ANA Professionals

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美しさと安全を追求し、夢と感動を与える機体塗装という職人の世界 ただ「美しければいい」というわけではない 空港を見渡すと、実に様々なデザインの飛行機が並んでいる。いろいろな航空会社が、独自性をもち、会社のイメージとしてのこだわりをもつ。特別塗装機などは、製造時に航空機メーカーが塗装してくれるわけではない。もちろんANAでも然り。そして飛行機の巨大キャンバスに描かれるのは、塗装に精通した整備士の驚くべきこだわりだった。文=吉州 正行  写真=小島 マサヒロ  #15 ANAベースメンテナンステクニクス 伊丹整備部 機体塗装課 主席 森本 保行

美しい機体をお客様に届けることで、安心感を感じてもらう 大阪、伊丹空港に面した巨大ドック内に鎮座しているのは、「ボンバルディアDHC8-Q400」。旅客機の中では小型の部類に入るプロペラ機とはいえ、間近で見るとその大きさに圧倒される。そして驚くのは、ビニールでマスキングされ、完全に無地であるということ。「定期整備の一環として、今回は古い塗装の表面を削り、平滑にしてから新しい塗装を重ねるオーバーコートです。しかし、部分的に古い塗装を落とし、アルミスキンにしたあと新しい塗装を施すリペイントもしています」この道24年のベテランである森本保行は語る。手順はこうだ。ペイントを専門の薬品で剥離、その後、腐食点検・除去など行い、外板の継ぎ目を塞ぐシーリングを施す。さらに機体のクリーニングを行い防錆塗料を塗る。そしてようやく今からANAカラーを塗る作業に入るという。「作業性、効率性がよい静電塗装機で塗料を吹き付けます。塗装の厚さは重要なファクターになり、厚く塗れば機体の重量に影響し、薄ければ本来の塗装の役目が早期に失われるため、細心の注意を払って作業しています」一度に塗り分けるのではなく、スプレーしたらマスキングを施し、順に重ねて塗る作業だという。 「特に注意しているのは、冬場と夏場、温度や湿度の高低で条件はかなり変わってきますので、技量はもちろん、経験やノウハウがものを言います。塗料の粘度や乾燥促進剤の比率を変えるなど、気を遣うところは多いですよ」
イメージ
プラモデル好きの少年が いつしか実物を手がけていた 塗装は見た目のためのものばかりではない。安全性にも直結するうえ、“法律”にも関わる部分だという。「たとえば翼の裏にある国籍マーク、非常脱出口の表示です。これらはすべて塗装で行います。航空法に定められて表示するものであり、かつ細かい作業なので、ことさら気を遣いますね」と言いつつも熱心かつ楽しそうに語るのは、森本は細かい作業が好きだからだろう。「小学校のころからプラモデルを作るのが大好きでして。飛行機や車を作っては、自分でオリジナルカラーに塗装していましたね。あるとき空港に飛行機を見に行く機会があって、いろいろな航空会社のデザインを見て、すごく興味を覚えたんです」塗装のみならず、手を加えて改造を施したり、ジオラマ作りにも熱中していたほど手先が器用だった森本にとって、機体塗装は得意分野を存分に生かせる仕事だったようだ。「でも最初のころは苦労も多かったですね。マニュアルに従いながらも、職人気質の雰囲気もあるので、『体で覚えろ』という感じで。先輩から言われるがままに一生懸命だったことを覚えています」
時代とルールが変わっても、受け継がれる根本の伝統 今や森本は、機体塗装課の主席という立場だ。といっても上から指示を出すのではなく、そこは今でも職人の世界。プレイングマネージャーとして手を動かす毎日である。「航空機という大きな面積を塗装するわけですから多人数での大掛かりな作業になります。ですから一人ひとりのスキルはもちろん、指示命令の確実性、時間管理、なによりチームワークの大切さが要求されます。チームで動かないと、あれだけ大きなものを決められた工期の中で仕上げることはできませんから。『ボーイング777』などの大型機では、作業工程にもよりますが、日々30〜40名が作業に当たります。彼らの作業安全管理はもちろんのことですが、日々の時間管理やチームのマネジメントも大切な仕事のひとつです。対話やコミュニケーションは特に大事ですね」「体で覚える」のが当たり前だった新人時代に比べ、マネジメントの手法は昔とはちょっと変わったというが、根底に流れているものは変わらないようだ。「作業の合間や休憩時間などに、雑談しながら仕事の振り返りを行うなど、私が若いころからある伝統は、確実に受け継がれていると思います」
伊丹だけでできる作業には、職人だからこそできる価値がある 塗装、マーキング、そして人材マネジメントと多岐にわたる業務の中、森本がひときわこだわりを持つ作業があるという。「やっぱりエアラインの顔であるANAのロゴの塗装ですね。会社の看板になる部分ですから。メンテナンスをする際にも、汚れていないか、剥がれていないか、すごく気を遣います」このような日常的な業務に加えて、特別な作業には思い入れと思い出があるという。「一番印象に残っているのが、1996年にスヌーピーを機体にペイントするプロジェクトを現業で任され終始携わったことです。準備段階から現場の作業責任者として携わり、苦労したことを覚えています。ほかにも『ポケモンジェット』や『STAR ALLIANCE』などもありましたね。通常4色なのが、スペシャルペイントの場合は35色程度というケースもあって、図面を見ながら皆集中して作業するんです」そんな作業の時は、「お客様に喜んでもらいたい」という熱意から、チームの団結も普段の塗装作業より気合も入りモチベーションも高まるのだとか。「ANAのスペシャルペイントは、すべて伊丹で手がけてきたんです。今も昔もANAの機体塗装作業においては、国内では伊丹のここでしか行われていないんです。それだけに今後は、ANA最新鋭機『ボーイング787』や開発中の『MRJ』等塗装の1号機として、手がけることが今一番楽しみにしていることです」

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