩納村の後援のもと、恩納村漁業協同組合の協力のもとサンゴ苗の植え付けプログラムや沖縄県内外での啓発イベントを開催しています。2004年から始まった活動は2024年で20周年を迎え、メンバー企業は16社となりました。海水温の上昇による白化現象やオニヒトデの大量発生による食害、赤土の流出による汚染からサンゴを守り、海の生態系保全を目指します。2023年までに4,433名が参加し、19,439本のサンゴを植え付けました。 |
---|---|---|
軽減 復元 |
|
ANAこころの森プロジェクト (2012年から) 南三陸町の復興支援と地域の森林保全を目的とし、植林だけでなく適切な間伐作業や林道整備により生息する生物を守り、生態系保全・復元を目指して活動しています。森の間伐材は地元の工場で商品化、販売するなど森林整備や商品制作を担う方々の雇用にもつながっています。2020年にはFSC認証(Forest Stewardship Council®)をうけた航空機模型を贈呈されるなど、地域の方々と交流を深めながら活動に取り組んでいます。 |
軽減 復元 |
|
世界自然遺産登録された沖縄県やんばる国立公園の支援活動 (2017年から) 環境省や国頭郡と連携し、「やんばる国立公園」に隣接する地域である大宜味村田嘉里地区などでの緊急対策外来種(ツルヒヨドリ・ナガエツルノゲイトウ)の防除作業を社員ボランティアが実施しています。防除作業を通じて、環境省レンジャーの指導のもと、外来種の繁殖により減少する在来植物と生態系の保全を目指します。 |