ANA Professionals

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ANAの翼を担う ベテランパイロットが 33年目に伝えたい思い  「自然に逆らわないこと」という、安全のための極意 ANAには、現在約2200人ものパイロットが所属しているという。 「お客様を安全に目的地までお連れする」という重みに、複雑な職能が必要なことはわかるが、彼らはどんな職歴で、フライト中に何を考え、何を大切にしているのか。33年ANAを見てきた、ベテランパイロットの人生と仕事を追っていこう。文=吉州 正行  写真=小島 マサヒロ  #19 ANAフライトオペレーションセンター エアバス部 機長 椛沢 伸一

不安材料を取り除くために、 事前にどれだけ準備ができるか 「釧路の天候は問題なかったんですが、降り続いた雪で、滑走路が滑りやすくなっていたんですよ。万が一のためにかなり時間をかけて確認していました」撮影当日、出社したパイロットの椛沢伸一は、アルコールチェックや着替えを済ませたあと、初対面となる副操縦士の長谷川とともに、綿密な飛行航路のチェックを行っていた。運航支援者から様々な情報の申し送りを受け、端末を確認しながら、打ち合わせを行うのだ。「こういうことは冬場には常々ありますが、毎回気を遣いますね。滑走路面の状態が変わればフライトごとにシップに積載可能な重量は変わりますし、その都度ブレーキの効きも変わってくるので」基本的に、まったく同じ条件で飛べることはない。安全のために、把握できる情報はすべて押さえておくのだ。20分程度の打ち合わせを経て、エアバスA320へと向かう。「フライト前には機体のチェックも欠かせません。今回は私が担当しましたが、副操縦士が行うこともあるんですよ」フライトの責任は機長が負う。すべて目視で確認し、その約30分後、釧路へと飛び立つのである。
飛行機の進化がもたらした 安全性と快適性の向上 椛沢がANAに入社したのは、約33年前。だがすぐにパイロットへの道筋が用意されていたわけではなく、5年の地上勤務が待っていた。しかし「それはそれで楽しかったですね」とマイペースに振り返る。「当時は業界2番手で、現在にも続く『挑戦する』ような空気にあふれていましたね」椛沢からは寡黙な印象を受けるが、口を開けば実に温和。そして身長189cmという長身だけに、実に目を引きそうだ。身体能力に自信があった椛沢は航空大学校に通っており、パイロットとしての基礎はある程度できていたという。「入社する段階ですでに双発のプロペラ機を操縦できる免許は持っていたので、訓練自体は1年半程度でした」ANAでお客様を乗せての初フライトは26歳のとき。最初に担当したのは、国産の名機と名高いYS-11であったという。「今の航空機と比べると、操縦が難しいんです。基本的にはマニュアルですし、一部油圧機構もありますが、とにかく力がいりました。クルマにたとえるなら、パワーステアリングがない旧車のような」その後、現在も搭乗するA320、B767、最新のB787と操縦機体を更新していくが、そのたびに技倆向上に加え、機材の進歩も実感していったという。「以前は人間が行っていた作業を機械が行ってくれるわけですから、その分ほかの作業に気を配れるわけです。安全性も向上しますが、新しい機体はやはりお客様の快適性がまったく違いますね。どんどん進化していると思います」
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訓練教官、機長、国際線。 それぞれへの思い入れと努力  33年という長いキャリアの中で、椛沢の仕事は乗務ばかりではなかった。先述の地上勤務に加え、訓練生に対して教鞭を執ることもあったという。「小型機の訓練教官として、3年ほど熊本の訓練所にいたことがありました。いい経験でしたよ。人に教えるということは自分が勉強しなければいけないですし。年も近い訓練生でしたから、教え子とは今も顔を合わせると思い出話に花が咲くんです」副操縦士時代の貴重な経験だというが、やがて実際に現場でも、フライトに対して責任を持つ立場になる。「機長になるための試験があるのですが、受けた当時が人生で一番頑張ったときだと思います。学科試験やフライトシミュレーターを用いた訓練など、とにかく大変でした」かくして機長としての初フライトは羽田から山形への路線。やがて国際線も担当するようになる。「B787の機長をしていたときが、一番国際線乗務が多かったですね。国内に比べて海外だと緊張する部分も多いですよ。長いフライト時間に加えて、現地の状況が国内に比べて見えにくいことも多いですから。それだけに、なおのこと時間をかけ、念入りに準備を行います」2011年のB787のデビューに合わせて、機長を担当することになったという椛沢。2014年の羽田空港からの国際線増便の折りには、787で国際線乗務も行ったという。利便性向上の陰には、ANAスタッフ一人ひとりの努力があったと言えるのだ。
33年目のベテランが ANAの若手に伝えたいこと 「一番嬉しかったのが、お客様から『ぐっすり眠れた』という感想をいただいたときですね。安定したフライトができたということですから」一方「悪天候のなかで何度も着陸を試みたが、安全を考慮して引き返した」というエピソードなど、長い操縦士生活においては様々な局面があったというが、椛沢にとって、フライトはおおむね“楽しいもの”だという。「私の場合は大自然が好きで、たとえば北海道の紋別や稚内、釧路といった雄大な自然を感じられる場所は特に、『ずっと飛んでいたい』と思うくらいですね」日々多くの時間をコックピットで過ごす操縦士だけに、好きでなければ務まらない仕事だという。だが“好き”だけでも当然務まらない。「機長に求められる資質は、最終的には緻密さと大胆さのバランスだと思います。安全に加え、効率も求められます。そのために普段どれだけ努力し、そしていざというときに何を優先すべきかの判断ができるかが大切ですね」加えて謙虚さも重要だ。「長く経験を積んでいくと、最終的には自然には勝てないという思いが強くなってきます。自然に対し、歯向かわずに仲良くしようというスタンスが、安全と快適なフライトにつながると思うんですよね」

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