STORY 1
徹底したお客様目線から生まれる
ANAのデジタルイノベーション

Chapter 3

考える余白があることで個人も会社も成長できる
自分達が “お客様” になって初めて気付いたこと

CE基盤構築のチーム結成から、現在に至るまでの歴史をお話いただきます。

  • 加藤

    加藤

    ANA CEのコンセプトを整理し、実現に向ける活動を推進してくる過程で、2つの考え方を大切にしてきました。
    1つは、ANA体験の中でブランド価値をどのように感じていただくかということ。もう1つは、“シームレス” というキーワード。一貫性のあるお客様体験を実際どうサービスに取り入れていくのかということです。
    2012年当時、FacebookなどのSNSが盛んになり始め、“体験” が非常に重要視されるようになってきました。例えば、Facebookで、ある個人が「ここに行ってよかった」とか「この掃除機はあまり使い心地が良くなかった」と発信すると、そのような経験を実際にしていない人にも大きな影響がある。そこから、一般的にも “体験” をもっと重視しよう、という視座が出てきたんです。ANAでは、それぞれのシーンで最高のサービスを提供できているとは思うのですが、果たして全てのシーンが繋がりトータルで満足のいく体験が提供できているか、については明確ではありませんでした。

    そこで、マーケティングの部署、オペレーションの部署など広く巻き込んで、30人ほどのメンバーを選出し、ANA体験を可視化する新プロジェクトを開始しました。最初は、正直、大方があまり前向きな姿勢ではありませんでした。

    そんな状況の中、改めてお客様体験をきちんと考えるには、社員自身が本当の意味でお客様視点になることが大事だという考えに至りました。まずはしっかりとお客様視点で全てのシーンが一貫性のある体験になっているのか、どこに不満があるのか、を体感しようということになりました。

    デザイン思考をベースに、ペルソナを設定し、実際にメンバーがお客様になりきってANAを利用してみる試みです。ペルソナは、事前に集めた利用客の層や傾向に基づいて決め、実際の航空券の予約購入から、搭乗、空港に戻ってくるまで、全ての工程を体験しました。

  • リアルな体験をしてみた結果、非常に気づきが多かったです。私自身にも当てはまりますが、自社の便を自分で予約する機会ってほとんどありません。私はコールセンターに電話をする担当だったのですが、その対応が丁寧すぎるという印象を受けました。この一瞬のシーンで捉えると良いサービスも、例えば、折り返しの電話が勤務中にかかってくる、空港では電話で共有したはずの情報が伝わっていない、などこれまで気づかなかった課題も発見できました。
    この施策を通じて、全プロジェクトメンバーの雰囲気が変わったのが手に取るように分かりました。なんとなく全員の目線が合ってきたと感じ、そこからが真のプロジェクトのスタートでした。ANAとして目指すお客様視点のサービス提供価値を社員全員に共有するためにANA CEコンセプトブックを作りました。

    ANA CEでは一連のお客様行動を13のシーンに分けていますが、その中に「保安検査」があります。ここは直接ANAが提供するサービスではないためシーンに入れるか議論になったのですが、お客様にとってはどこがANAで、どこがグループ会社かというのは関係ない。一連のANAの体験として、しっかり保安検査場も認識することにしました。お客様にとっては、検査のために早めに行かなければいけないことがストレスでもあるので、時間に余裕ができるよう、他のシーンでの提供サービスのやり方も変える必要があると気付けました。

CE基盤が構築されたことにより、オペレーション部門とマーケティング部門として、変化はありましたか?

  • 井上

    井上

    オペレーションとしては、この施策ができて良かったなと感じています。当時は、シームレスなサービスというのが具体的に何なのか、基準がよく分からなくて、私たちの部門でも課題認識は持っていました。このブックができたおかげで、空港および客室におけるサービス基準を体系的に整理できました。

  • 山本

    山本

    マーケティングとしても良かったと思っています。マーケティングとオペレーションの横断的な話をする機会に、共通言語としてうまく機能していると思っています。違うベクトルを向いた人たちが話をするとなかなか着地しないこともあるのですが、共通言語で語れるようになると、ゴールを共有しやすくなります。話のまとまりが良くなり進捗のスピードや精度が上がったと感じるので、間違いなく必要なツールですね。

  • 井岡

    井岡

    私がこのプロジェクトに参加した際にすごいと思った事は、既にこのブックが出来上がっていた事です。会社としてしっかり目指すサービスの方向性を定義しており、共通言語で会話でき、ゴールが明確に示されている。KPI も決めやすいですし、これが最初から出来上がっていたことに感動しましたね。

  • 山本

    山本

    マーケティングはお金を稼ぐ、オペレーションは安全に運用する、という全然違う目的を持っているため、当初は全社一丸になることは大変でした。

  • 井岡

    井岡

    通常、マーケティングだとここだけ、オペレーションだとここだけ、と情報が断片的になってしまうことが多く、組み合わせて使う機会もあまりないと思うのですが、1冊のブックとしてまとまっていることにより、全社横断でお互いを意識し合って物事に取り組めるという意味でも、実は国内の企業の中ではかなり先端をいっているのではないかなと思います。

  • 加藤

    加藤

    CEマップ、およびコンセプトブックを作る中で、「こういうことをやります」と言い切りの形で書いてしまうとおそらく考えない人が育ってしまうと思いました。「お客様が望む体験価値とはこういうもの」という表現にすることによって、そのためには何が最適な施策なのかを考えてもらうことが大切だと考えました。この部分は賛否両論あって、はっきり「こうする」と言い切った方がいいのではないか、という声もやはりありました。結果的には考える余白を与える形に落ち着いてよかったと思います。

  • 山本

    山本

    戦略を立てるのが仕事であるマーケティングサイドからすると、その余白がものすごく重要かつモチベーションにつながります。中途社員として、自分がどうパフォーマンスを出すかを考える時に、データを分析してどう構築していくか、という楽しさがありますからね。もし決められたことをやるとなると辛いかもしれないです。

  • 井岡

    井岡

    正にそうですね。自分の頭で考える余白があるのがANAのいいところなのかなと思います。これは新卒社員にも当てはまるのではないでしょうか。

CE基盤のチームはどのように選ばれているのでしょうか?

  • 加藤

    加藤

    一番最初に、ANA CEというコンセプトを整理するプロジェクトを始めるときは関係部門をとにかく集めなければいけなかったので、事務局から他部署に声をかけてトップダウンの形で始めました。

  • 山本

    山本

    私は自分から手を挙げたタイプです。(笑)

  • 井岡

    井岡

    私は転職してすぐCE基盤のプロジェクトにアサインされたのですが、その中で自分のポジションを自ら取っていったタイプだと思います。自分の役割を「ここまでで終わり」「もう少しやろう」などいくらでも線引きはできるけれども、「担当外かもしれないけどやってみよう」と現場に足運び、考えを資料にまとめて周りの人に見てもらっていました。そうしていくうちに幅も広がり自分のポジションも明確になりました。

  • 山本

    山本

    入ってきたばかりでも、意見を言いやすい、聞いてもらえる環境は中途社員にとっても嬉しいですね。